皇帝の蹄跡 ― ウマ娘 シンボリルドルフ物語 ―   作:久遠 透

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★プロローグ 姉、シンボリフレンドのこと。 その2 トレセン学園体験入学──生徒会長、シンボリフレンド

東京都府中市――東京レース場を擁する、URAの聖地。

その一角、レンガ造りの門柱に掲げられた『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』の金看板が、初夏の陽光を受けて輝いていた。

通称・トレセン学園。今日も多くのウマ娘たちが、誇らしげにその門をくぐっていく。

中高一貫・全寮制の学園。

ここに所属するウマ娘たちは、日々切磋琢磨し、『トゥインクル・レース』へと羽ばたいていく。

木々に囲まれた広大な敷地には、

レーストラック、体育館、ジム、室内プール、ウイニングライブ用のスタジオ、屋外ステージ――

ウマ娘のための施設が隙なく整備されていた。

カフェテラス、学生寮、図書室など、生徒向けの設備も充実している。

正門から並木道を抜けると、鐘楼を備えた荘厳な学舎が姿を現す。

その一角に、トレセン学園生徒会会長室があった。

自主性を重んじる学園では、生徒会の地位は高い。

会長・副会長・書記などの執行部は、優秀なウマ娘が任される。

その会長室――重厚な木机の前に、夏制服姿のウマ娘が座っていた。

会長席の前方のソファには、青いリボンが特徴的な鹿毛のロングヘアのウマ娘が座り、ブルーアイズを向けている。

「まさか、マルゼンスキーさんから会長職に推薦いただけるなんて……」

少し落ち着かない様子で、シンボリフレンドは目尻を下げて恐縮した。

相手は八戦八勝、着差合計六十一バ身――“スーパーカー”と称された名ウマ娘。

その大先輩が、自分に頭を下げているのだ。

「いいのよ、フレンドちゃん。

……いえ、シンボリフレンド会長、と呼んだ方がいいかしら?」

マルゼンスキーは屈託なく笑い、親指を立てる。

「あなたは芝もダートも、短距離から中距離まで幅広く勝っている。

皐月賞やダービーのクラシックにも出走した経験がある」

「まあ、クラシックは厳しい結果でしたけど……」

フレンドは頬を赤らめ、悔しさを滲ませる。

「だからこそよ。素質があるのに、なかなか結果が出ない――

それは、ここにいるウマ娘の誰もが味わう苦しみ。

でも、あなたは諦めなかった。そして重賞を掴んだ」

マルゼンはポンと手を叩く。

「天皇賞などの大レースは勝っていないけれど、

この前の京王杯スプリングで、現役最強スプリンターのサクラシンゲキちゃんに勝ったじゃない。

あれはビッグレース制覇に匹敵するわ」

「……ありがとうございます。

ここのウマ娘たちのために、力を尽くしたい気持ちはあります」

フレンドは恥ずかしそうに視線を落とす。

マルゼンは優しく微笑み、その言葉を受け止めた。

その時、フレンドの耳がピクリと動く。

マルゼンが扉へ向き直る。

「入っていいのよ〜」

二度ノックがあり、扉が開く。

「シンボリルドルフです。呼ばれて参りました」

折り目正しい夏制服を着たルドルフが、丁寧に腰を折った。

「体験入学で忙しいところ、悪かったわね」

マルゼンがソファを軽く叩き、座るよう促す。

「まあ、一緒に研修を受けたビゼンニシキには付きまとわれましたが……」

ルドルフは小さくため息をつき、ようやく逃げ切って来られたと告げた。

「ルドルフちゃんも、入学したら生徒会の一員ね」

マルゼンは嬉しそうに言い、フレンドへ視線を向ける。

「姉妹で会長と書記なんて、いいコンビよね」

体験入学でルドルフは先輩ウマ娘にあっさり勝ってしまった。

この調子なら新入生総代、生徒会役員も十分狙える。

「でも、いいのですかね……?」

フレンドは不安げに笑う。

「選挙で信任されたんだから、胸を張っていいのよ」

マルゼンは力強く背中を押した。

「そうですよ。姉さ――いえ、フレンド会長」

ルドルフも胸を張り、芯のある声で続ける。

「このシンボリルドルフ。入学後は一意専心の想いで、会長をお支えいたします」

「いいトレセン学園にしていきましょうね」

マルゼンも協力を約束する。

「スピードシンボリさんからも、よろしくと言われていますしね」

大先輩の名が出ると、フレンドは姿勢を正した。

「スピードさんも、ダービーは勝てなかった。

私は出走すらできなかったけれど……」

マルゼンは自嘲気味に笑う。

当時のURA規則――母が海外で妊娠し、日本で出産したウマ娘はダービーに出走できなかった。

スピードシンボリもまた、天皇賞の勝ち抜け制度に縛られた一人だった。

「スーさんも、もっとGⅠを勝てたはずなのにね」

マルゼンは残念そうに息を吐く。

スピードシンボリの願いはただ一つ。

――ウマ娘のためのベストな環境を、ウマ娘自身の手で作ること。

そのためにフレンドとルドルフに期待していた。

「私は、会長職として、全てのウマ娘の幸せを目指します」

フレンドは胸を拳で叩き、自らを鼓舞した。

「ルドルフちゃんも、頑張ってね」

「もちろんです」

ルドルフは力強く頷く。

窓の隙間から吹き込む春風が、季節の移ろいを告げていた。

「何より、フレンド姉さんのためです。粉骨砕身、力を尽くします」

姉の教えは的確で、ルドルフはそのおかげで成長してきた。

他のウマ娘にも同じように力を尽くしてほしい――

そう語りながら、姉と同じ仕草で胸を叩く。

「頼もしいわねぇ」

「ええ。早く入学して、寮では姉と同じ部屋で暮らしたいです」

その言葉に、フレンドは驚いて息を呑む。

マルゼンがくすりと笑う。

「本当に、お姉さんが大好きなのね」

「大好きです」

ルドルフは迷いなく言い切った。

フレンドは顔を赤く染め、視線を落とす。

勝気な性格のはずなのに、妹にはとことん甘い。

マルゼンは二人を愛おしげに見つめた。

春のレース、クラシックも終わり、夏合宿の季節が近づいている。

ウマ娘が大きく成長する時期だ。

学園の生徒も、これから入学する若い娘も、同じように未来へ向かっていく。

こうして、シンボリルドルフは入学後、若くして重責を担うことになる。

将来を嘱望されたウマ娘としての第一歩が、今、始まろうとしていた。

ルドルフの成長物語は、ここから幕を開ける。

 

 

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