異世界迷宮でオリジナルハーレムを 作:獣人スキー
カッセルの朝は、宿屋『琥珀の月亭』の窓から差し込む、少し肌寒い光で始まった。
隣で眠る銀髪の少女――フェリルの柔らかな寝息を聞きながら、俺は意識の内に浮かぶ設定項目を操作していた。
(上がってるな。……これで運用の幅が広がる)
昨日の迷宮入りと、帰り際の野盗狩りの成果で、俺のメインジョブである「探索者」のレベルは10まで押し上げられていた。
この世界のボーナスポイント(BP)は、初期値の99にレベルアップ回数である9を足した、合計108。これが、今の俺が自由に割り振ることのできるリソースだ。
「……おはようございます、ご主人様」
俺の気配を察して、フェリルが銀色の睫毛を震わせた。
「ああ、おはよう。今日は昨日以上に効率を上げるぞ。……俺の『設定』を更新するからな」
設定?フェリルは一瞬、不思議そうに首を傾げた。主が時折口にするその言葉は、彼女の知るブラヒム語の語彙にはない、あるいは神殿の儀式でしか使われないような、ひどく抽象的で重い響きを持っていた。祈りか、それとも秘匿された魔術の類だろうか。
だが、彼女はそれ以上追及することなく、敬虔な信徒のように深く頭を垂れた。
俺は『キャラクター再設定』を呼び出し、今日の探索に向けた構成を組み上げる。
まず、聖剣デュランダルのために『武器六』を維持する。これで63ポイント。さらに、自分とフェリルのジョブを自在に操るための『ジョブ設定』『パーティージョブ設定』、そして効率を支える『詠唱省略』や『獲得経験値十倍』を並べていく。
【現在のBP配分(総計108)】
・武器六(聖剣デュランダル):63
・獲得経験値十倍:31
・キャラクター再設定:1
・鑑定:1
・ジョブ設定:1
・パーティージョブ設定:2
・詠唱短縮・省略:3
・セカンドジョブ:1
・サードジョブ:2
・ワープ:1
・MP回復速度上昇:1
・結晶化促進:1
サードジョブまでの枠を確保し、俺自身の構成を整える。
第一ジョブ:探索者
第二ジョブ:魔法使い
第三ジョブ:英雄
さらに、フェリルの状態を確認する。彼女はまだ「村人」Lv1だ。狼人族としての天性の資質はあるが、ジョブの補正がない今の状態では、迷宮の奥深くは荷が重い。
「ご主人様、身支度が整いました。いつでも行けます」
銀色の髪を揺らし、フェリルが凛とした表情で俺の前に立った。
「ああ。今日は二階層で徹底的に戦ってもらう。フェリル、お前の力を期待しているぞ」
「はい! 必ずや、お役に立ってみせます」
カッセル迷宮二階層。
入り口から一歩踏込むと、一階層とは異なる、ひんやりとした湿った空気が肌を撫でる。
通路の至るところには、奇妙にねじれた樹木――「針木(ニードルウッド)」が立ち並び、視界を遮っていた。地面は湿った土と腐葉土に覆われ、歩くたびに僅かな足音を吸い込んでいく。
「……来ます。左前方、三体。右の茂みの影に一体」
フェリルが小さく鼻を鳴らし、即座に敵の配置を読み切った。
狼人族の索敵能力は、エルフの俺の感覚をも上回る。彼女は空気の流れや、魔物が放つ僅かな臭いを鋭敏に察知していた。
「よし、左の三体はフェリルに任せる。右の一体は俺がやる」
俺は右側の影に潜む「グミスライム」へ掌を向けた。
言葉を介す必要はない。脳内で火の玉のイメージを構成した次の瞬間、掌の先から無音の火弾が撃ち出された。
知力と精神の補正が乗った一撃は、二階層の魔物にとっては抗いようのない破壊力だ。
一方、フェリルは三体のニードルウッドを相手に、しなやかな動きで翻弄していた。
「はっ!」
鋭い踏み込みから、敵が放つ鋭い枝の刺突を紙一重でかわす。
そのまま回転の勢いを乗せた手甲による一撃が、魔物の節を正確に砕いた。
武器を持たない素手での格闘。だが、彼女の攻撃には迷いがなく、狼人族特有の敏捷性が、ニードルウッドの鈍重な攻撃を完全に無効化していた。
(……いい動きだ。戦い方の筋が良い)
俺はデュランダルを抜き放ち、フェリルの援護に回る。
英雄の腕力補正を受けた一閃が、残る二体のウッドを纏めて断ち切った。
光の粒子が舞い、地面には『針木の枝』が数本転がる。
『経験値を獲得しました(×10)』
『レベルが上がりました』
脳内に響く快音。フェリルの体から一瞬、淡い光が溢れた。
「獲得経験値十倍」の恩恵は凄まじい。わずか数戦で、彼女のレベルは加速度的に跳ね上がっていく。
その後も、俺たちは二階層を奥へと進んだ。
通路を塞ぐウッドの群れを、俺の魔法が焼き払い、撃ち漏らした魔物をフェリルが仕留める。
