「ほっといてください!」
秋原町に戻ることになり、引越し先で使うあれこれを買うため、父さんとデンサンシティに来ていた。
あらかた買い物は終わり、遅めの昼食でも食べようかと歩いていたら、女の子が男2人に囲まれてる現場に遭遇してしまった。
「流石にほっとけないよなぁ」
「お、永愛、やはりお前は男だな」
「俺は生まれてからずっと男だよ」
そんな親子のじゃれあいをしながら近づいていく。
「おーい、ナンパはほどほどに……ん?」
「そうだぞ!女の子が嫌がってたら……ん?」
「どうせ私は幸せになれませんから……」
「いや、お姉さん、そんな卑屈にならんでも…」
どうやらナンパではないらしい。むしろお兄さん達が困った表情をしている。
「どうしたんですか?」
「いや、こっちのお姉さんが顔色悪そうだったから大丈夫かと思って話しかけたんだが、どうも話を聞いてくれなくてな」
「いいんです。ほっといてください。どうせ私は幸せにはなってはいけないの……」
「ずっとこんな調子なんだ」
「なんじゃそりゃ」
困ったな。お兄さんも好意で声をかけたっぽいし、面倒なのに首つっこんじゃったかな。
「あ、やべ、そろそろ行かないとバイト遅刻する!」
「マジかよ!?あ、本当だ!ちょっとおじさん達この子任せていい!?」
「「え゙」」
「すんません!マジやばいんで!おねがいします!」
「「おーい!!!」」
行っちゃった。
「……とりあえず、話聞こか」
「……そうだな」
「いいんです……私なんか……私なんか……」
「「はぁ〜……」」
――――――――――――――――――――
私の名前は
双子の弟たちの面倒を見るため、バイトを掛け持ち、家計もやりくり、我ながら頑張っているお姉ちゃんです。
でも、飲食店のバイト先で料理を運んでいた最中に転びお客さんにぶちまけ、コンビニのバイトでは棚をひっくり返し、バイトがクビになった矢先に財布を落としてしまう。
いいのよ、私は不幸になる運命なんだわ……
「大丈夫ですか?」
「お姉さん顔色悪いけど…?」
なんか話しかけられた気がするけど、もうほっといてほしい。
「お姉さん!ちょっと!大丈夫?今にも倒れそうなんだけど!?」
「いいんです、ほっといてください」
「そういうわけにも」
「ほっといてください!」
つい大声を出してしまった。でも本当にいいんです。私はどうせ幸せにはなりませんから。
「おーい、ナンパはほどほどに……ん?」
「そうだぞ!女の子が嫌がってたら……ん?」
また別の人が来ました。
――――――――――――――――――――
なんか気づいたら最初に話しかけてきたお兄さん2人はいなくなっていました。
代わりに私より少し年下っぽい男の子と、少し頼りなさそうなおじさんが近くにいました。
「なんか今悲しい気持ちになったんだが」
「どうせ父さんのこと頼りなさそうとか思われたんじゃない?」
「ひどくない!?」
親子のようだが、なんだか友人同士の会話にも聞こえる。
それがなんだか可笑しくて笑ってしまった。
「……ふふ」
「ん?笑えるじゃん」
「おお!永愛渾身のギャグが決まったな!」
「いや、ギャグじゃなく思ったことを言っただけなんだけど」
「え?」
「プッ」
楽しそうな会話を聞いて、思わず吹き出す。
「いいね、笑えるなら上等。で?顔色悪そうだし、なんかあったのか?」
「あ、いや、その……」
「力になれるかはわからないけど、言ってみたら楽になるかもよ」
「う、うん……」
男の子に優しくされたのなんて初めてでドキドキしちゃった。(さっきのお兄さん達のことは忘れてる)
つい元バイト先のことやお財布のことを話してしまう。
「あらら……父さん」
「おっけーだ永愛、はいこれお小遣い。」
「さんきゅ。じゃあ、あそこにいるから」
そう言っておじさんの方はどこかへ行ってしまった。
「あの、どこに?」
「父さんは交番に行って財布について相談しに行ったよ。俺たちはとりあえず腹ごしらえでもしよう」
「あっ……」
さっきからお腹が鳴っていたことがバレていたらしい。恥ずかしい。
「あ、あの、お金が!」
「こんな状態でお姉さんに払わせたら父さんに怒られるから……ほら、ここ入ろう」
そう言って手を掴んでお店に入っていく。
強引だけど優しくて、少し顔が赤くなるのがわかった。
――――――――――――――――――――
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
「何食べる?」
「え、あ、じゃあ……このAランチで」
「じゃあ俺もそれで」
ここはパスタ系の料理を出すお店のようだ。ランチもやっており、目についた1番安いセットを注文した。
「申し訳ございません。Aランチは終わってしまいまして……」
「え……?」
「ありゃ、じゃあBで」
「本当に申し訳ありません、Bランチも今日は無くて、1番高くなってしまうのですが、Cランチならまだご用意が……」
うぅぅ……きっと私が一緒だから……不幸を呼ぶ女なの……
「じゃあC2つで」
「え?」
「畏まりました」
え!?いいの!?高くなっちゃうんだよ!?
