なんだこれ   作:灯火011

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親方ァ!!SORAから魚雷が!

 翌朝。メジロマックイーンは、重い足取りでトレセン学園の正門をくぐった。

 

(昨日の出来事はすべて夢。わたくしはただ、少し疲れていただけ……)

 

 イクノディクタスの言葉を胸に、何度もそう自分に言い聞かせながら、朝の合同トレーニングが行われるターフへと向かう。しかし、彼女の淡い希望は、視界が開けた瞬間に木っ端微塵に粉砕された。

 

 

「そォーれ! 左舷弾幕薄いぞ! 右舷からは『エビフライの雨』が降ってくるから気をつけろォォ!!」

「了解だトレーナー! アタシの『第8宇宙式・タルタルソース防壁』で全弾迎撃してやるぜェェ!!」

 

 ――芝生は完全に消滅していた。

 

 代わりにそこにあったのは、ターフの形をした「全長800メートルの巨大なオムライス」である。

 

 そのオムライスの上で、ボボボーボ・ボーボボ(なぜか海賊の格好)とゴールドシップ(なぜかセーラー服にランドセル)が、空から降り注ぐ大量の巨大エビフライを、巨大なスプーンとフォークで打ち返すという、常軌を逸した「朝練」を繰り広げていた。

 

 しかも、オムライスのケチャップでデカデカと『祝・首領パッチ宇宙大統領就任』と書かれている。

 

「…………」

 

 マックイーンは、声すら出なかった。胃薬のコーティングを容易く貫通する、致死量のストレス。

 

(もうダメなのですね。この学園はきっと、終わってしまったのです。わたくしのトゥインクル・シリーズは、この巨大オムライスと共に幕を閉じたのです)

 

 彼女が膝から崩れ落ち、すべてを諦めかけた、その瞬間だった。

 

―――キュイィィィィィィィン……!!!

 

 突如、上空から空気を引き裂くような、甲高い飛翔音が鳴り響いた。それは凄まじい速度で急降下してくると、巨大オムライスのど真ん中——ボーボボとゴルシのちょうど中間に、隕石のごとく激突した。

 

―――ズドォォォォォォォォン!!!

 

「ギャアアアアッ!?」

「ぬおおおおおっ!?」

 

 卵とケチャップとエビフライが爆発四散し、ハジケリストとウマ娘が同時に吹き飛ばされる。もうもうと立ち込める爆煙の中、大地に突き刺さっていたのは——巨大な銀色の「魚雷」だった。

 

 しかも、ただの兵器ではない。その魚雷の側面からは、スラリとした人間の手足が生えており、先端には真っ赤なルージュを引いた唇が不敵に笑っている。

 

『……クンクン。匂うわねぇ』

 

 魚雷が、ゆっくりと立ち上がった。

 

『朝っぱらから、とびきりくだらない……“ボケ”の匂いがするわねぇぇぇ!!』

 

 伝説のボケ殺し。ハジケリストの天敵にして、ギャグ空間を力技で制圧する最強の存在、魚雷ガールの降臨である。

 

「な、なんだお前は!? 俺のオムライス・オーシャンを荒らす気か!」

 

 瓦礫(エビフライ)の中から立ち上がったボーボボが、アフロから大量の鳩を羽ばたかせながら叫ぶ。

 

「フン、新手の兵器か? いいぜ、アタシの『チタン合金製・トウモロコシの芯』で受けて立ってやるよ!」

 

 ゴルシもランドセルから、トゲトゲのついた巨大なトウモロコシの芯を取り出し、臨戦態勢をとった。

 

 しかし、魚雷ガールの目は氷のように冷たかった。

 

『オムライス? トウモロコシ? ……あんたたち、自分がどれだけ寒いボケをかましてるか、分かってるの?』

 

 ギリッ、と魚雷ガールが歯を鳴らす。

 

『この世のボケはすべて罪!! ボケる奴は親の仇!! 死刑ィィィィィィ!!!!**』

 

―――ズドバァァァァァァン!!!

 

 目にも止まらぬ超高速の魚雷タックルが、ボーボボの腹部を正確に打ち抜いた。

 

「ごふぁっ!?」

 

 ギャグ漫画特有の「無敵の耐久力」すらも無視する、完全無欠の物理的ツッコミ。ボーボボは白目を剥き、そのまま遥か彼方の空の星へと消えていった。

 

「ト、トレーナー!!? おのれ、よくもウチのトレーナーを! くらえ、アタシの必殺——」

『ボケるなっつってんだろーがァァァ!!』

「あべしっ!?」

 

 ゴルシが技名を言い切る前に、魚雷ガールの強烈な回し蹴りがゴルシの顎を捉えた。トレセン学園最強のパワーを誇る黄金の不沈艦が、コマのようにきりきりとスピンしながら、巨大オムライスの海へと沈んでいく。

 

 ……圧倒的。あまりにも圧倒的な暴力による「ツッコミ」。マックイーンは、震える足で立ち上がり、その光景を呆然と見つめていた。

 

(すごい……。わたくしがどれだけ声を張っても、胃を痛めても届かなかったあの二人の狂気を……たったの一撃で、完全に沈黙させましたわ……!)