フェリルの動きは戦いを重ねるごとに鋭さを増していた。単なる回避ではなく、敵の懐へ飛び込むタイミングを完全に掴んでいる。その戦いぶりを見守るたび、彼女への期待が確信に変わっていった。
探索開始から数時間が経過した頃。
「鑑定」でフェリルのステータスを確認すると、目的の数値に達していた。
名前:フェリル
ジョブ:村人 Lv5
「フェリル、少し止まれ。ジョブを書き換える」
俺は『パーティージョブ設定』の権能を意識した。
フェリルの持つ天職の可能性を、俺の手で選択する。
(村人Lv5……よし、「獣戦士」が解放されたな)
俺は彼女のファーストジョブを「獣戦士」へと変更した。
瞬間、フェリルの纏う空気が一変した。野性味が一段と増し、その四肢には鋼のような力が宿る。
「……あ、あれ? 何か、身体がすごく軽いです。力が、奥底から湧いてくるような……」
「お前が『獣戦士』になった証だ。そのジョブには専用のスキルがある。……試してみろ」
前方から、一際巨大なニードルウッドが現れた。
フェリルは鋭い呼気と共に地面を蹴った。
獣の咆哮を思わせる衝撃波を伴い、彼女の拳が魔物の胴体にめり込んだ。
堅牢な樹木の体が、まるで内側から爆発したかのように粉々に砕け散る。
「……すごい。これが、私の力……?」
「そうだ。その力があれば、これからの探索も捗るな」
「はい……! ありがとうございます、ご主人様!」
(何故、ご主人様の一言で、私の『ジョブ』までが変わってしまったのでしょう……。まるで、神殿の奥深くで執り行われる秘儀を、この場で、事も無げに済ませてしまったような……)
フェリルの銀色の瞳が、一瞬だけ俺を畏怖を込めてなぞった。だが、彼女はすぐにその疑念を心の奥底へと押し込んだ。奴隷である彼女にとって、主人が不可解なほどの力を持っていることは、疑問を抱くべきことではなく、ただ享受し、尽くすべき福音でしかないのだから。
俺は彼女の銀色の頭を撫で、足元に落ちた『黒魔結晶』を拾い上げた。
「結晶化促進」の恩恵により、今の数戦だけで魔石には赤を通り越し、紫に近い魔力がチャージされている。魔物100匹分に相当するその輝きは、この迷宮での着実な成果を物語っていた。
夕暮れ。俺たちはカッセルの街へと帰還した。
騎士団ギルドへ向かう直前、俺は人気のない路地裏で『キャラクター再設定』を開く。
戦闘用の「獲得経験値十倍」やフェリルの「パーティージョブ設定」を一度解除し、余ったBPをすべて『買取価格三十パーセント上昇』へと注ぎ込んだ。
そして、所持していた魔結晶同士を融合させた。
換金所のカウンターに、黃に染まった魔結晶とドロップアイテムの山を積む。
「……素晴らしい成果ですね! 合計で、215,000ナールになります!」
フェリルの成長という最大の収穫に加え、BPの振り替えによる莫大な利益。俺は潤沢な資金が入った革袋を手に、満足げに微笑んだ。
その夜、俺たちは『琥珀の月亭』の一階にある食堂の片隅で、ささやかな祝杯を挙げた。
テーブルの上には、じっくりと焼き上げられた猪の香草焼きと、地元の新鮮な野菜が並んでいる。さらに奮発して、冷えた上質な果実酒も注文した。
「フェリル、獣戦士への昇格おめでとう。……乾杯だ」
「はい、ご主人様……! 私、一生懸命がんばります」
フェリルは少し頬を赤く染めながら、俺と杯を合わせた。
フェリルは、震える手で杯を握りしめた。奴隷にとって、主人は絶対的な支配者だ。床で残飯を啜るのが当たり前の身分にとって、同じ目線で食事を共にし、さらに自分の成長を祝われるという出来事は、彼女の理解を遥かに超えた慈悲だった。銀色の瞳に、言葉にできないほどの感謝と、主への深い思慕が滲む。
口にする果実酒の甘さに目を丸くしながらも、彼女は幸せそうに料理を口に運んでいく。
「美味しいです……。こんなに素敵なものをいただけて、私、本当に……」
「お前の力が上がれば、俺の探索もそれだけ安全で効率的なものになる。これはそのための投資だ。……しっかり食べて、明日に備えてくれ」
「はい! ありがとうございます!」
銀髪を揺らし、尻尾を控えめに振るフェリルの姿を眺めながら、俺は確かな手応えを感じていた。
強力なジョブを重ねた俺と、天性の資質を開花させ始めたフェリル。この組み合わせなら、迷宮の攻略速度はさらに加速するはずだ。
都度、自分と仲間の構成を整え、一瞬の隙も作らずに利益と成長を吸い上げる。
BPという名の泉を使いこなし、俺は迷宮での歩みを、誰よりも淀みなく進めていった。
原作主人公のように奴隷を一般人のように扱うからなみたいな描写を入れいなかった気がするので現状フェリルは奴隷としての身の振り方をしています。