皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第一章 ジュニア編 その1 トレセン学園入学──新入生シンボリルフドルフ(前編)

「ルドルフちゃん!」

名を呼ばれたウマ娘が振り向く。

青を基調としたセーラー服に、胸元の白い大きなリボン。

蹄鉄を模したブローチが光を受けてきらりと揺れた。

シンボリルドルフの横にはレンガの門柱。

『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』の金看板が輝き、

その隣には「入学式」と達筆で書かれた白い立て看板が立つ。

遅咲きの桜が舞うなか、声の主へとルドルフは振り返った。

「マルゼンスキーさん」

紫の瞳に映るのは、制服を着慣れた先輩ウマ娘。

“スーパーカー”の異名を持つ名ウマ娘だ。

「入学、おめでとう!」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

差し出された手をしっかり握る。

その熱に、マルゼンも満足げに微笑んだ。

入学前よりルドルフの身体は一回り大きくなり、

鹿毛の髪は艶を増していた。

「寮の部屋、シンボリフレンドと同じだそうよ」

「ええ……願ったりです」

マルゼンはその答えに、そっと目を細めた。

フレンドの不幸を知っているが、ルドルフ同様、胸にしまっている。

姉が海を渡った翌日、ルドルフは泣くのをやめた。

悲しみを冷静に包み隠すように――

まるで、大人びた我慢のように。

周囲は安心しつつも、内心ではハラハラしていた。

マルゼンスキーもその一人だ。

学園の門前には、新入生を迎える先輩や家族が多く集まっている。

それぞれのプライドと理性が働き、場の空気は張り詰めていた。

「ふふ、先輩としてみっちり仕込んであげるわよ」

マルゼンが冗談めかして言うと、

ルドルフは周囲をぐるりと見渡し、不敵な笑みを返した。

その時――

遠くから、尋常ではない足音が迫ってきた。

「ウマ娘……?」

府中駅方面から、タイトスカートの女性が爆走してくる。

グリーンのスーツをはち切れんばかりに腕を振り、

長い脚が地面を叩くたび、風が巻き起こる。

「速い!」

マルゼンが感嘆の声を上げた。

現役の『トゥインクル・レース』でも滅多に見られないペースだ。

周囲もざわつき始める。

「あれは……」

マルゼンが額に手をかざし、目を凝らす。

ルドルフは腕を組み、堂々と待ち構えた。

そして――

走ってきたウマ娘が急停止する。

「スピードシンボリさん」

「おお、マルゼンスキーか?」

千両役者のように、スピードシンボリはマルゼンの肩を叩いた。

周囲は騒然となる。

「本物!?」「有馬記念連覇の……!」

「GⅠ四勝、重賞十二勝の伝説……!」

「海外遠征もしたんだろ……!」

だが本人は意に介さず、息も乱れていない。

そして、横目でルドルフを見る。

「『ルナ』か?」

「ここでも私を『ルナ』と呼ぶのですね」

「親しい者だけが呼べる幼名だよ」

スピードは言い訳めいた声で笑い、

ルドルフの右耳にそっと触れた。

「エメラルドが、よく似合っている」

深緑に輝く五角形の宝石。

“シンボリ”のハウスカラーだ。

「我らの守り石さ」

マルゼンも頷く。

これは『御大』からの贈り物――

値段などつけようがない。

ルドルフは少し頬を赤らめ、下を向いた。

そして、意を決して顔を上げる。

「この、シンボリルドルフ」

強い決意を宿した瞳が、二人の先輩を捉える。

「不惜身命の覚悟で、このトレセン学園……

『トゥインクル・レース』を駆け抜けていきます!」

ルドルフは右手で髪を払った。

新たな第一歩を刻むように。

「行きましょう。入学式の時間ですよね」

「そうだな。新入生総代としての決意表明……

それが“ルナ”の最初の仕事だ」

「シンボリルドルフです」

真顔で訂正する。

その名は、かつて神聖ローマ帝国を統べた皇帝の名。

やがて彼女も“皇帝”と呼ばれる存在になる。

マルゼンとスピードが顔を見合わせ、微笑む。

「私もサブトレーナーとして、本拠地との連絡係として動くわ」

「『御大』は本気だ」

スピードが真顔で告げる。

その意味をルドルフが理解するのは、もう少し先のことだった。

「行きましょう」

ルドルフは並木道へ踏み出した。

その後ろに、二人の名ウマ娘が続く。

その姿を見つめる影があった。

真新しい制服を着た、栗毛の大柄なウマ娘。

「あれが……シンボリルドルフ」

鋭い視線が、ルドルフの背中を追う。

両脇にはマルゼンとスピード――まるで従者のように。

「なるほど。皇帝という異名も伊達じゃないわけね」

栗毛のウマ娘は、いつまでもその背中を見つめていた。

こうして、トレセン学園を舞台に

新たなウマ娘たちの物語が幕を開ける。

 

 

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