ルキウスが家に帰って1ヶ月が経過した。今日は姉ルーシィがV・Sのオフコラボをする日である。
イベントがあるのはクカンユ王国の首都パルセーヌで行われる為に2人は飛空船に乗り込み半日掛けて向かったのだった。
「それじゃ、ルー君。私はここで」
「あぁ、俺はこの辺りで時間潰しているから終わったら連絡してね」
「分かった。それにしても……。アンヘルちゃんのプレゼント、結構厳重に保管しているけど何にしたの?」
ルーシィはルキウスから渡された鍵付きのアタッシュケースを受け取り困惑していた。
明らかにアタッシュケース自体も高価な品物であり、それ自体がプレゼントにも見えるが弟からはその中身が贈答品と言っていたので気になっていた。
「それは秘密。でも、シリアルキラーの熱狂的なファンであるアンヘルさんならきっと喜んでくれると思う」
「ふーん、そうなんだ」
「そう言う訳で手紙諸共よろしくね。それじゃ、イベント頑張ってね」
「ありがとう。行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
ルーシィはアタッシュケースを持ちながらイベントがあるビルの中に向かっていった。
「あっ! ルーシィちゃん!」
「アンジェリカちゃん、この間のコラボ振り!」
ビルの中には企業勢と個人勢のV・Sが集まっていた。その中でルーシィに駆け寄ってきた赤毛の女性アンジェリカこそが、彼女の友人アンヘルその人だった。
アンジェリカとルーシィはV・S界隈では同時期にデビューした者同士で頻繁にオフコラボをしている中だった。
基本的にV・Sのコラボはオンライン上で行うので、こう言う顔馴染みが居るだけで心に落ち着きを取り戻す事が出来たのだった。
そうしてイベントが進み、結構長い収録が行われた。色々な企画を終えて最後にプレゼント交換が行われたのだった。
このプレゼント交換会は、ホロホロ企業所属の配信者と個人勢の配信者の交友を深める目的で行われる企画だった。
『さて、ホロホロ所属のアンヘルとプレゼント交換するのはLuckyちゃん!』
「アンヘルちゃん、今日のプレゼントはサプライズで私と私の弟ルー君からの2つだよ!」
「わぁ!? サプライズ嬉しい! それにルー君氏はLuckyちゃんが言う噂のプロハンターな弟さんから!?」
コメント:おぉ! これは熱い!
コメント:さてさて、どんな物が……。なんか厳つくね……?
コメント:マジだ……! あのアタッシュケース、老舗ブランドの限定モデルでは……!?
アンジェリカに渡された鍵付きのアタッシュケースを見て、オフコラボイベントを閲覧していたネット民に衝撃が走った。
実はこのアタッシュケースはサヘルタ合衆国のヨークシンにある老舗ブランドが手掛ける限定モデルで、特別会員だけが購入出来る1個数百万
コメントが加速的に盛り上がった事で配信者達にも動揺が広がった。明らかにポンッと渡して良い代物ではない。
「Luckyちゃん! これ、本物!? ほ、本当に貰っちゃって良いのっ!?」
「うん、良いんだって。ルー君、仕事の都合でオーナーさんから良く貰っていてね……。
使わないと勿体無いからそれごとプレゼントするんだって。ちゃんとオーナーさんには許可貰っているからそこは安心してね」
コメント:オーナーに直接許可って……。
コメント:マジで何者だよ……?
コメント:本当に、プロハンター、なのか……??
ルーシィの説明にコメントを含めてざわめきが続いた。ハンター試験は毎年数百万人を超える人達が応募しても、一摘みの僅かな合格者しか出ない精鋭中の精鋭達だ。
国家資格ではない所謂民間資格であるにも関わらず、ライセンスを取得すれば富や地位、名声や権力すらも得られる代物だけにその真実は信じ難いモノだった。
「……えっ? このアタッシュケースごと?? これ自体がプレゼントじゃないの……!?」
「そうだよー。これが鍵。私も中身は教えて貰えなかったけど、アンヘルちゃんならきっと喜んで貰えるって言っていたよ」
気軽にポンッと渡された鍵を貰ったアンジェリカはドキドキとワクワクを感じながら、恐る恐るお宝の中身を開けていった。
ホロホロ企業もまさかの展開に固唾を飲み込み、ネット民の盛り上がりに同時接続数が急上昇していた。
そして、アタッシュケースをご開帳するとその中に入っていたのは1本のナイフと共に一通の手紙が同封されていた。
ホロホロ企業や他V・Sのファンも金品財宝の類が入っていると思っていただけに少し残念だったが、アンジェリカや彼女のファン達はそのナイフを一眼見て言葉を失っていた。
「これって……!?」
コメント:もしかして、ベンズナイフ……!?
