なんだこれ   作:灯火011

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どどどどど、どどど、どー……すんのこれ?

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 メジロマックイーンは、キャタピラの轍(わだち)を追って、トレセン学園の旧校舎の裏手まで走っていた。

 

 いかにあの理不尽な巨漢が相手とはいえ、友人をみすみす狂気の渦へ見捨てるわけにはいかない。名門メジロ家の誇りが、彼女の脚を突き動かしていた。

 

 轍は、なぜか地面にポッカリと開いた「謎の地下階段」へと続いている。意を決して階段を駆け下りたマックイーンは、重厚な鉄扉を勢いよく開け放った。

 

 ■

 

「ゴールドシップさん! 今助けに……って、なんですのここは!?」

 

 熱風が、マックイーンの前髪を吹き飛ばす。

 

 そこは体育館ほどの広さがある巨大な地下ドームだったが、床一面が「直径50メートルの巨大なジンギスカン鍋」になっていた。中央部はこんもりと隆起し、下からはゴウゴウと灼熱の業火が燃え盛っている。

 

―――ジュアァァァァァッ!!

 

 凄まじい音を立てて、トラック一台分ほどの巨大なラム肉の塊と、大木のようなモヤシが鍋の上で焼かれていた。飛び散る熱々の脂。

 

「甘いぞゴルシ!! 脂の飛沫はG1の殺気! これを躱せずして何が黄金の不沈艦かァァ!!」

 

「アハハハハハ! いいねェおっさん! アタシのステップがマトンを超えたぜェェ!!」

 

 ジンギスカン鍋の上で、ボーボボとゴールドシップは、なぜか情熱的なサンバの衣装に身を包み、飛んでくる熱々の脂を華麗なステップで避けるという謎の特訓を繰り広げていた。

 

「な、え、な、ん………!?なにをしていますのあなた達は!!」

 

 常軌を逸した光景に、ついにマックイーンの喉から悲鳴に似たツッコミが飛び出す。しかし、彼女の乱入を待ち構えていたかのように、巨大なタマネギの輪切りの陰から、あのオレンジ色のトゲトゲ―――首領パッチがマイクを持って飛び出してきた。

 

「おっと、そこまでだ偽物(フェイク)野郎!!」

「貴方はさっきのトゲトゲ!? ……って、は? 偽物?」

 

 首領パッチは不敵に笑い、ビシッとマックイーンを指差した。

 

「いつまでもメジロ家の令嬢ぶれると思うなよ! 俺様が、真の『メジロマックイーン』を連れてきてやったぜ!! カモーン!!」

 

 首領パッチが太い綱を引っ張ると、ドームの奥から足音が響いた。

 

パカラッ、パカラッ、パカラッ……。

 

 現れたのは、四つ足の巨大な生物だった。

 

 体重500キロを超える筋骨隆々の肉体。美しい芦毛。そして、意志を持った瞳。――史実の競走馬、メジロマックイーン(本物)である。

 

『ブルルルルルッ!!』

 

 本物のマックイーン(馬)は、誇り高く前脚を跳ね上げ、嘶(いなな)いた。

 

 ……空間が、完全に凍りついた。ウマ娘の世界に、「馬」という動物は存在しない。つまり、ウマ娘であるマックイーンにとって、目の前の四足歩行の巨大生物は、図鑑にすら載っていない完全なる未確認生命体(クリーチャー)だった。

 

 マックイーンの瞳孔が限界まで開き、顔面から一気に血の気が引く。

 

「な、な、な……なんですのそれはああああああ!?

