皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第一章ジュニア編 その2 トレーナーは誰?(PART3)──チーム宮園

「まさか、君からチームルームに来てくれるなんて思わなかったよ」

宮園トレーナーは、テンガロンハットの鍔を指で弾き、望外の喜びを隠さなかった。

快晴の春日和。トレーニングコースに柔らかな光が差し、彼の笑みも明るい。

その隣で、赤いジャージ姿のウマ娘が驚きの声を上げる。

「いやぁ、ルドルフとチームメイトなんてね!」

ビゼンニシキは高揚した声で歓迎を示した。

その二人の前に、同じジャージ姿のシンボリルドルフが立つ。

「まあ……仮入部みたいな感じですが」

控えめに言っても、宮園もビゼンも満面の笑み。

このまま正式加入すると信じて疑わない顔つきだった。

「チームに属さないと、トゥインクル・シリーズに出走できませんから」

「目指すレースはあるのか?」

宮園は指を折りながら、朝日杯、皐月賞……と数えていく。

「やっぱり、ダービーか?」

ルドルフは表情を読まれぬように視線を落とし、そして静かに答えた。

「まあ、どのウマ娘も目標とするレースですね。ダービーは……」

クラシック三冠――皐月賞、東京優駿(日本ダービー)、菊花賞。

その中でも最高峰とされるのが、東京優駿。

その名を口にした瞬間、ルドルフの脳裏に東条の姿が浮かんだ。

千葉の『本拠地』で初めて会った時。

車に轢かれそうになりながらも、必死に追ってきたあの少年のような表情。

(……なぜ、東条トレーナーが)

ルドルフはそのイメージを振り払うように頭を振った。

「まずは、新バ戦に勝ちたいですね」

気を取り直し、顔を上げる。

「新入生総代にして、生徒会長。その君にしては、ずいぶん控えめな望みだな」

宮園が首を傾げる。

「ま、実力を見極めたいわね」

ビゼンは屈伸運動を始め、ルドルフもそれに合わせる。

「覚えてる? 初めての出会い」

栗毛の髪が上下に揺れ、ビゼンが問いかける。

ルドルフはもちろん覚えていた。一度見た顔は忘れない。

(フレンド姉さんが京王杯を勝った時……東京レース場だ)

だが、それは胸の内に留めた。

宮園が二人に指示を出し、ビゼンはルドルフの手を取り、ブリッジを作って引き合う。

「うん。鹿毛が綺麗で、聡明なウマ娘だって思った。絶対、この娘は走るって」

ルドルフはビゼンの力強さに感心しながら聞いていた。

「美しくて、能力が高いなんて最高よ。トレセン学園に入ったら、絶対友達になろうって思ってた」

大柄でエネルギッシュなウマ娘が、繊細にはにかむように言う。

確かにビゼンはルドルフに対して警戒心を見せていたが、それは“友達になりたい”という願望の裏返しだった。

「だから、こうしてルドルフとチームメイトでストレッチするなんて……夢みたい」

手のひらから伝わる興奮と喜び。

ルドルフも、ビゼンのような能力の高いウマ娘に慕われるのは悪くないと思っていた。

「よし、準備体操を終えたらランニング行くぞ!」

宮園の声が弾む。

「ほら、ルドルフ。併走しよ!」

ビゼンに手を引かれ、トラックのスタート地点へ向かう。

二人は肩を並べて構えた。

「GO!」

ビゼンはテンから全力で飛ばした。

フルスピードへ一気に加速し、ルドルフも遅れまいと追う。

「ランニングではないのか?」

「私たち、ウマ娘でしょ?」

ビゼンの笑い声が弾む。

ルドルフも仕方なく速度を上げ、並びかけた。

「おお、ビゼンのスピードに負けていない。さすがだな」

宮園の声が飛ぶ。

だが、ルドルフの胸には別の疑問が浮かんでいた。

(確かにビゼンと走ればスピードは磨かれる……

でも、スタミナはどうつける?)

ダービーは2400メートル。

菊花賞は3000メートル。

クラシックを勝つには、スタミナが不可欠だ。

(このトレーニングで、長距離を走る力は身につくのか……?)

考え込んだ瞬間、宮園の檄が飛ぶ。

「ルドルフ! 走りに集中しろ! 手をしっかり振り切って!」

的確な指示。

宮園は優秀なトレーナーだ――それは間違いない。

ルドルフはビゼンを標的にし、再び集中した。

「うおおおおっ!」

「いやあああっ!」

二人は併走し、同時にフィニッシュラインを駆け抜けた。

巡航速度に落とし、宮園の元へ戻る。

「どうだ、ウチに入らないか?」

宮園の誘いに、ルドルフの耳がピクリと動く。

彼女はトラックを見つめ、息を整えた。

そして宮園へ向き直り、静かに宣言する。

「それなら……三日後に覚悟をお示しください。そこで決めます」

しっかりとした口調だった。

一礼し、踵を返す。

スタスタと歩き去る背中に、ビゼンの声が届く。

「おーい、またなー!」

明るく誘うような声。

だが今のルドルフには、その明るさが少しだけ疎ましかった。

 

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