コメント:うわぁ!? マジだ!?
コメント:しかもそれ、初期モデルな上に保存状態もかなり良いんだけど!?
流石は熱狂的なシリアルキラー好きが集まるチャンネルである。一眼見ただけでそれが何かを見抜いたのだった。
『アンヘルちゃん、ベンズナイフとは?』
「っ!? あぁ、はい。ベンズナイフとはですね……」
あまりにも保存状態が良いベンズナイフに見入ってしまったアンジェリカは、興奮しながらもベンズナイフについて熱弁した。
ベンズナイフとは100年前にいた大量殺人犯ベンニー=ドロンが作成した番号入りのナイフである。
ベンニーは人を殺す度に番号入りのナイフを作って販売していたシリアルキラーであり、その数288本にも及ぶとされており熱狂的なファンにとってはマジのお宝だった。
今回、ルキウスが用意したのは製造番号66番の初期モデル。丁度、ベンズナイフが有名になった頃の作品である。
彼は美食ハンターとして世界中で活躍するが、何の因果か旅先で賞金首と鉢合わせする事が多かった。
それで撃退しながら旅を続けていたら、気が付けば288本しかないベンズナイフを4本手に入れる結果となり処分に困っていたのだった。
そして、旅先から帰る直前に5本目も手に入れた事もあり、それなら熱狂的なファンに贈答した方が良いと判断してアンジェリカに贈った旨の内容を手紙に綴ったのだった。
「と言う感じでベンズナイフは、私達の様な熱狂的なシリアルキラー界隈では高値で取引されるコレクションなんですよ!」
『へ、へぇ〜。ちなみに、どれくらいのお値段なんですか?』
「ベンズナイフなら状態が悪くても最低500万Jはします! この初期モデルでここまで保存状態が良いのであれば……!
ヨークシンのオークションでも最低落札価格2000万Jからスタートするくらいの逸品です!!」
『そんなにするんですかっ!?』
「あはは。ルー君、オークションとか興味無いからこう言う美品は価値が分かっている人が持つべきって考えているんだと思います」
残念ながらベンズナイフは中期に掛けてコレクション価格が跳ね上がってくる代物である。
武器としての性能や込められたオーラの量と質、美品としての完成度が中期から後期に掛けて良くなるからである。
アンジェリカに渡した逸品もオーラは篭っているが、中期モデルと比べると淡過ぎてしまう。それ故の美品であった。
アンジェリカはルーシィとまだ見ぬルキウスにとても感激するあまりに号泣してオフコラボは大成功に終わった。
これを機にルーシィとアンジェリカの知名度が更に上がった。ルキウスとしてもそれが2人へ出来る陰からの応援だった。
彼女達はデビューして数年が経過するが規模としては中堅にあたるV・Sであるので、このオフコラボで認知度を高める見せ場を作ってあげたい狙いがあったのだった。
イベントが無事に終わりルーシィとアンジェリカ達が打ち上げを行なっている時、ルキウスと言えば同じ美食ハンターの友達から連絡を受けていた。
「あぁ、ブハラか。久しぶり、元気してる?」
『あぁ、メンチ共々元気しているよ。それで、早速本題なんだけど、ルキウスって半月後に予定空いているか?』
「えっ? 半月後? 特に予定ないよ。久しぶりに姉さんと何処か出掛けようとか思ったけど、今結構忙しいみたいだからさ」
『ルーシィ、料理屋始めたのか!? なんて言う名前の店!? 場所は何処だ!?』
「違う違う。別の仕事。それよりも、半月後に何かあるのか?」
『あぁ、そうなんだ……。もう直ぐハンター試験の時期だろ? それで、俺とメンチが試験官に選ばれた訳だけど、ちょっと不安だから助っ人に来れないか?』
「流石にメンチもその辺りは弁えて暴走しないと思うけど……?」
『うん、知ってる。でも、美食ハンターってブラックリストハンターみたいな王道に比べてマイナーだから突っかかる奴多いと思うんだ』
「……言わんとしている事は分かった。それじゃ、時間と場所が決まったら再度連絡よろしくな」
『助かるよ。今度、美味い店を紹介するさ』
「楽しみにしているよ」
ルキウスは電話を切り隠れた名店を探す為に本能の赴くままに店に入って時間を潰していたのだった。