ハンター協会の美食料理人   作:火取閃光

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第31話

 ウイングと言う念能力者の人生は苦難の連続だった。彼はルキウスが来る前まではビスケの最後の弟子だった。

 

 10歳で心源流拳法の門下生となり訓練を重ねて13歳から燃の修行を行い、3年と言う月日を経て16歳で念能力に目覚めたのだった。

 

 ズシが僅か半年で目覚めたのにその数倍以上も時間を労した辺り、ひよっこウイングと言うあだ名もあって才能が乏しかった。

 

 彼が念能力に目覚めた時期に偶然ストーンハンターを一時休業して、後進育成をしていたビスケット=クルーガーの弟子となった。

 

 彼女の訓練はとても厳しかったが同時に優しさが含まれていた。彼女も覚えが悪いウイングだったが、諦めない鋼鉄の意志がある事をとても高く評価していた。

 

 そんな生活が2年も経った頃、ビスケがストーンハンターとして徐々に復帰を考えて行動していた時に新しく弟子を取った。それが8歳の頃のルキウスとの出会いだった。

 

 18歳の自分よりも10個も歳下の子供を弟子にするなんて最初はビスケの正気を疑っていた。

 

 しかし、連れて来られたばかりの頃のルキウスは誰にも教えられずに自身の感覚だけで纏と絶、練と凝に加えて周を何と無く使っていた。

 

 自分は2年掛けてようやく四大行を終えて発の修行に入ったばかりだと言うのに、この差は何なのかと若干恐怖すら感じていた。

 

 しかし、彼と一緒に修行を行う中でウイングは初めて自分が負けず嫌いなんだと言う事を自覚したのだった。

 

 彼の家族関係はとても複雑な家庭環境で本来辺境伯の貴族として生まれたのに育児放棄された彼は、姉とは違い簡単に親に見捨てられて先生の元に来た。

 

 別にルキウス自身は才能が無かった訳ではない。むしろ物事の本質を理解して技術を真似る事においては、大人の料理人を含めても才能が豊かと言える。

 

 それでも、神に愛されたと言わざるを得なかった天才的な才能を有していた姉ルーシィを前にすると彼の両親や使用人達は霞んだ才能(劣った原石)に見えたのだろう。

 

 彼のそう言う境遇と直向きに努力する姿勢に恐怖心と劣等感を抱いていたウイングは、自身のあまりの愚鈍さに馬鹿らしく思いそれまでの己自身を恥じたのだった。

 

 幼き頃のルキウスは努力こそ惜しまない性格だったが、生き急いだ考え方のあまりに自身の体を壊しかねない程に鍛えていた。

 

 最愛の姉を両親の魔の手から守れなかった己を憎む様に、姉の様な何者かになりたかったかの様にただひたすらに己を鍛えていた。

 

 そんな破滅的な生活を兄弟子らしく諭しながら支えたのがウイングで、才能が真逆な2人は他人から見れば歪に見えたがそれでもお互いに尊敬し合える本当の兄弟の様な関係に至った。

 

「それでは、ウイング先輩」

 

「そうですね……。これにて組み手は終わります」

 

『ありがとうございました!!』

 

 ウイングとルキウス達が行う組み手を見てゴンやポックル、ズシ達は終始興奮していたが、キルアだけは感覚的にその凄さを感じ取り鳥肌が立っていたのだった。

 

「こんな感じで最初はゆっくりで良いから慣れていって、段々と速く配分調整を細かくして見極める力を身に付けて下さい」

 

「流も応用技だから例に漏れずオーラや体力の消耗が激しい。だから、周や発の訓練でオーラ総量等を鍛える意識を持って修行をして欲しい。他に何か質問はある?」

 

「あっ! それなら、ちょうど良いや。質問なんだけど、俺とズシが戦った後の反省会でルキウスさんがズシに周とケン? について言っていたと思うんだけど……。ケンって言うのも応用だよね?」

 

「うーん……。まぁ、キルア君やポックル君達も堅を知るには良い実力になってきたから、教えようと思うのですがよろしいですか?」

 

「私も構わないと思います」

 

