皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第一章 ジュニア編 その1 トレセン学園入学──新入生シンボリルフドルフ(後編)

トレセン学園は学び舎でもある。

中学・高校の授業が行われ、普通の学校と変わらない。

ただし、トゥインクル・レース関連の科目があるのが特徴だ。

少女たちが集まれば、賑やかになるのも同じ。

友情も、衝突も、利害も――

ウマ娘たちの世界にも渦巻いている。

「ねえ、君。シンボリルドルフ、だよね」

朝、教室に入った瞬間、声をかけられた。

最前列の自席に座ろうとしたところだ。

「私、ホッカイペガサス。よろしくね」

葦毛だが鹿毛の色が残る短い髪が揺れる。

隣のウマ娘を肘で促す。

「あ、あの……イズモランドです……」

栗毛のボブに流星が入った、控えめな娘だ。

「うん、シンボリルドルフだ。よろしく頼む」

エメラルドの髪飾りが光る。

「うわぁ……新入生総代で、生徒会長に選ばれたんだよね!」

ペガサスが興奮気味に言う。

「私たち、東条トレーナーのチームに入ることにしたの」

白い歯を見せて笑う。

「そうなんです。だから、ご挨拶を……」

イズモがモジモジと手を組む。

二人ともスタミナ型の長距離タイプに見える。

東条がルドルフの距離適性を補うために選んだのだろう。

だが、ルドルフは表情を変えずに言った。

「申し訳ないが、どのチームに入るかは決めていないんだ」

二人が同時に「えっ!」と声を上げる。

「東条トレーナーとはコンタクトしていないし」

「えええっ!?」

ペガサスとイズモは唖然とした。

「だって……東条さんはスピードシンボリ先輩のサブトレーナーだったんだよ?」

「ご縁のある方でしょうに……」

二人は困惑を隠せない。

「スピードさんに憧れて……私たち、チーム東条に入ったの」

「国内も海外も走った、あのタフなウマ娘の……!」

二人は「なぜ?」と目で問い詰める。

「東条トレーナー、いい人じゃないか!」

「ウマ娘に真摯で、熱心な方ですよ!」

そこまで言われ、ルドルフは苦い笑みを浮かべた。

「でも……まだ考え中だよ」

「シンボリフレンド先輩――君のお姉さんのトレーナーだったのに?」

その言葉に、ルドルフの表情が曇る。

怒りとも悲しみともつかない影が落ち、

イズモはペガサスの後ろに隠れた。

教室の空気がざわつき始めた、その時。

ガラリ。

「ルドルフ、話がある」

『スピードシンボリさん!?』

ペガサスとイズモが悲鳴のような声を上げる。

「東条トレーナーと話があってな。学園に来たというわけだ」

スピードは二人に軽く会釈し、

ルドルフへ鋭い視線を向けた。

「ついて来い」

ルドルフは仕方なく立ち上がり、後を追う。

廊下に出ると、スピードは前置きなく切り出した。

「マルゼンスキーが心配していたぞ」

選抜レースを無視し、トレーナーの話も聞かない。

「もう四月も半ばだ。夏には新バ戦が始まる」

スピードの声が低くなる。

「今、チームを決めなければデビューできない。

そんなことは分かっているはずだ」

ルドルフは唇を噛み、黙って聞く。

「フレンドの件……気持ちは分かる」

優しさが混じる。

だが――

「だが、お前は聡明だ。

何を為すべきか、姉が何を望むのか……分かっているはずだ」

スピードの声が鋭くなる。

「別に東条でなくてもいい。チームを決めろ」

重い言葉が落ちる。

「いいか。一週間以内だ。

決められなければ、トレセン学園にいる意味はない。

やめてもいいんだぞ」

ルドルフは逃げられなかった。

「……分かりました。選抜レースに出走します」

スピードは黙って背を向けた。

ルドルフも逆方向へ歩き出す。

二人は袂を分かつように、別々の道を進んだ。

――波乱の予感を孕んだ、第一章の幕開けだった。

 

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