皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第二章三冠編 その4 弥生賞──激突、ビゼンニシキ!(後編)

残り400メートル。

ルドルフが悠然と先頭へ。

ビゼンの闘志が爆ぜる。

「やってやる!!」

踏み込んだ瞬間――

ビゼンの大きな身体が内へ刺さる。

重戦車のような勢いで、ルドルフへ倒れ込む。

「危ない!!」

東条が立ち上がり、スピードの顔が青ざめる。

ルドルフはステップで避けようとするが――

二人の脚が交差した。

「マズイ!」

スピードが駆け出し、東条も追う。

 

「くっ……!」

ルドルフが顔を歪める。

(左脚……やられたか?)

だが――

(気にしている暇はない!)

闘志をむき出しにし、左肩を外に張る。

ビゼンも必死に追う。

二人はクロスした後、進路を変え、並んで走る。

「ルドルフ、負けたくない……あなたには!」

「ああ、勝つつもりさ。君にはね」

だが、ルドルフの脚は明らかに鋭さを欠いていた。

(やはり……異変が……)

残り100メートル。

「いやあああ!」

気力でギアが噛み合う。

胸を張り、手足を振り切る。

ビゼンも食らいつくが――

ルドルフの末脚が、さらに伸びた。

「そんな……追いつけないなんて……!」

勝負あり。

ルドルフがビゼンを競り落とし、ゴールへ飛び込んだ。

 

ゴール直前、ルドルフは息を抜いた。

余計な力を使わない、皇帝の判断。

一バ身四分の三差。

タイムは2分1秒7。

春先の芝を考えれば、優秀な時計だ。

ビゼンは悔しげに唇を噛み、背を向ける。

勝者と敗者――二つの世界が分かれた。

ルドルフも帰ろうとするが――

足が動かない。

違和感。

痛み。

そこへ――

「ルナ!!」

スピードシンボリが駆けつけた。

視線が左脚へ落ちる。

ひざ下――鮮血。

「ビゼンに……坂下でのっかけられた」

ルドルフが呟く。

東条が到着し、すぐに触診。

「骨は大丈夫だ。走るには支障ない。すぐテーピングする」

包帯を巻きながら、低く呟く。

「もっと強く当たっていたら……折れていたぞ」

怒りが滲む。

スピードはルドルフの肩を抱く。

「ルナ、肩を貸すよ」

「大丈夫です」

「念のためだよ」

二人三脚で歩きながら、スピードが言う。

「ゴール前の伸び……私のラストスパートに似ていたよ」

ルドルフは静かに頷いた。

クラシック戦線は始まったばかり。

皐月賞、ダービー、菊花賞――

長く、過酷な道が待っている。

(フレンド姉さん……見ていてください)

ルドルフは、胸の奥でそう呟いた。

 

三日間の静養。

精密検査は問題なし。

明日から運動再開だ。

夕方、ドアがノックされる。

「マルゼンスキーさん……」

冬制服の先輩が入ってくる。

「元気そうでよかった」

ルドルフはストレッチをやめ、姿勢を正す。

「ビゼンニシキの方は?」

「トレーナーさんに怒られたみたい。でも、もう切り替えてるわ。

今月、スプリングステークスを使うって」

「勝つでしょうね」

ルドルフは淡々と答える。

マルゼンは部屋を見渡す。

空になったベッド。

何も置かれていない机。

――ここには、かつてシンボリフレンドがいた。

「皐月賞のことなんだけど」

ルドルフの耳が動く。

「あなたには、フレンドとは別の道を歩んでほしい」

「それは……どういう意味ですか?」

「誰もが幸せになる世界。

あなたはそれを目指しているんでしょう?」

ルドルフの胸が熱くなる。

「ここにはフレンドがいた。

でも、今は跡形もない」

マルゼンは静かに言う。

「だけど、彼女の想いは紡げるわ」

ルドルフの目が潤む。

「フレンド姉さんの……想い……」

「そう。

弥生賞であなたが故障しなかったのは、フレンドが守ったのかもしれない」

ルドルフは涙を堪え、深く息を吸う。

そして――

「ええ。皐月賞は絶対に勝ちます!」

マルゼンは満足げに頷く。

「その意気よ。

まずは食事、しっかり摂りなさい」

ルドルフは微笑む。

皇帝は、皐月賞で――

クラシック三冠の第一冠を戴く。

その覚悟が、胸に刻まれた。

 

 

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