皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第二章三冠編 その16 強行!?  ジャパンカップ!(PART1)──シニアとの闘い

菊花賞から一週間が過ぎた。

トレセン学園でも、話題はシンボリルドルフの“無敗三冠”一色だった。

学園へ戻るや否や、トレーニングパートナーのホッカイペガサスとイズモランドに、もみくちゃにされる。

まずは笑顔で、祝福の“手荒い洗礼”を受けた。

理事長への挨拶こそ済ませたものの、マスコミ取材やイベント対応は、すべてスピードシンボリが抑えて取り仕切った。

ルドルフの体調回復を最優先にするためだ。

だが、その配慮が結果として――

ルドルフのジャパンカップ出走を求める声を、さらに盛り上げてしまっていた。

出走登録はすでに済んでいる。

しかし「チーム・シンボリルドルフ」の東条トレーナーは、出走の可否について頑として口を開かない。

 

トレセン学園のトレーニングコース。

制服姿の生徒たちが、見慣れぬウマ娘たちの走りに目を奪われていた。

コース上では、注目の海外ウマ娘たちが加速していく。

サード、フォース、トップ――ギアが噛み合い、未知のコースをものともせず駆け抜ける。

まず、栗色の髪のウマ娘に視線が集まった。

「いい動きだ」

腕を組んだシンボリルドルフが、素直に感心する。

「ベットタイムって名前らしい。ジャパンカップに出走する海外ウマ娘だよ」

ミスターシービーが解説する。

G3を三連勝し、海外勢の中でも最も勢いがあるという。

「あちらのウマ娘は?」

ルドルフがもう一人を指す。

鹿毛色の髪を揺らし、ドタドタとした走法で迫力ある走りを見せていた。

「でも、力強いですね」

「さすがルドルフ。お見通しだね」

シービーが頷く。

「ストロベリーロード。豪州出身で欧州を転戦、ドイツで初G1を勝って、今度はアメリカへ。これでデビューから三十二戦目。タフさが売りだよ」

「やはり、世界は広いですね」

ルドルフは感心し、鼻から勢いよく息を吐いた。

「呼び出してよかったよ。つまらなかったって言われたらどうしようかと思ったけど」

シービーが冗談めかして笑う。

「ええ。いい刺激になりました」

ルドルフの瞳が輝く。

「それと――無敗の三冠ウマ娘、おめでとう」

「ありがとうございます。シービーさんこそ、秋の天皇賞優勝おめでとうございます」

シービーは肩に手を置き、にやりと笑う。

「シービーでいいよ。ため口で、フランクにな」

「……分かりました」

「まさかね。今まで三人しかいなかった三冠ウマ娘が、二年連続で出るなんて思ってなかったんじゃない?」

シービーが少し腰をかがめ、ルドルフの顔を覗き込む。

「確率論でトゥインクルシリーズに出走しているわけではありませんので」

ルドルフがしれっと返す。

「そーゆー言い方するんだ」

「よく“堅い”と言われます」

「そうかなぁ?」

シービーが意外そうに首を傾げる。

「どういう意味ですか?」

「君のレースはね、基本“自由奔放”なんだよ」

シービーが笑いながら指を向ける。

「新潟千直でデビューして、次は府中のマイル。どう見てもダービーの予行演習だ」

「ビゼンニシキとの二度の激闘。出走停止まで喰らう熱い戦いだったじゃないか」

白い歯を見せて笑うシービーに、ルドルフは苦笑するしかない。

「ダービーではボクと同じ直線一気。

菊花賞では無敗三冠がかかってるのに、勝負あったらゴール前で流すし」

シービーは頬を膨らませてみせる。

「どこが“エリートのレースぶり”だよ」

天を仰ぎ、両手を突き上げる。

「見た目はそつなく走ってるように見えるけど、やってることは破天荒だよ」

「……そうかもしれませんね」

ルドルフは苦い笑みを浮かべる。

「笑っちゃうよね。皆、本質が分かってない」

シービーが一歩近づく。

「うん、君とボクは似た者同士かもな」

右の人差し指で、ルドルフの頬を軽く突く。

「そうですかね。シービーは誰の指図も受けないじゃないですか?」

「まあね。でも、トレーナーの情報はありがたく参考にしてるよ」

そして、ルドルフを見つめて言う。

「君の方こそ、周囲に恵まれてる。

東条トレーナー、スピードシンボリ、石上サブトレーナー、ペガサス、イズモ、シリウス……」

ルドルフは無言で頷くしかなかった。

「それにしても――菊花賞の後、中一週でジャパンカップなんて」

シービーが息を吐く。

「世間の常識ではあり得ない。でも、君は挑戦した」

「強い相手と、レースがしたいんです」

ルドルフの瞳が、シービーのそれを捉える。

食らいついたら離さない、あの目だ。

「ふふ、やっぱり出走するんだ。いいね、その意気」

シービーが手を差し出す。

三冠ウマ娘同士、強者にしか分からないシンパシーが、手の温もりで伝わる。

「どっちが勝っても、日本初のジャパンカップ制覇だよ」

握った手の力が、ふっと抜ける。

シービーが相手の握力に合わせた瞬間――胸に不安がよぎる。

(まさか体調……?

セントライト記念は八分のデキでレコード勝ち。

菊花賞がピーク。

京都遠征の疲れもある。

……やせ我慢してるのか、ルドルフ?)

ルドルフはするりと手を離した。

まるで、何かを見透かされるのを嫌がるように。

「まだ判断は決めかねていますが……出走するなら、期待に応えてみせます」

「そうか。じゃあ、レースで」

シービーは手を上げ、走り去る。

「自分の意志で、走りなよ! ルドルフ」

最後のセリフに、ルドルフは何か重大なことに気づいた。

だが、それを言葉にするのは――今ではなかった。

 

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