皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第二章三冠編  その7 東京優駿(PART2)──ルドルフの想い

場内がざわめき始めた。無責任な外野の声が大きくなる。

だが、シンボリルドルフは対照的にクールだった。焦りを押し込み、まずは呼吸を整える。レースを組み立て直すためだ。

(さて、どうしたものか……)

絶体絶命のピンチ。それなのに、頬がわずかに緩む。

諦めたのか? 自問自答がよぎる。

(……こういう時ほど、妙に心が澄む)

自分で結論づける。

前方ではビゼンが動いたおかげで、外への進路がわずかに開きつつあった。

(まだまだ、これからだ。ジュニアでここを走った時の、あの鋭い脚を使えれば……)

逆境を跳ね返すべく、ルドルフは心の爪を研ぐ。

一瞬、瞼を閉じた。

(フレンド姉さん、見ていてくれ)

姉が微笑んでいた。優しい笑顔だった。

「もう大丈夫」と言うように、すっと消えていく。

レース中に会えるのは、これが最後だろう。

――あなたを応援してくれる新たなウマ娘が、もう現れているのだから。

(トウカイテイオーか……)

新バ戦で感動したと言ってくれた少女。

府中の喫茶店で見せた、あの屈託のない笑顔。

ルドルフの勝利を信じて疑わない、純真な瞳。

(負ける訳には、いかないな!)

目を見開くと、胸の底から気合が湧き上がる。

手足が軽くなる。身体が戦闘態勢へ切り替わる。

四コーナー、七番手。

ルドルフは外へ活路を求める。

内で併走するニシノライデンがダッシュをかけた。

「任せたで!」

同期の声援がライデンに飛ぶ。

「勝てよな! ライデン!」

栗東寮の仲間が背中を押す。

二人は役割を終えたように、ずるずると下がっていく。

「おうよ!」

勇気をもらったライデンは、最内の経済コースを突く。

前方ではビゼンニシキが外を進み、大きなトモで砂を蹴り上げていた。

その瞬間、内外にぽっかりと空間が生まれた。

まるでダービー制覇のバージンロードのように。

「よし、ここだぁ!」

最後の直線。

光明を見つけたルドルフは、迷わず突っ込んだ。

「ルドルフっ、覚悟っ!」

ビゼンニシキが内へ寄せる。

また肉弾戦か――。

「ええい、ままよっ!」

ルドルフは外へ進路を切る。

航跡はクロスしたが、寸前でかわした。

「よし!」

バトルは回避。

だが、大外を回ることになった。

そして内側のビゼンニシキは、ルドルフとの交差を契機に気合が空回りし始める。

「どうしたんだ!? 脚が動かない!」

押しても伸びない。

ビゼンはずるずると後退していく。

ルドルフは親友に最後の一瞥を送った。

(やっぱり……マイラータイプのビゼンは、スタミナ切れか……)

前を見据え、眼光が鋭くなる。

「行くぞっ!」

不利な大外。

だが、気合でねじ伏せるしかない。

まずは先行の三人。

ルドルフは闘志で第一段目のロケットを点火した。

必死の形相で加速。

内側の三人を、大外から一気に抜き去る。

ビゼンの悔しげな顔が遠ざかる。

「あかん! ここまでや!」

ニシノライデンも抜き去られた。

だが、彼女らは最終ターゲットではない。

真の敵は、遥か先で息を潜めている。

(あとは、スズの二人!)

ルドルフはさらに気合を込め、前を射抜く。

直線半ば。

三人が競り合っていた。

フロントランナーはスズマッハ。

ラチ沿いを必死に逃げる。

二番手はスズパレード。

先頭は二度目のスタート地点を越え、坂を登る。

「ルドルフは後方か。これは、もしかすると……」

大本命は五バ身以上も後方!

「スズだけじゃ、ないでしょ!」

二番手のウマ娘が怒鳴り、必死に脚を繰り出す。

「スズはスズでも、私、パレードの方よ!」

スズパレードが懸命に食らいつく。

三人の激しい鍔迫り合い。

そこから抜け出したのは――

『スズマッハ先頭! まだ粘っている。他の二人は遅れた!』

アナウンサーの声が響く。

「まだ、目の前には誰もいない!」

マッハが歓喜の声を上げる。

「悔しいけど……」

パレードが涙を浮かべながら二番手争い。

もう一人も顔をくしゃくしゃにして走る。

スズマッハは坂の途中で勝利を確信した。

意欲が全身に滾る。

無我夢中で脚を繰り出す。

「あと ちょっと!」

誰もいない草原を駆ける。

パレードらも最後の粘りで迫るが、蹄音は届かない。

ついにゴール板が見えた。

三人が再び競り合う――

マッハがぐいと前に出る。

「よし、勝った!」

勝利を確信し、右手に力こぶを作った。

 

 

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