なんだこれ   作:灯火011

3 / 6
ボボボーボ・ボーボボトレーナーの短編集

「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!!」

 

 メジロマックイーンは、息を乱しながら地下階段を駆け上がった。

 

 背後から迫り来るジンギスカン鍋の熱気、謎のクリーチャー(馬)の嘶き、そしてオレンジ色のトゲトゲの笑い声から逃れるように、地上へ続く重厚な扉にすがりつき、力任せに押し開ける。

 

―――バァァァァン!!

 

「……っ!!」

 

 眩しい春の陽光が、彼女の目を焼いた。マックイーンは芝生の上にへたり込み、荒い息を吐きながら周囲を見渡す。

 

「……えっ?」

 

 彼女は自分の目を疑った。そこにあったのは、平和そのもののトレセン学園の風景だった。

 

 爆走するコタツのキャタピラが抉ったはずの轍(わだち)は一つ残らず消え去り、無惨に破壊されたはずの正門はピカピカに修復されている。地殻変動を起こしてそびえ立っていた巨大な「ちくわ」も、周囲に散乱していた「たい焼き」も、すべてが幻だったかのように跡形もなく消滅していた。

 

 吹き抜ける爽やかな風。遠くで小鳥がさえずっている。

 

「……ゆ、夢……? わたくしは、白昼夢でも見ていたのでしょうか……? そ、そうですわ。きっと、疲れがたまっていただけです」

 

 ホッと胸を撫で下ろし、震える膝に手をついて立ち上がろうとした、その時だった。

 

『ザッ! ザッ! ザッ! ザッ!』

 

 ターフの方から、規則正しく力強い足音が聞こえてくる。マックイーンが視線を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 

 

「いいぞゴールドシップ!! そのまま重心をブラさず、第3コーナーのカーブを抜けろ! 勝利への渇望を、その脚に込めろ!!」

 

「はいっ!! ボボボーボ・ボーボボトレーナー!!」

 

 超絶真面目な顔で、完璧なトレーニングをしているボーボボとゴルシだった。

 

「は……?」

 

 マックイーンの口から、間の抜けた声が漏れる。

 

 ボーボボはいつの間にか、アフロの上にサンバイザーを被り、首に真っ白なタオルを巻き、いかにも「熱血ベテランコーチ」といったジャージ姿になっていた。手にはストップウォッチを握りしめ、ターフの脇から熱いゲキを飛ばしている。

 

 そしてターフを駆けるゴールドシップは、普段の奇行が嘘のようにフォームが洗練され、その瞳には純粋なスポーツマンシップの輝きと、爽やかな汗が光っていた。

 

「ラスト1ハロン! 限界を超えろゴールドシップ! お前は一人じゃない、俺が……いや、スタンドのファンたちがついている!!」

 

「うおおおおおおっ!! 私は……私は勝ちたい!! トゥインクル・シリーズの頂点からの景色を、トレーナーと一緒に見るんだァァァーーッ!!」

 

 ゴルシの目から、感動の熱い涙が飛び散る。まるで最終回直前のスポーツアニメのような、あまりにも純粋で、あまりにも美しい師弟の絆がそこにはあった。

 

「…………え?」

 

 マックイーンの脳内で、エラー音が鳴り響いた。

 

(え? なんですのこの美しい空間。つい3分前まで、地下の巨大ジンギスカン鍋でサンバを踊りながら、見たこともない四足歩行のモンスターに激辛麻婆豆腐を食わせようとしていましたわよね? なんで私が地上に戻った数秒の間に、お互い着替えた上で「苦難を乗り越えて絆を深めた師弟」みたいな空気を完成させているんですの?)

 

「タイム! 3ハロン34秒2……素晴らしい上がりだ、ゴールドシップ」

 

 ボーボボがストップウォッチのボタンを押し、深く頷く。

 

「トレーナー……!!」

 

 駆け寄ってきたゴルシに、ボーボボは無言でスポーツドリンクを差し出した。

 

「お疲れ様。……今日の君は、今までで一番輝いていたよ」

 

「トレーナー……私、今まで斜に構えてばかりで、真面目に走ることから逃げてました。でも、あなたが真剣に向き合ってくれたから……!」

 

 夕日――さっきまで昼だったのになぜか夕日が差している――を背に、固く握手を交わす二人。爽やかな劇伴BGMがどこからともなく流れてくる。

 

(嘘ですわ……絶対におかしいですわ……!)

 

 マックイーンはワナワナと震えながら、二人の元へ歩み寄った。

 

「あの……ゴールドシップさん、それに、ボボボーボ・ボーボボさん!? あなた達、さっき地下で――」

 

「おっと、マックイーンじゃないか」

 

 ボーボボが、爽やかな笑顔で振り返った。

 

「見てくれたかい? うちのゴールドシップの走りを。彼女はまだまだ伸びる。俺の指導理論と彼女の才能が噛み合えば、凱旋門賞も夢じゃないさ」

 

「なあにをスポーツ雑誌のインタビューみたいな顔で語っていますの!? さっきまで鼻毛で洗濯機をジュリアナ東京にしていましたわよね!?」

 

 マックイーンの悲痛なツッコミが響き渡る。しかし、ゴルシはきょとんとした顔で首を傾げた。

 

「マックイーン、急に大声出してどうしたんだ? 疲れてるのか? 洗濯機がどうとか、意味わかんねーぞ。私はずっと、トレーナーと二人三脚で汗を流していただけだ」

 

「あなたまで記憶を改ざんしないでくださいませ!!」

 

 マックイーンは頭を抱えた。自分がおかしいのだろうか。本当にすべては幻覚だったのだろうか。

 

「マックイーン。アスリートにとって休息も立派なトレーニングだ。保健室で休んできなさい」

 

 ボーボボが諭すように言いながら、ストップウォッチのタイムをリセットした。

 

『ピピッ』

 

 ――その時だった。

 

 幸か不幸か、マックイーンは見逃さなかった。

 

 ボーボボが手に持っているストップウォッチ。それは銀色の金属製ではなく……水色のプルプルしたゼリー状の生物、「ところ天の助」の顔面だったのだ

 

『……背中、強く押さないで。俺、デリケートだから……』

 

 天の助(ストップウォッチ・サイズ)が、虫の息で呟いた。

 

「あ、ああ、あああ……っ!? やっぱり狂ってますわァァァァァァーーーーッ!!!!」

 

 府中の空に、メジロマックイーンの魂の叫びが木霊した。ウマ娘とハジケリストの果てなき戦い(ツッコミ)は、今、ここに幕を開けたのである。




はじけます?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。