皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★第二章三冠編 その16 強行!?  ジャパンカップ!(PART3)──茨の道へ

二日後。

シンボリルドルフは、トレセン学園のコースを単走で走っていた。

ジャパンカップまで、あと四日。

だが――脚が、重い。

赤いジャージに包まれた脚に、力が入らない。

東条トレーナーは所用で、不在。

石上サブトレーナーは、ホッカイペガサスとイズモランドの指導にかかりきりだ。

二人は十二月の中山開催でオープン入りを狙う正念場。

全力で鍛えねばならない。

(……ジャパンカップ出走は、本当に“自分の意志”なのか?)

集中力が途切れ、身体が鉛のように重くなる。

追い切るはずが、スピードが出ない。

結局、流すだけで終わり、最後は歩いてしまった。

スピードシンボリが眉間に皺を寄せる。

「体調、どうなんだ?」

「別に……」

小声で斜めを向く。

スピードは腕を組み、途方に暮れた。

「ルドルフ、状況次第では回避してもいいんだぞ」

右腕を軽く叩き、無理するなと促す。

だがルドルフは、力なく笑った。

「出るしかないでしょ。

東条トレーナーもスーさんも、私に期待してくれてる。

菊花賞から中一週でも、私なら辛抱強いから大丈夫だって……

世界の強豪と走りたいって、勧めてくれたじゃないですか。

だから、私は出走するんです」

「だけど……」

スピードが言いかけた時、

ルドルフはスポーツドリンクを手に取り、喉へ流し込んだ。

冷たい液体が胃を刺激すると、シービーの言葉が脳裏をよぎる。

(自分の意志で、走るんだよ)

――ハッとした。

(まさか……私は、出走を他人任せにしていた?)

振り払うように頭を左右に振った。

「今日は、もう上がります」

G1直前とは思えない軽いメニュー。

だがルドルフは礼を述べ、背を向けた。

夕日が差し込む背中が語っていた。

――誰とも話したくない。

――意見は受け付けない。

「中一週の無茶なローテーション……分かっていたことだ。今更だよな」

スピードが小さく呟く。

「まあ、体調維持もトレーニングだからな」

その言葉が背中に触れた瞬間、

ルドルフの肩がビクリと震えた。

「出走取消なんて、気にするな」

励ましの声が追いかける。

だがルドルフの尻尾は、まるでハエを払うように揺れた。

「……まあ、自分自身で判断していくしか、ないな」

自分を鼓舞するような言葉。

だが、その声には、どうしようもない“残念”が滲んでいた。

「勝てる、かもしれない」

だが、ルドルフに一抹の不安がよぎる。

「果たして、今の調子で勝負なるのか」

ルドルフはそっと、手で腹に触れる。まるで、何かをいたわるように、恐がるように。

そして、遠くの光景を見据える。

方々から、ウマ娘たちの声、嬌声やトレーニングでの気合が漂ってくる。

ルドルフは目を瞑り、学園の息吹を感じている。

「よし、ジャパンカップに出よう!」

そして、出るからには勝つ! と言わんばかりに目を見開き、右腕を引いた。だが、その腕は軽い。

右手の拳に目を落とし、そっと開いた。

「仮に、結果が出ようが、出まいが……菊からJC、中一週を走った事実は残る。そして、それがどんなにウマ娘にとって、過酷なことかは確実に知らしめることができる」

そこで、ルドルフは息を飲む。

「そうすれば、URAもこのローテーションを考え直すだろう」

そして、息を吐いて、顎を引く。

「うん、これからも無敗の三冠ウマ娘はいくらでも出てくるだろう」

ルドルフはゆっくりと視線を落とした。

握った拳が、わずかに震えている。

その震えは恐れではなく、未来を見据えた決意の証だった。

「そう、無敗の初代三冠ウマ娘として……

彼女らが悩まず、走れるようにしたい。それが、先行くウマ娘の使命だ」

言葉を紡ぐたび、ルドルフの横顔に影と光が交互に走る。

秋風が髪を揺らし、深緑のエメラルドが静かにきらめいた。

「ああ、二度と私のような……悩むウマ娘を出したくない。二度とな」

最後の一言だけは、かすかに声が震えた。

胸の奥に沈めていた痛みが、ほんの一瞬だけ表情に滲む。

だがすぐに、皇帝の顔へと戻る。

トレセン学園生徒会長、シンボリルドルフ。

その想いは秋風に乗り、学園の生徒たちの声や躍動に溶けていった。

 

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