「ウイングさん、そのケンって応用技はどんな事が出来るんですか?」

 

「堅と言う応用技は纏と練の応用技です。練で作り出した大量のオーラを留める事で全体的な防御力を格段と高める事が可能です」

 

「例えばなんだけど、ゴンの様な強化系念能力者とキルア君の様な変化系念能力者が同じ技量、同じオーラ量で殴り合いをしたらどうなると思う?」

 

「それは……」

 

「うん? つまり、同じオーラ量で技術も一緒なら流みたいに引き分けるんじゃないの……??」

 

 ゴンの言い分は尤もであるがそれは念能力者の系統が同じ強化系の場合の話である。

 

「いや、そうかっ……!?」

 

「キルア君が察した通り、その条件で殴り合えば最終的に攻撃力と防御力の強化倍率が高いゴン君達の様な強化系がジリ貧で勝つ事になる」

 

「それはオーラ別念系統の極められる割合が関係しています」

 

「あっ! そうかっ……!!」

 

「仮に両者が系統修行を極めているとした時に強化系念能力者の強化倍率は100%に対して、変化系念能力者の強化倍率は80%で差分が20%もあるッス!!」

 

 [つまり、全くの同じ条件で戦うのであれば変化系念能力者は強化系念能力者と比べて、攻撃力と防御力がそれぞれ20%低いからその分のダメージも大きいって事ね……]

 

「その通りです。20%の差は決して甘く見て良い数値ではありません」

 

「本来の戦いならお互いの技量やオーラ総量が同じでも、素直に殴り合いをするのではなく周による武器強化や得意系統による発が行われる。

 

 だからこそ、練や流でカバー出来ない時に全身の防御力を高めて致命的なダメージを和らげる時に堅を使うんだ。

 

 ただし、堅は応用技の中でもオーラ消費が半端なく多くなる。今のポックル君達でも30秒保てば良い方だろう」

 

「えーっと……。具体的な目安とかってあるんですか?」

 

「念能力バトルをするなら最低30分は持続出来ないと話にならないし、本格的な殺し合いをするなら最低限3時間持続出来て30分の戦闘が継続出来る感覚だね」

 

「さっ……!? はぁっ……!?」

 

「そ、そんなに、必要なのっ……!?」

 

 馬鹿みたいに長い時間が必要である事を知りゴン達は表情を引き攣らせた。

 

「だから、今は纏と練を基本に周や発、流を鍛えてオーラ総量や操作技術、スタミナや体力を鍛えて来月から本格的に堅に移行出来たら良い感じだと思って貰えたら良いよ。

 

 ちなみに、アンジェリカさんの掛けられた呪いの解呪条件は堅の維持が2〜3時間出来る程度のオーラ量が必要となるから、これを最終目標にするのも良いと思う」

 

「ちなみにズシは先月からルーシィさんと一緒に毎日堅を行っています」

 

「押忍ッ!! 初日は20秒も保てませんでしたが今はようやく7分間持続する事が出来る様になったッス!」

 

「私はズシ君とやる前から10分は出来ていたから、最近だと調子が良い時は33分間持続が出来る様になったよ!」

 

「堅の維持を10分伸ばそうと思うと1ヶ月間毎日、全身疲労でぶっ倒れるくらいにオーラを出し尽くさないと厳しい難易度だ。

 

 正直言って今やっている修行の練とか発、周とかこれからやる流は堅をやる為の土台作りみたいな所があるからね……」

 

「来月から行う堅の目安は、30分ずつ上げていくつもりでお願いします。それでは、みなさん修行を始めていきましょう」

 

『押忍ッ!!』

 

 ウイング達の開始の合図を聞いてゴンとキルア、ポックルとズシ、ポンズとアンジェリカの様に2人1組のペアを作った。普段の修行の時からお互いの性格や相性、実力を考慮した結果の判断である。

 

 やはり、才能や感覚が飛び抜けて優れているゴンとキルアは始めたばかりでぎこちない動きであるけど、ゆっくりと丁寧にオーラの配分を行い流の訓練を楽しんでいたのだった。

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