「どしたの?」
「いや、その……いいの?高くなっちゃうけど」
「大丈夫。父さんからは余裕もってお金くれたし、大した差でもないから」
優しい……
「ごめんね、私が一緒だから売り切れてたんだと思う……」
「え?なんで?」
「だって私、不幸を呼ぶ女だから」
「は?」
「きっと幸せになっちゃいけないのよ……」
言いながら悲しくなって俯いてしまった。
パンッ!
唐突に両手で私の頬を挟まれた。
痛いほどの衝撃ではなかったけど、ビックリした。
「ふぇ!?にゃに!?」
「幸せになっちゃいけないなんて言ったらダメだ。こんなことなんていくらでもある。たかだか1日2日の出来事だ。まだまだ人生は長いんだ、これから幸せになればいい」
妙に説得力のある言葉に絶句しちゃった。
両手を外して、私の目をジッと見て、ゆっくりと話しかけてくれた。
「君がもし不幸になりそうなら俺が幸せを分けてあげる。幸せになっちゃいけない人なんていない。俺が保証する」
「ふぇ……」
唐突に告白のようなことを言われて顔が真っ赤になる。急に、そんな、ダメだよ〜!
「で、お姉さん名前は?」
「あっ」
自己紹介もしてなかった。
――――――――――――――――――――
自己紹介も済ませ、お互いに『シューねぇ』『永愛』と呼ぶようになった。呼び捨てでいいって言われてまた顔が熱くなったけど……
ランチを食べながらお話をした。うちの弟たちや、私のナビのアクアマンの話、永愛のナビであるオケストラの話。PETから聞いていたアクアマンもきになったようで、
「オケストラっぴゅ?」
「君がアクアマンか?よろしく」
「よろしくっぴゅ!」
どうやら仲良くできそうで安心した。アクアマンは臆病なところがあるから、お兄さんっぽいオケストラは一緒にいて落ち着くのかな?
そんな中、永愛のお父さんが戻ってきた。
「おかえり」
「おお、ただいまー。あ、店員さんコーヒーください!」
「で、どうだった?」
「いや、見つかってなさそうだね」
「ま、しゃーないか」
どうやら交番に行って私のお財布が届いてないか確認してくれたものの、見つかっていなかったらしい。
やっぱり私は……
「ほら、また落ち込んでる。大丈夫だって、すぐ見つかるから安心しなよ。シューねぇは笑ってた方が可愛いんだから」
「ブフッ……!!」
「何吹き出してんだよ父さん」
「……いや、そんな気障ったらしいセリフどこで覚えたのかとブフッ」
笑ってた方が可愛い?え?可愛い?そんな私、初めて言われたよぉ……!
「お前もやっぱ男なんだなぁ永愛」
「だから生まれた時から男だって……ん?なんか着信きてないか父さん?」
「え?あ、本当だ。もしもし〜?」
永愛のお父さんが電話に出た途端、表情が少し険しくなった。どうしたんだろう?
「はい、はい、わかりました。今行きます。ええ、本人も連れていくので、はい、それでは失礼します」
「不穏だな」
「とりあえず交番に行こう。えーっと、シューねぇさん?」
「あ、ごめんなさい、城戸舟子と言います」
「ごめんごめん、自己紹介もせずに。おじさんは安堂路挑っていうんだ。とりあえずお財布見つかったっぽいから一緒に交番行こうか」
「はい!ありがとうございます!」
「いいよいいよアッツ!!」
「締まらねー」
すぐに交番に行かなくてはならなかったからか、先程注文していたコーヒーを一気に飲もうとして舌を火傷しちゃったみたい。
――――――――――――――――――――
交番に到着すると、お巡りさんともう1人……
「先輩?」
「あっ……」
元バイト先の先輩が座っていた。
この人はバイトに行くたびになにかとつっかかってきてたんだけど、いつも早口で大声だったから怖くて近づかないようにしてた。
「電話での連絡ありがとうございます」
「あ、安堂さん、いえいえこちらこそ」
「それでお財布は見つかりましたか」
「はい、こちらでお間違いありませんか?」
それは紛れもなく私の財布だった。よかった!
「はい!これで間違いありません!よかった!どこで見つけたんですか?」
「それが……」
お巡りさんがそこで隣に座った先輩の方を見た。先輩が見つけてくれたのかな?
「本来であれば直接本人同士を会わせるようなことはしないのですが、お知り合いのようでしたから」
「へ?」
「この方が盗んでいたようです」
「………………えー!?」
なんで?私のお財布なんか盗んでも取れるようなお金そんなに入ってないのに!?
「な、なんで?」
「……アンタがいつもヘラヘラしてるのがいけないんでしょ!?」
「っ!」
大声で怒鳴られビクッとした。
「まぁまぁ、落ち着きなよ」
「アンタ誰よ!?いきなり話に割ってこないで!?」
「そんなことどうでもよろしい。まずは言い訳を聞こうじゃない」
「……チッ」
永愛が宥めてくれた。先輩と話す時、いつもビクビクして上手く話せなくなっちゃうから助かった。
「……私の彼氏がコイツに気があるみたいでムカついてたのよ」
「おぅふ……」
永愛!?なに『おぅふ』って!?っていうか、気がある!?たしかに同じバイト先で2人とも働いてたけど、初耳というか、そんな素振りされたことないけど!?
