ハンター協会の美食料理人   作:火取閃光

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第13話

 ルキウスが急ぎクカンユ王国行きの飛空船に乗り込んで数時間が経過した。外はもう真っ暗である。

 

 到着した彼はその足で彼個人やハンター協会とも懇意にしている先生が経営する大学附属の病院へ向かった。

 

 そこにアンジェリカが救急搬送されて、ルーシィが付き添いをしているからだった。

 

「っ!? ルー君!?」

 

「姉さん、アンジェリカさんの容体は?」

 

「それが……」

 

 部屋の外で目に涙を溜めて落ち込むルーシィを見て、ルキウスは最悪を想定しながら彼女の病室へ入った。

 

 病室にいたアンジェリカはとても泣いていたのか酷く目を赤くしており、シーツを頭から被ったまま膝を抱えて居たのだった。

 

「初めまして、アンジェリカさん。俺はルキウス。知っているかも知れませんがルーシィの弟でプロハンターをしています。お加減は如何ですか?」

 

「……」

 

 ベッドの隣にある椅子に腰掛けたルキウスはボーッとして放心状態の彼女に声を掛けた。

 

 しかし、返ってきたのはとても妙な無言である。口はパクパクと動かしていて、まるで話している様だが声が出て居ない感じだった。

 

「っ!? 姉さん、アンジェリカさんの家にあった邪本は持って来ているよね? 貸して」

 

 ルキウスはアンジェリカの救急搬送の時に姉ルーシィへ邪本を調べる為に持って来させた事を思い出して直ぐに読み始めた。

 

 そして、数分読んだ事でアンジェリカの身に何が起きているのかようやく理解したのだった。

 

「アンジェリカさん……。俺の話がYESなら首を縦に、NOなら首を横に振って答えて欲しい。貴女は今、声が出ない。それであっていますか?」

 

「……!?」

 

 アンジェリカは酷く驚くとようやく目に力が戻り始めて、涙を流しながら首を縦に振り続けた。

 

「ルー君!? どう言う事っ……!?」

 

「この邪本は簡単に言えば読んだ者をとことん苦しめて衰弱死させる類の代物なんだけど……。

 

 実はそれだけじゃない様で、衰弱死を免れた者の1番大切だと思う身体機能を1つだけ使えなくする呪いが込められているんだ」

 

「っ!? それじゃ、アンジェリカちゃんはっ!?」

 

「恐らく、声が使えない呪いを掛けられている」

 

「でも、さっきルー君は読んだよね?」

 

「そうだね。それはこの邪本の性能限界による物だろう。恐らく、この呪いの対象は非念能力者が本を読む事で発動するという制約が掛けられている。

 

 今回、非念能力者であるアンジェリカさんは本を読んだ事で呪いと言う念攻撃を受けて念能力者に目覚めた。

 

 そこで念攻撃の衰弱状態に耐えられず死ぬ場合と耐えて生存する場合で呪いの効果が分岐する様に制約が組まれている。

 

 この邪本はインクの文字の上に神字と言うオーラで書いた文字を刻んで効果を底上げしている。

 

 しかし、制約の関係上で呪いの効果は最初に本を読んだ非念能力者限定を限定した制約で作られている様だ」

 

「っ!? なんて悪質な代物なの!! そんなの酷いよ!! アンジェリカちゃんが何をしたって言うの!!」

 

「落ち着いて、姉さん。防音性能があるVIP対応な個別の病室とは言え今は夜だし、俺も姉さんの気持ちは痛い程に分かっているさ」

 

「あっ……! ごめん……」

 

「……!? ……!!」

 

「アンジェリカさんも気にして居ないってさ。それで、アンジェリカさんに聞きたい事があります。貴女はどんなに辛くても声を取り戻したい意思はありますか?」

 

「……!? ……?」

 

「うん、いつまでも話せないのは不便ですね……。気を遣えなくて申し訳ないです。

 

 アプリのメモ帳を使えば多少の手間でも会話は成立する筈です。これを使って下さい」

 

 ルキウスはプライベート用の携帯電話に入っているメモ帳のアプリを起動してアンジェリカに渡した。

 

 彼女自身も声が出せない事に動揺していた為か、メモ帳アプリでの文字入力で会話すると言う初歩的な事に気が付かなかったのか少し恥ずかしそうに照れていた。

 

 [それで、聞きたいのですが……。私の声は元に戻せるのですか?]

 

「この本を調べる限りでは元に戻せます。ただし、貴女に掛かったオーラを解呪するには条件設定がされていて、それを満たせば十中八九元に戻せる代物です」

 

 [オーラ、ですか……? さっき、ルーシィちゃんとの会話でもありましたがオーラとは一体……?]

 

「オーラって言うのはこれだよ!」

 

 [体からキラキラ光る湯気がっ!?]

