異世界迷宮でオリジナルハーレムを 作:獣人スキー
カッセルの朝は、昨日よりもさらに澄んだ空気で満たされていた。
俺は宿屋『琥珀の月亭』のベッドで、意識の内に浮かぶ設定項目を操作していた。
昨日の二階層での連戦により、メインジョブの「探索者」はLv12に達していた。
(BPは……110か。よし、今日は予定通り拠点を構えるぞ)
初期値99に、レベルアップ回数である11を足した、合計110。
俺は『キャラクター再設定』を呼び出し、戦闘用だった構成を、今日一日の「買い物」のために大胆に組み替える。
高額な買い物において最優先すべきは、1ナールを削り出すための交渉力だ。
【現在のBP配分(総計110)】
・三十パーセント値引:63
・キャラクター再設定:1
・鑑定:1
・ジョブ設定:1
・セカンドジョブ:1
・サードジョブ:2
・ワープ:1
・MP回復速度上昇:1
・腕力上昇:1
・体力上昇:1
・残余BP:37(知力・精神・敏捷に均等に割り振り)
第一ジョブ:探索者
第二ジョブ:商人
第三ジョブ:英雄
第二ジョブに据えた「商人」のパッシブスキル『カルク』は、計算能力をもたらす。
セットしている「三十パーセント値引」の効果を自動的に含めた「正解の価格」を、思考するまでもなく弾き出す。そして、このスキルで導き出された数字は、相手に疑問を挟ませない。
「……おはようございます、ご主人様. 今日は、お引越しですね」
フェリルが期待に満ちた瞳で俺を見つめる。
「ああ。まずはその前に格好を整えるぞ. お前の装備も、家に見合う上質なものに変えてやる」
俺たちはまず、カッセル随一の武具店『鉄の咆哮亭』を訪れた。
「鑑定」でフェリルの敏捷性を損なわず、かつ防御力の高い品を厳選する。
「これだ。
俺は店主へ、手入れ用の高級オイルをセットにしたまとめ買いの総額を問いかけた。
「……ふむ。これらをまとめてセットにするなら、そうだな。105,700ナールだ」
新しい白銀の鎧に身を包んだフェリルは、狼人族の力強さが際立つ、凛とした姿に変わっていた。
次に向かったのは、不動産ギルドだ。
俺が目をつけたのは、街の北区にある、元貴族が所有していたという二階建ての邸宅だった。
「こちらの物件は、防犯のために壁や床に『遮蔽セメント』が施されております. 外からの『ダンジョンウォーク』などを完全に遮断する仕様ですよ」
ギルドの職員が説明を続ける。
遮蔽セメントは空間転移を阻害するが、ボーナススキルの『ワープ』は、その遮蔽をも貫通する。
外からは誰も入れず、俺だけが自由に跳べる、鉄壁の拠点になる。
物件の価格は800,000ナール。
俺はさらに、カタログにある最高級の家具一式と、庭の長期管理サービスをセットにした総額を算出させた。
「この邸宅と家具、管理サービスをセットにした場合の価格を出してくれ」
職員は手元の書類を弾き、迷いのない口調で答えた。
「はい. セットでの総額は、612,500ナールになります」
事前の内見で邸宅の様子は既に目に焼き付けてある。遮蔽セメントの物々しい威圧感も、広いリビングの光景も、今や『ワープ』の有効な対象だ。
購入し、邸宅の権利書が俺の手に渡った。
俺たちは一度宿屋に戻って預けていた荷物を回収すると、人気のない場所を選んでから新居へと跳んだ。
『ワープ』――。
遮蔽セメント特有の重厚な気配が周囲を包んでいるが、俺の意識はその壁を容易く突き抜けていた。
(……おかしなことです。このお屋敷には、転移の術を阻む『遮蔽セメント』が施されているはず。それなのに、ご主人様はまるでもともと壁など存在しなかったかのように、軽々と踏み越えてしまわれました。本来なら、高名な魔法使いや神官ですら、この壁を越えることは叶わないはずなのに……)
フェリルの瞳に、隠しきれない困惑の色が走る。だが、彼女はすぐにその思考を振り払うように頭を振った。主の振るう力がこの世界の常識を遥かに超越していることを、彼女は既にその身で理解し始めている。
「……すごいです、ご主人様。こんなに立派な家が、私たちの……」
フェリルが夢見心地で廊下を歩く。
俺はアイテムボックスから、市場で買い込んできた大量の食材を取り出した。
「今日は外食じゃなく、ここで作るからフェリル手伝ってくれ」
「はい! 喜んで!」
新調した魔導コンロに火を入れ、上質な猪肉を和風のタレ――醤油に似た木の実の汁と生姜の合わせ調味料で焼き上げる。
キッチンに香ばしい香りが立ち込め、フェリルの銀色の尻尾が激しく揺れた。
「美味しい……! こんなに柔らかくて、温かいお料理、初めてです」
「ここが俺たちの家だ。これからは、好きな時に好きなものを食える」
フェリルは溢れそうになる涙を堪えながら、何度も頷いて肉を頬張った。
外敵は入る術を持たず、俺たちは迷宮から一瞬でここへ帰還できる。
窓の外には、カッセルの夜景が広がっている。
新調した風呂で汚れを落とした後、俺はフェリルを連れて、新しく買い揃えた最高級の羽毛ベッドへと腰を下ろした。
「フェリル、少し話がある」
「はい、ご主人様。何でしょうか」
隣に座るフェリルは、少し緊張した面持ちで俺を見つめる。
俺は、彼女が今日一日抱いていたであろう疑問――俺の不可解な力について、ある程度の説明をしておくことにした。
「お前も薄々感じているだろうが、俺には特殊な権能がある。一度訪れた場所に瞬時に跳ぶ『ワープ』、そして自分や仲間の能力を自由自在に組み替える『キャラクター再設定』。……今日、お前のジョブを獣戦士に変えたのも、この力によるものだ」
「……やはり、そうだったのですね。神殿にも寄らずにジョブを授けるなど、本来ならあり得ないことですから……」
フェリルは銀色の瞳を大きく見開き、改めて俺という存在の異質さを噛み締めているようだった。
「この力については、他言無用だ。……そして、もう一つ。この家の中では、奴隷としての卑屈な振る舞いはやめてくれ」
「え……? それは、どういうことでしょうか」
俺は驚く彼女の肩に手を置いた。
「俺は、お前をただの便利な道具だとは思っていない。迷宮では背中を預けるパートナーであり、この家では安らぎを共にする家族だ。食事の時も、こうして寛ぐ時も、一人の女の子として振る舞っていい。……無理に自分を卑下する必要はないんだ」
原作のミチオもそうだった。奴隷という契約形式は、この世界で効率的に生きるための手段に過ぎない。俺が求めているのは、命令に従うだけの木偶ではなく、心を通わせ、共に笑い合えるハーレムの仲間なのだ。
「ご主人様……。私のような者に、これほどの慈悲を……」
フェリルの瞳に涙が溜まり、やがて頬を伝って落ちた。
「ありがとうございます。……私、フェリルは、ご主人様のために、この心も、この体も、すべてを捧げることを改めて誓います」
「ああ。期待しているぞ、フェリル」
[考察エラー:新居での最初の夜。主従という枠を超えた信頼関係の深化、および精神的・肉体的な同期プロセスにつき詳細描写を省略]
清潔なベッドの感触。
宿屋のそれとは違う、確かな拠点の安心感に包まれながら、俺は次の攻略への手順を静かに練り上げた。