 

 魚雷ガールは、周囲のボケ要素――エビフライや首領パッチの立て札など――を次々と粉砕していくと、ふと、ターフの端でへたり込んでいるマックイーンの存在に気がついた。

 

 ズン、ズン、と地響きを立てながら、魚雷ガールが歩み寄ってくる。マックイーンは恐怖のあまり身をすくませた。わたくしも、殴られるのだろうか。

 

 しかし、魚雷ガールはマックイーンの目の前で立ち止まると、その真っ赤な唇を優しく歪めた。

 

『……あんた、いい目をしているわね。絶望と、疲労と、そして“ボケを許さない”という強い意志を秘めた、ツッコミ特有の目を』

 

「え……?」

 

『一人で孤独に闘っていたんでしょ? このふざけた世界で。よく頑張ったわね』

 

 魚雷ガールが、そっとマックイーンに手を差し伸べた。

 

 その言葉に、マックイーンの瞳からポロリと涙がこぼれ落ちる。

 

(―――分かってくれる人がいた。わたくしのこの異常な苦しみを、常識が通用しない理不尽さを、理解してくれる存在が、ようやく現れたのですね! ええ、ええ! 感謝します、三女神様! たとえ、相手が魚雷であっても……!)

 

「……はいっ……! わたくし、もう限界で……! 誰もわたくしのツッコミを聞いてくれなくて……!」

 

マックイーンは涙を拭い、魚雷ガールの冷たい鋼鉄の腕をしっかりと握り返した。

 

『泣くのはおよしなさい。ここからは、反撃の時間よ』

 

 魚雷ガールは振り返り、再び立ち上がろうと蠢き始めたボーボボとゴルシ(そしていつの間にか合流していた首領パッチとところ天の助)を睨みつけた。

 

『アタシのボケ殺しと、あんたの気品ある正論ツッコミ。この二つが合わされば、あんな三流のハジケリストども、完膚なきまでに叩き潰せるわ。……どう? アタシとタッグを組んで、この学園からすべての“ボケ”を駆逐しない?』

 

 その提案に、マックイーンの表情から「悲壮感」が消え失せた。

 

 代わりに宿ったのは、名門メジロ家の令嬢としての気高きプライドと、ギャグ空間への「怒り」。

 

「……ええ。喜んでお受けいたしますわ。あの、貴女のお名前は?」

「魚雷ガール。貴女は?」

「メジロマックイーンと申します」

 

 マックイーンは立ち上がり、体操着の土を払うと、凛とした姿勢で魚雷ガールの隣に並び立った。

 

「これ以上、わたくしたちの神聖なトレセン学園を、ちくわや鼻毛や喋るハンバーグで汚させるわけにはいきません。わたくしの脚力と、あなたの破壊力で……あの不届き者たちに、真の“常識”を叩き込んでやりましょう!!」

 

『いい覚悟ね! 行くわよ、マックイーン! 必殺・ツッコミ魚雷フォーメーションよ!!』

 

「オォォォォォ……!! 舐めるなよ魚雷ガール、そしてマックイーン!! ゴールドシップ!俺たちハジケ同盟の絆、見せてやるぜ!!」

 

 ボーボボが己の鼻毛を天に突き上げ、叫ぶ。

 

「おうさトレーナー!! 今日こそアタシの『第8宇宙式・マグロ手裏剣』で、お前らを大トロにしてやるぜェェ!!」

 

 ゴルシがどこからともなく冷凍マグロを取り出し、構える。

 

「だぁからマグロは関係ありませんわよ!!」

『そしてボケるなァァァ!!』

 

 マックイーンの鋭い正論ツッコミが炸裂し、魚雷ガールの物理的ボケ殺しタックルが唸りを上げた。

 

 

 トレセン学園を舞台にした、ハジケリストvs常識人の最終戦争。

 

 メジロマックイーンの胃壁が回復する日は、まだ当分先になりそうだが、彼女の瞳にはもう迷いはなかった。彼女は今、最強の相棒と共に、終わりのないツッコミの荒野を駆け抜け始めたのである。




―――なんだこれ?
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