 

 オーラについて目に分かる様にルーシィが纏を行い、アンジェリカは突然彼女の周りを覆うキラキラした湯気に開いた口が閉じなかった。

 

 それを見てルキウスは奇しくも笑ってしまった。それは過去に自分が姉に対して行った事と同じだったからだ。

 

「オーラとは生命エネルギーの事で、俺達ハンター業界ではこれを自在に操る人を念能力者と呼ぶんです」

 

 [ネン、能力者……??]

 

「アンジェリカさんに掛かった呪いも特殊なオーラ技術を使った念能力の1つで、攻撃された貴女も結果的にオーラに目覚めました。

 

 本来なら他者に掛けた呪いを外すには専門の特殊な念能力が必要で、単純な金銭だけでは無く希少な能力者を探す必要があります。

 

 しかし、この本に掛けられた呪いは解呪の方法を記載し条件を設定する事で能力を成立している様です」

 

 [つ、つまり……?]

 

「アンジェリカさんには悪いのですが、呪いとしては死ぬ様な代物ではないそこそこ低レベルな代物です。なので、貴女次第ではありますが十分解呪可能と言う事です」

 

 本来、呪いと呼ばれる念能力を掛ける場合は除念と同じくらいの制約を作るくらいには高いレベルを要求する事は多い。

 

 しかし、この邪本はアレだけの制約と神字を駆使して出来た能力が非念能力者である彼女に掛けた呪いである。

 

 正直言えば、ちゃんとした念能力の修行を行い考えて能力を作ればもっと悪質な代物に出来上がっていた事だろう。それ程までにこの邪本はとてもお粗末な性能だった。

 

 [っ!? 本当ですかっ……!? しかし、その解呪する為の条件とは……? それに、さっき言った辛い思いをするとは……??]

 

「まず解呪する為の条件は呪いを掛けられた本人、つまりアンジェリカさんがこの本に必要なオーラを流し込む事で達成します。

 

 条件設定としてはシンプルですのでこれだけであれば簡単にも思えますが、そのオーラ量が中級レベルのハンターが持つ量が必要となります」

 

「うわぁ……。本当に嫌な本……」

 

 [えっ? えぇっ? それってどう言う……??]

 

「アンジェリカさんに分かりやすく中級ハンターのオーラ総量をチャンネル登録者数に例えると……。

 

 素人配信者がチャンネルを開設してから大体、登録者数10万人必要ってくらいの難易度ですね」

 

 [う、うぇっ!?]

 

「これがどれほど難しいのかは貴女が良くご存じの筈です。決して無理ではない目標ですが、達成するにはアンジェリカさんの強い意思が必要です」

 

「大丈夫だよ、アンジェリカちゃん! 私達がしっかりとサポートするから!!」

 

「そう言う事です。でも、姉さん……。V・Sの方はどうするの?」

 

「それは……。ファンの皆んなには申し訳ないけど、アンジェリカちゃんと一緒に活動休止するよ」

 

 [ルーシィちゃん、それは……!?]

 

 ルーシィの固い決意にアンジェリカは嬉しさと申し訳なさが入り混じった表情をした。

 

 彼女としてもルーシィと共に活動して来たと言っても過言では無い。だから、自分なんかの為に身を削らないで欲しいと心が苦しかった。

 

「ううん。アンジェリカちゃんは気にしないで……。私がやりたいって思った事なの。

 

 それに、私自身も今日の事はかなりショックでね……。今はとてもじゃ無いけどV・Sに集中出来ないと思うの。

 

 だから、ちょっと長めの休息ついでに家族との時間を過ごしながら、中途半端に終えた念能力の修行を再開する良いキッカケだと思っただけだから気にしないで、ね?」

 

「姉さんがそう言うのであれば止めはしないさ。こう言う時の姉さんはとても頑固だし、それにその提案は俺としても好都合だと思っている。

 

 これから俺は念能力修行の兄弟子から弟子の教育を手伝ってほしいって言われていたから、出来れば2人とも一緒に来て欲しかったんだ」

 

「うん、分かったわ!」

 

「そう言う訳なので、急で申し訳ないがアンジェリカさんもそれで良いですか?」

 

 [勿論です。私の為に色々と行って下さり、ありがとうございます。それとこれからはルキウスさんの弟子になる事なので、どうか敬語は無しでお願いします]

 

「それじゃ、俺からも。話を聞くと歳も近いみたいだし敬語は抜きで良い。堅苦しいのは苦手なんだ。姉さんと同じ感じで話して大丈夫だからさ」

 

 [はいっ! よろしくね、ルキウス君!!]

 

 こう言う直ぐに対応するアンジェリカの素直さにルキウスは好感を持ちながら2人は握手を交わしたのだった。

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