 

 マックイーンのマジ絶叫が地下ドームに響き渡った。

 

「脚が四本!? 顔が長すぎますわ!? 筋肉の付き方が尋常じゃありません!! いったいどの星から来た新種のモンスターですの!?」

 

 完全にパニックに陥り、後ずさりするマックイーン。その様子を見たボーボボは、サングラスをギラリと光らせ、ワナワナと肩を震わせた。

 

「なんだと貴様……! 今まで『本物』のフリをして、俺たちを騙していたというのか!!」

 

「えっ? いや、騙すも何も、わたくしがメジロマックイ――」

 

「言い訳は地獄で聞こう!!」

 

スパーーーーーーン!!!

 ボーボボのアフロから飛び出した巨大なハリセンが、問答無用でウマ娘のマックイーンの顔面にはたき込まれた。

 

「理不尽ですわーーッ!!」

 

 綺麗な弧を描いて、マックイーンがジンギスカン鍋の端へと吹き飛ぶ。

 

「ちょっと待ってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 その時だった。天井のダクトを突き破り、巨大なソフトクリームが落下してきた。そしてその中から、水色の瞳にピンク色の髪の少女――ビュティが飛び出し、涙目で叫んだ。

 

「ただの馬じゃない!? っていうか何でこの世界に本物の馬がいんの!? そしておじさん、関係ない女の子をハリセンで叩かないで!! かわいそうでしょ!!」

「出たな、ラム肉の妖精!!」

「妖精じゃないし!! 普通の人間!!」

 

 ボーボボはビュティのツッコミを完全に無視し、彼女の襟首をガシッと掴んだ。

 

「フッ、ならばこの熱々の脂を防ぐ『盾』になれ!」

「えっ!?」

 

 ボーボボはビュティを、ジンギスカン鍋から跳ね返る灼熱の脂の雨の前に、躊躇なく突き出した。

 

「あちちちちちちちちっ!! ひどいよおじさーーーん!! 助けてぇぇ!!」

 

 ビュティの悲鳴がこだまする中、鍋の反対側ではさらなるカオスが進行していた。

 

「ほーら本物のマックイーン! 遠慮すんな! アタシ特製の『激辛麻婆豆腐・ハバネロ増し』を食ってスタミナつけろ!」

 

 ゴールドシップが、ドンブリ一杯の赤いマグマのような麻婆豆腐を、本物の馬の口元にねじ込もうとしている。

 

『ヒヒィィィィン!!(激しく首を振って拒絶)』

 

「やめなさいゴールドシップさん! その謎のクリーチャーが可哀想ですわ! それに麻婆豆腐は動物には刺激が強すぎ――って!! なんでわたくしはこのモンスターの心配をしてるんですの!?」

 

 ハリセンのダメージから立ち上がったマックイーンが、混乱の極致の中で叫ぶ。

 

「フハハハハ! 楽しいバーベキューだぜ!!」

 

 ふと見ると、鍋のど真ん中では、なぜか「ところ天の助」がこんにゃくの姿でこんがりと焼かれていた。

 

「ぬおおお! 熱い! 俺はラム肉じゃない、ところてんだ!! 誰か裏返してくれぇぇ!!」

 

 ジンギスカン、サンバ、未知のクリーチャー(馬)、盾にされるビュティ、焼かれる天の助。

 

 ―――メジロマックイーンの常識という名の城壁は、音を立てて完全に崩壊した。

 

(ダメですわ……この空間にいたら、わたくしの脳細胞が死滅してしまいます……!)

 

「もう、勝手にしてくださいませーーーッ!!」

 

 マックイーンはついに脱兎のごとく踵を返し、涙目で地下階段を駆け上がっていった。その後ろ姿を見送りながら、ボーボボとゴルシは親指を立てて笑い合った。

 

「フッ、偽物は去ったか。これで心置きなく『日本ダービー(焼肉編)』の開幕だ!!」

「おうさ! 次の肉はアタシの『第8宇宙式・超(スーパー)ハラミ』だぜェェ!!」

「だから熱いって言ってんの! おじさん離してぇぇ!!」

 

 トレセン学園の地下深く。

 

 終わりの見えないハジケの宴は、まだ始まったばかりであった。




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