前作が突然消えて驚いた皆さんには申し訳ありません。いつもの悪癖です。
俺の名前は
日本に住む二十七歳サラリーマン(独身)だったんだけど、この度勇者召喚に巻き込まれて異世界転移する羽目になった。
なんで異世界なのかわかったのかというと、ステータスやら固有スキルやら、日本ではフィクションの中にしかないものを当たり前のように扱っていたからだ。
俺たちを召喚した王様が言うには「この国は魔王に狙われている、助けてくれ(要約)」なんだけど… 国が困窮している割には王妃様も姫様もゴテゴテに着飾ってたし、王様はデ… ふくよかな体型をしていた。
悲壮感?何それ美味しいの?って感じだった。
これはヤバいと思った俺は、自分のスキルが『ネットスーパー』という向こうからすればショボいものであることを利用して国外脱出を図ったんだが、これが大正解。
なにしろ俺のスキルは
もしもこのことがバレていたらと思うとぞっとする。あのいかにも食べるのが好きそうな王様にバレてたら、一生こき使われる可能性だってあり得たんだから。
「美味しいわ、このスープ」
「この肉料理もウメェ~ッ!」
「お代わりちょうだい!」
「俺にもくれ」
「あはは、まだまだありますから沢山食べてってください」
それは街から出発して五日目のこと。
俺は、護衛として雇った冒険者さん…
俺が好きな生姜焼きと、付け合わせにコンソメスープ。
好きな食べ物を異世界の人たちにも好きになってもらえて嬉しいぜ。
「それにしても、こちらの方ではこの野菜をキャベットと言うんですか?」
「そ─── ……!!」
キャベツなのにキャベット。それが不思議で質問してみると、さっきから美味しそうに食べていたラモンさんがフォークを取り落として凍り付いた。
あれ、変なこと聞いちゃったか? まずいぞ、これがきっかけで異世界の住人だと知られたら大変なことになる。
「……あ~、その、俺の故郷じゃキャベツって呼ばれてまして~…… 聞いてます?」
「うっ、うしッ」
「牛?」
「うしろっ──!!」
ゴゴゴゴゴ、と背後から異様な気配を感じる。
それに気づいた瞬間全身の汗腺が開き、脂汗が一気に吹き出た。
俺はぎこちなく振り向き──
『ニンゲンよ、我の声が聞こえるか』
──そこには、信じられないほど神々しく、見たことが無いほど巨大な狼が立っていた。
思わず、へなへなっと腰から力が抜ける。
「フェンリルだ……」
ヴェルナーさんが顔中汗だくになりながら、うめくようにつぶやいた。
ああ、俺でもわかる。もしも神話上のフェンリルが実在したならこんな感じだろう。知識からではなく、本能的にそう感じる。
だが俺の意識は、ぶっちゃけそのフェンリルが降ろしたモノに集中していた。
オレンジ色の体色。
遺伝子のラセンのようになった触手。
子どものころさんざん見た、特徴的な顔。
これって、これって──
「──────デオキシスだぁぁああーーッ!!」
▼
「フランカ、あの魔物の傷は治ったか?」
「ええ。すごい生命力だわ… あんな重傷を負っていたのに、もう動ける程度に回復してる」
フランカさんは感心していた。
伝説の魔獣──フェンリルの登場にヴェルナーさんたちはものすごく驚いていたが、フェンリルがポケモン──デオキシスを助けるように指図したのですぐに行動を起こした。
なにしろこのフェンリル、一国を滅ぼしたことすらあるというんだから。
逆らえば俺たちみたいなちっぽけな存在、踏み潰すくらい簡単だろう。
「えーと、美味しいですか?」
『うむ。これほど美味な食事にありつけたのは初めてだ』
ヴェルナーさんたちがあのポケモンについて話し合っているかたわら、俺はせっせと料理を作ってフェンリルに食べさせていた。
