皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第一章ジュニア編 その3 君の走りをもっとみたい!(後編)──ルドルフの選択

そして、その日がやってきた。

シンボリルドルフがトレーナーを決める、運命の日。

東条はふと空を仰いだ。

晴れ渡る午後の空が、まるで“審判”を下そうとしているようだった。

トレセン学園のグラウンドに、

二人の男と二人のウマ娘が集う。

誰もが引き締まった表情をしていた。

「それでは、トレーナー候補諸君。三日前と同じことを、君たちに問いたい!」

ルドルフは四人の顔を順に見据えた。

「私は、誰もが認める頂点となり、あらゆるウマ娘を導きたい」

その理想を共に追うパートナーを探している――

そう宣言する声は、揺るぎなかった。

東条は緊張を飲み込む。

隣の宮園は腕を組み、余裕たっぷりに胸を張っている。

“自分が選ばれる”と信じ切っている顔だ。

そして、その隣に立つウマ娘――

すらりとしたパンツスーツ姿の美女に、東条は声を震わせた。

「スピードシンボリさん……なぜここに?」

「あら、いけなくて? 私もトレーナー候補よ」

URAの現役幹部。

トレーナーになるなど造作もない――

そう笑ってみせる。

「おお、怖い。スピードさんに本気を出されたら辛いなぁ」

宮園が冗談めかして言う。

「私はいつでも本気よ。ルドルフと一緒に“必ず歩む”ことができる」

スピードはスマートフォンを取り出し、

ルドルフの走りを研究したデータを見せた。

「まあ、スーさんなら間違いないな」

ルドルフは満足げに頷く。

「いや待て、俺は“必ず強くする”さ」

宮園が一歩前へ出た。

「三年間の育成計画もある。勝利を掴ませるために来たんだ」

そして、指を鳴らす。

「なにより、競い合うライバルが身近にいる」

「ビゼンニシキか」

「ご名答」

息を弾ませたビゼンに、宮園はウインクを返す。

「あいつは走るぜぇ。お前さんのライバルになるウマ娘だ」

確かにビゼンは強い。

ルドルフと互角に走れるほどの器。

日々のトレーニングで互いを高め合える――

宮園はそう主張した。

ルドルフの頬がわずかに紅潮する。

ビゼンを好ましく思っている証だった。

そして東条は――

俯き、口を結んだまま動けなかった。

二人の覚悟に気圧されたのもある。

失敗し、揶揄されるのが怖かった。

だが何より――

確信が持てなかった。

「どうした、東条トレーナー。覚悟を示して頂きたい……」

ルドルフの声は、助け舟にも、切迫にも聞こえた。

だが東条は動かない。

ルドルフの表情から光が消え始める。

宮園は含み笑いを浮かべ、

スピードは心配そうに眉を寄せた。

「言えないなら……ここまでということにしますか」

ルドルフの冷たい言葉に、東条の胸が跳ねた。

――終わるのか?

――ここで?

焦りと絶望が口元を歪める。

だが、声は出ない。

その時――

内ポケットで紙が擦れる音がした。

東条はハッとし、表情に決意が宿る。

「……答えがないなら、終わりに――」

「待って!」

東条は胸に手を突っ込み、大声で時を止めた。

その真摯な響きに、三人の視線が吸い寄せられる。

「これが、私の答えだ」

太陽の光を浴びる一枚の写真。

「写真? それが何か……?」

ルドルフは首を傾げる。

東条は深く息を吸い、本音をさらけ出した。

「君の走りを……もっと見たいんだ」

それは、心の底からの願いだった。

写真には、

落ち込むウマ娘を励ました時のルドルフの笑顔が写っていた。

マルゼンスキーと共に、誰かを救ったあの瞬間の笑顔。

「君の笑顔を、私は一緒に作っていきたい」

東条は胸を叩いた。

ルドルフは写真を手に取り、

そっと撫でながら微笑んだ。

「……そうだな」

東条は続けた。

「お母さんとお姉さんのことは……申し訳ないと思っている」

その言葉に、ルドルフとスピードの表情が強張る。

「だけど、みんな精一杯だった。必死で……でも結果が出なかった」

「だけど、君は違う。絶対に結果を出す。出してみせる」

スピードが問う。

「その根拠は?」

東条は迷わず答えた。

「お母さんは命がけで君たちを守った。

フレンドも、全てのウマ娘の幸せを願って走った。

その想いは……君の中に生きている」

ルドルフは二度も最愛の家族を失った。

その悲しみを背負っている。

だからこそ――

東条は言った。

「フレンドは志半ばで去った。

だけど、夢は生きている。

シンボリルドルフ――君がいるじゃないか」

東条はルドルフの胸を指差した。

「その夢を実現するために、私は君を支える。

体調も、メンタルも、全部ケアする。

絶好調じゃなくていい。

“普通”で走ればいいんだ」

「普通……」

ルドルフは顎に手を当て、考え込む。

やがて、静かに頷いた。

――姉フレンドも、絶好調だと気負いすぎて体調を崩した。

――その特性を理解している。

東条はそれを見抜いていた。

東条は息を整え、ルドルフの判断を待つ。

「……なるほど、分かりました」

ルドルフは薄く笑い、はにかむように下を向いた。

そして透明な瞳で東条を見つめる。

「私と同じ視座に立ってくれた。それが……予想以上に嬉しかった」

静かに語り始める。

「私が目指すのは、あらゆるウマ娘が幸せでいられる世界だ。

青い夢だと笑われるかもしれない。

だが、君は同じ景色を見たいと言ってくれた。

……心が温かくなったよ」

東条の顔に笑みが咲いた。

宮園は「やられた」と苦笑し、

スピードは満足げに腕を組んだ。

「こちらこそ、選んでくれてありがとう」

ルドルフは丁寧に頭を下げた。

「そんな、そこまでしなくても」

東条は慌てて手を差し出す。

「では、改めて決意表明といこうか」

二人の瞳に力が宿る。

「私はシンボリルドルフ。

あらゆるウマ娘が幸福に過ごせる世界を創るため、ここに立っている」

胸を張り、誇らしげに宣言する。

「だが、夢を語るだけでは誰も耳を貸さない。

評価と実績が必要だ。

故に私が目指すのは頂点――

皆を率いるに相応しい、王の座。

学園の生徒会長だ」

そして東条の両手を握った。

「トレーナー君! 私と組んでもらえるだろうか」

「もちろんだとも」

即答だった。

「それでは、シンボリルドルフ。栄光を始めるとしよう」

宮園とスピードが拍手を送る。

祝福のシャワーが降り注ぐ。

ルドルフは――

写真に負けないほどの、最高の笑顔を見せた。

 

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