「いってらっしゃい エレン」
俺が死んだ後、世界がどうなったのかは分からない。
ミカサやアルミンは英雄に成れたのだろうか。
無事にパラディ島へ帰れたのだろうか。
イェーガー派の連中に殺されてはいないだろうか。
幸せになれただろうか。
今となってはもはや知る由もないが、そんなことしか考えられなかった、それ以外何も考えたくなかった。自分自身のことを考えると気が触れそうになる。壁内人類を守りたいだとか、未来は最初から決まっていたからだとか、地ならしを発動させたのはそんな動機だけじゃない。俺は
──────────また地獄であいつらと逢うその時まで、何も考えないでおこう。
「─────エ──ン…」
「─────────エレン…」
「エレン!」
次に目を覚ました時、俺は何処かの川沿いで横たわっていた。
「だから!このバス逃したら五時までにか
「ええ〜大丈夫やって、もうちょい遊んでいこうや」
「…怒られてもしらんからね?」
随分と平和そうな会話が坂の上から聞こえ、俺は起き上がった。
最初に目に写ったのは、機関車に似た何かが橋の上をとてつもない速さで駆け抜けていく様だ。蒸気の音は聞こえず、代わりに風を切るような音が辺りに響いた。それに視線を合わせながら川の向こう岸を見渡すと、そこでは石造りの異様に縦に長い建物が連なっていた。
あまりにも非現実的な光景に俺は立ち眩みし、ふと水面に映る自分の姿を見る。そこにはフーディコートを羽織り、伸び切った髪を後ろで束ねた普段の俺がいた。ライフルで刎ねられた筈の首も、跡もなく繋がっている。
イメージにそぐわない点はいくつかあるが、”ここが何処か”なんてことは判りきっていた。
「──────ここが地獄か…」
少しため息を吐いた後、俺は行く宛もなく歩み始めた。
理由なんて無い、ただなんとなく歩みを止めたくなかった、それだけだ。
しばらく散策していて確信したが、やっぱりここは地獄だった。数は少ないが、明らかに人の形をしていない化物が当たり前のように暮らしている。人間も人間で違和感がある奴が多い。角や動物の耳が生えてたり、服装が奇抜だったり、髪の色が変だったり──────────
しかし妙なのは、地獄というには平和すぎる点だ。化物達は特段暴れることもなく、人間と話したり店で品物を買ったりしている。これじゃあ生きてた頃の方が余っ程地獄らしい。
地獄じゃ化物と人間は共存してるのか?
「ねえねえ聞いた?シンリンカムイのゴシップ。」
「聞いた聞いた!Mt.レディと熱愛疑惑あるんでしょ?」
相変わらず平和そうな会話が聞こえる。
もう夜も更け、これからどうしようか思索している頃だった。
───────刹那、建物から爆発音が鳴り響き、爆心地から脳みそを剥き出し化物が湧き出てきた。人々は叫び声を上げ、他人を押しのけながら逃げ惑っている。
「ようやく地獄らしくなってきたな。」
俺は妙に諦観していた。見慣れた光景だ、弱者がどうしようもなく強大な敵に蹂躙され、駆逐される。俺は両方経験したじゃないか。
そんな割り切れない思いを抱えその場を離れようとした途端、いつの間にか俺の右腕が切り離された。
周囲を見渡すと、俺は化物達に取り囲まれていた。奴らはうめき声を上げながら徐々に俺へと迫ってくる。
俺の歩みを、自由を阻害する鬱陶しい壁が再びそびえ立つ。
「…またなのか。」
地獄でもう一度死ねば何処に行くのか、そんな百済ない問いが頭の中をよぎる。
あの川沿いで目を覚ました時点で気付いていたが、俺の中にはまだ巨人の力が眠っている。巨人になってしまえばこんな状況だって簡単に打破できるだろう。
「そこの君!伏せて!」
満を持して巨人になろうとした瞬間、妙な格好をした女が空から降り立ち、鞭のようなもので化物達を退けさせた。
「君、怪我はな─────!?
クソッ、私がもう少し早く来ていれば…」
彼女は俺の欠損した腕を見て嘆いていた、やっぱり俺のことを助けるつもりだったのか。
「いや、俺のことは心配しなくていい。」
そう告げると、俺は欠損した腕を回復させ始めた。腕から蒸気を上げ、無事元の形へと戻る。
「───!
なるほど、良い
その様子なら一人で動けそうだね、取り敢えずあそこにいる
くれ。」
彼女はそう告げると再び化物へ立ち向かっていった。
辺りを見渡すと彼女同様妙な格好をした人々が集っていた。そして各々、
とにかく俺は素直にあの女性の指示に従う─────ことはなかった。
突如として視界の端に
俺は何故か無性にあのガキに付いて行きたくなった。他人の指示に従わず、ただ自分の目的を果たそうと飛び回っていた。あいつはこの場で唯一自由だった。
そうして俺は、あいつを追おうと全力で駆け出した。
「────ッオイ!君!」
さっきの女性が呼び止めていたが、俺はもうその声さえ聞こえない程遠くにいた。
緑色のガキは異常に速かったが、あの狭い通路に行き着いたことは確認できた。俺は速度を落とさず走り続け、やっとのことで追いつくことができた。
状況はまさにカオスだった。立体機動装置もなしにアクロバティックな動きをする
どうやら俺の見当違いだったようだ、こいつもさっきと女と同じ
「────えっ、一般人!?」
真っ先に俺の存在に気づいたのは
「クソッ、緑谷!飯田!とっととそいつを避難させろ!」
「ここは危険です、早く避難を…!」
「ハア…
やはり、お前は贋物だ。」
化物は鑑定まがいの戯言を吐く余裕を見せながら、炎と氷を掻い潜りながら
「言われたことはないか?
個性にかまけ、挙動が大雑把だと!」
いつの間にか、あのガキの銅に刃が向けられていた。
「化物が…!」
「────轟君!」
俺は現世で大量殺人を犯した、正義なんて語る資格はないし、それを遂行する気力も湧かない。だが、少し引っかかっる所がある。仲間が死に物狂いで戦っている中、二人のガキは抵抗する様子もなく蹲っている。
俺は思った、こいつらも何か特殊な力に当てられてるんじゃないかと。
肉体を静止させる力。肉体を不自由にする力。
不自由────
不自由────────
不自由────────────
その言葉を脳内で反芻していると、突然俺の中の何かが動き出した。
次の瞬間、辺りに稲妻が走り、雷鳴が鳴り響いた。
────────悪魔の唸り声が、再び世界を包んだ。
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