皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第一章ジュニア編 その4 シンボリルドルフ、始動!──チーム東条、ホッカイペガサスとイズモランド

「シンボリルドルフです」

自ら名を告げたウマ娘は、聡明な瞳を誇らしげに輝かせ、胸を張って立っていた。

「ようこそ。トレーナーの東条だ」

チームルームには、東条と三人の新人ウマ娘が集まっていた。

赤い学園ジャージに身を包み、テーブルを囲む。

壁にはURAのレース告知ポスター、白板にはスケジュール、ロッカー、そして中央にはレース観戦用モニター。

初めてのチームルームに緊張する新入生が多い中、

ルドルフだけは異彩を放っていた。

「私をトレーナーに選んでくれてありがとう」

「選ぶなんて、失礼しました。ええ……姉フレンドを鍛えた貴方にお世話になると決めました」

二人は握手を交わした。

それは“トレーナーと担当ウマ娘”というより、

同じ理想を目指すパートナーの握手だった。

他のウマ娘たちは、何事かと目を丸くしている。

「じゃあ、君たちも自己紹介を」

東条に促され、二人が緊張しながら名乗る。

「ホッカイペガサスです!」

力強く右腕を上げる。

「イズモランドです……」

栗毛のボブを揺らし、控えめに頭を下げた。

「よろしく頼む」

ルドルフが一礼すると、

「改めてだけど、仲良くしようね」と返ってきた。

その時、ドアがノックされる。

東条の許可とともに、石上サブトレーナーが顔を覗かせた。

「準備、できました」

「よし。みんなで軽く走ってみよう!」

「はい!」

三人の元気な返事に、東条も満足げに頷いた。

 

夏の新バ戦まで数か月。

クラシックを目指す若きウマ娘たちの戦いは、すでに始まっている。

外へ出ると、赤いジャージ姿のウマ娘たちが柔軟体操をしていた。

「まずはメイントラックを一周してみよう」

東条は気軽に声をかける。

緊張をほぐすためだ。

ルドルフは平然として歩き出すが、

ペガサスとイズモは動きがぎこちない。

選抜レースで圧勝したルドルフと走るのが怖いのだろう。

そのアンバランスさに、東条は思わず笑いを堪えた。

四月の芝生は鮮やかな緑。

新入生を歓迎するように輝いていた。

 

「じゃあ、イズモランドから」

呼ばれたイズモは小さく返事し、ぎこちなくターフへ入る。

「スタート!」

石上の声と同時に、イズモは手足をバラバラに動かし、つんのめりそうになる。

だが、必死にバランスを取り、加速していく。

スピードは平凡。

だが――

「なるほど。タフそうなウマ娘ですね」

ルドルフは顎に手を当て、感心した。

「ああ、晩成型だ。身体もまだ子供っぽいし、走りも緩い。

だが、将来は何十戦も走れるポテンシャルがある」

東条の解説の先で、イズモは苦しい声を上げながらも粘り続ける。

「あああぁぁ……!」

減速しそうになりながらも、諦めない。

愚直に走り切り、息絶え絶えにフィニッシュ。

「はい、お疲れさん」

東条が労うと、イズモは前に倒れそうになり、石上が慌てて支えた。

 

「じゃあ、ホッカイペガサス!」

「はい!」

鋭い目つきで構え、東条の合図とともにダッシュ。

トップスピードはスプリンターほどではないが、

一定の速度を淡々と刻む。

「ふっ、ふっ、ふっ……」

呼吸を合わせ、テンポよく走る。

スピードが落ちない。

まさにステイヤーの走り。

「スタミナが豊富ですね」

ルドルフが腕を組む。

「ちょっとやそっとじゃ音を上げないタイプだな」

東条も頷く。

ペガサスはペースを守り切り、フィニッシュ。

両膝に手をつき、呼吸を整えた。

 

「じゃあ、シンボリルドルフ。試走してみて」

待っていた、とばかりにルドルフの瞳が輝く。

「はい」

スタート地点で身構え――

「GO!」

ダッシュが完璧に決まる。

手足の動きは滑らかで、軽やかにスピードを増す。

そして――

「はああああぁぁ!」

気合一閃。

脚の蹴りは鋭く、重厚で、それでいて速い。

春風を切り裂き、赤いジャージがターフを駆ける。

「うわ……」

ペガサスが口を窄める。

「凄い……」

イズモが震える声を漏らす。

二人は羨望の眼差しで同期の走りを見つめた。

「ペガサス、イズモ。君たちも同じチームの仲間だ。

ルドルフの走りを見て、どう感じる?」

東条は二人の肩に手を置き、前を見ろと促す。

ルドルフの走りは優雅で軽い。

だが、実際は驚異的なピッチでスピードが乗っている。

「まさに“跳ね上がるウマ娘”だな」

東条はイタリアの高級スポーツカーのエンブレムに例えた。

 

ルドルフがフィニッシュすると、東条が声を上げた。

「よし、いい走りだ! この内容なら夏にデビューできそうだな」

ルドルフは平然と息を整える。

その回復の早さに、二人の羨望が深まる。

「ランドとペガサス。もう一本走ってみるか?」

二人は目を合わせ、力強く頷いた。

「じゃあ」

「いくよっ!」

スタミナ型の二人は、少しの休憩で回復していた。

互いに火花を散らしながら走り出す。

「ほう、お前さんに負けない、いい走りだぞ」

東条が目を細める。

「いい仲間は、張り合いになります」

ルドルフが爽やかに言うと、東条は真剣な表情に戻った。

「だが、能力と仕上がりは……正直、君が上だ」

そして、正面を向き直り告げる。

「シンボリルドルフ。夏の新潟、新バ戦でデビューするぞ」

「はい」

春風が二人の間を抜け、熱を帯びた覚悟が漂った。

 

「スピードシンボリも、早めのレースを考えていたよ」

クラシックを目指すなら秋デビューが一般的。

だが、ルドルフは“並み”ではない。

姉フレンドも夏の札幌で初勝利を挙げた。

ルドルフもまた、早期デビューが似合う。

東条はコースを見つめながら言った。

「そう。君は彼女たちの先導役だ」

ペガサスとイズモが三、四コーナーを懸命に走る。

どちらも負けたくないという表情。

「ペガサスさん、外から抜かれないように!

イズモさん、食らいついて!」

石上が声を張る。

東条は微笑み、ルドルフの腕を軽く叩いた。

「頑張れよ」

「ええ、勝ちます」

ルドルフの言葉は、春の太陽に突き刺さるようだった。

 

「ルドルフ。私ももう一度、一から出直しなのだよ」

東条は静かに語る。

若き日はスピードシンボリに携わり、

数多の重賞ウマ娘を育てた。

だが、フレンドには不幸が襲い、

三月にはチームのウマ娘たちが卒業した。

今や、

ペガサス、イズモ、そしてルドルフでチームを立て直す。

「夢を見たいんだ。クラシック制覇の」

ルドルフは黙って聞いていた。

「スピードが、そしてフレンドがなし得なかったレースを獲りたいんだ」

「それは、私も同じですよ。東条トレーナー」

二人の瞳に力が宿る。

 

コースではペガサスとイズモが競り合い、

負けたくないという気迫を見せていた。

ルドルフはその姿を見つめ、胸の内で呟く。

(この三人でトレーニングの日々か……

時が過ぎるのは、あっという間かもしれないな)

春が終われば梅雨。

そして、朱炎の夏が来る。

夏の新バ戦――

そこが、ルドルフの“修羅場”の初舞台となる。

疾風怒濤のウマ娘人生が、今、始まろうとしていた。

 

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