「痴情のもつれっすか」
「……っ!なによ!?彼氏の様子がおかしくなったのがコイツがうちのバイト先に来た時からだったのよ!?」
「いや、この際いつから〜とかどうでもいいんだけども」
「どうでもよくない!それなのにコイツはいつもヘラヘラと笑って彼氏と話してるからあの時だって……あっ」
あの時?何の話?
「おっと、これは余罪がありそうじゃないか。ほら、話してごらん」
「……うぅぅ……客の食事を運んでる時にちょうど滑って転ぶように足元にローション塗ったり」
「うわ、他の人も危ないじゃん」
「コンビニで棚の整理をしてる最中に、裏から棚を倒したり」
「普通に怪我するだろそれ、よく無事だったなシューねぇ」
「私昔から頑丈だから」
「そういう問題か?」
そっか。バイト先でやっちゃったのって私が不幸なんじゃなくて仕組まれてたんだ……
「で?挙句に財布盗んで〜と」
「そうよ!悪い!?」
「うん、全面的にアンタが悪いな」
「ぐっ……!」
どうやら、全部先輩がやったことらしい。
「で?どうするシューねぇ」
「え?」
「え?って。この先輩さん、結構悪いことやってるけど、普通に窃盗だし、棚とか最悪死ぬから殺人未遂だし」
「ええ!?」
そんなこと急に言われても!?
でも、そっか、たしかにこれで終わりってわけにはいかないよね。
「ちょ、待ってよ!財布は返したし、怪我もしてないじゃない!?ちょっとした出来心なの!許してくれるわよね城戸?お仕事だって教えてあげたでしょ?」
「うっ……!」
「はーい、そんな捲し立てないでねー。話したくても話せなくなっちゃうでしょー」
「……ありがとう永愛」
1回落ち着こう。深呼吸して……スゥー……ハァー……
「……いいです。大丈夫です先輩。お財布も返ってきたし、確かに怪我もしてないから」
「いいのか?」
「うん、そのおかげで永愛達と会えたから、それが嬉しい」
「……そっか」
「うぅぅ……」
先輩は安堵したのか泣いていた。でも、
「でも、彼氏さんには何があったか連絡しますね」
「え?」
「……なるほどな」
永愛はニヤッと笑ってた。これくらいの仕返しは許してくれると思う。
「安堂さん、息子さん尋問官とか向いてるんじゃないですか?」
「私も自分の息子の才能にビックリしてるところです」
なんかお巡りさんと路挑さんが後ろでコソコソ話してた気がする。
――――――――――――――――――――
結局先輩はお咎めなしで終わった。
「永愛とか言ったな!?覚えてろよ!?」
「お巡りさーん!犯行予告されましたー!」
「ああああ!!なんでもありませーん!!!」
そう言って逃げるように先輩は帰っていった。
お巡りさんが言うには監視対象に入ったらしいので、しばらく何かしてくることはないそう。安心しました。
「というか、バイト掛け持ちとか大変だな」
「ふふ、そんなことないよ。お父さんもお母さんもいないから、がんばって弟たちの面倒を見ないと」
「……そっか」
でも、クビになっちゃったから、またバイト先探さないとなぁ。
「ならウチくるか?」
「は?」「え?」
路挑おじさんが唐突にそんなことを言い出した。
「おじさんはお仕事で家にいないことが多いから永愛1人になっちゃうし、お世話してくれる人がいてくれたら助かるなぁ!」
「おい父さん、俺は一応年頃の男なんだが?」
「お前は生まれた時から男だろ、知ってるよ」
「なんでそこでその言い返しなんだよ」
そ、それは永愛と一緒に暮らすっていう……あー!また顔が熱く……!
「もちろん弟さんたちも一緒に来たらいい!双子だっけ?4人くらい養える稼ぎはしてるぞぉ〜!」
「頼もしいこって」
本当?本当に?
いいの?こんな幸せなことがあって……
「……いいんだよシューねぇ。幸せなことがあったって」
「あっ……」
今そんなこと言われたら……もう!
「よろしくお願いしますっ!」
「よし!今日は歓迎会だ!」
「父さんは明日仕事だから酒は無し」
「……そんな永愛!ご無体な!」
「ふふ」
なんか今日はいっぱい笑った気がする!
そしてこれからも永愛たちと一緒ならいっぱい笑える気がする!
――――――――――――――――――――
後日、先輩の彼氏について真相がわかった。
すでに先輩には愛想をつかせていたらしい。そして私に気があるわけではなく、その時に彼氏が出来たんだとか。
「もう女はこりごりだよ」なんて言って、幸せそうに彼氏と手を繋いで歩いていたそう。
先輩もそれを知ってキーキー言ってたらしい。
せめて内輪で解決して欲しかったなぁ。
彼氏には彼氏ができてた。
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