曰く、走り回って腹が減ったのだと。どうもデオキシスとは面識もなかったらしい。
そんな事情があったのにデオキシスを助けてくれたんだから、と俺も張り切っているが、それにしてもメチャメチャ食べてません? 作ってく傍から食べてってるぞ。
「それにしても、ムコーダさんあの魔物に詳しいんだなぁ。あんな魔物俺たち見たことないぜ」
「え? そ、そうですね……」
そりゃそうだ、異世界にポケモンなんているわけがない。
俺が初めてポケモンに触れたのは『裂空の訪問者』。
それから気が向いた時映画やアニメを見たり、たまにゲームを買って遊んだりしていた。
だから知識はぶっちゃけ浅いほうだけど、デオキシスの顔だけは見間違えない。なんせ『裂空の訪問者』のメインポケモンがデオキシスだったからね。
怪我の理由はわかる。たぶん、レックウザとの抗争が原因だ。
デオキシスとレックウザは切っても切れない関係にある。映画でもアニメでもしょっちゅうレックウザと戦ってたしな。そう推理するのが妥当だ。
『ゲプッ、満足だ。残りはあのオレンジ色のに渡しておけ』
「ぁ、ああはい……」
五、六キロ*1くらい食べたぞこいつ……
まぁこれくらい余りがあればデオキシスに食べさせておつりがくるだろうけど、そもそもどうやってポケモンとコミュニケーションすればいいんだ?
……ええい、ままよ。
俺は生姜焼きとスープの器を両手に持って、恐る恐るデオキシスに近寄った。
「あー、あの、食べる?」
『………』
お、おお?
会話が通じたのか生姜焼きがふわっと浮き上がり、デオキシスの口元へ運ばれていく。
まるで見えない口に食べられているように生姜焼きが消えていき、スープも同じように念力で吸い込まれていった。
「夢見てるんじゃないだろうな……」
ヴィンセントさんがぼんやりと言った。
食事を摂り終わったデオキシスは無表情のままだったが、雰囲気が柔らかくなったような、満足したように見える。
俺の先入観でしかないけど、もしも満足してもらえたのなら俺も料理人冥利に尽き──
『うぬ? そ奴、お主と契約しようとしているではないか』
……え? 契約って何?
『何をボーッとしておる。そ奴がお主と従魔の契約をしてやろうとしているのだぞ』
ジューマ? じゅうま……従魔? それってネット小説で言うところのテイムとかその辺?
………
……
…うっ、そだろ……!!
つまりポケモントレーナーみたいなものでは?! レッドさんとかグリーンとかサトシみたいな?! ずっと憧れてたんだ、ポケモントレーナーになるの!! なれるのか? ていうかなっていいの!? トレーナーに?!
マジかマジかマジか~!! 夢みたいだ!!
「え、えっと、お前はそれでいいのか?」
『………(コクン)』
ヴェルナーさんたちは固唾を飲んで俺たちを見守っている。
『どうした、さっさとしろ』
「あっ、はい! 是非とも!!」
興奮を隠せず叫んだ俺に、デオキシスは触手を伸ばしてくる。
震えながらそれを握り返すと、俺の体が一瞬光った。
「お、おお……」
『うむ。契約はそれで終いだ。次は我だな』
……え?
「いや、フェンリルさんは『あ"?』あの、謹んで辞退させてもらうと言いますか『お"ぉ"?』
フェンリルが尻尾をタシンタシンと叩きながら、まるでヤの者のような眼光を飛ばしてくる。
待ってくださいよ、相手は伝説の魔獣ですよ?
しかも喋るんですよ?
確実に目立つじゃないですか。俺は商人兼トレーナーとして平穏に過ごしたいんですが。
『まさかと思うが貴様、そのよくわからん魔物はよくて我
ひぇええ、人食い熊が泣いて逃げ出すレベルの形相だよ……
多分これ以上渋ったら俺たちとんでもない目に遭うな……
ま、まぁ突き詰めたら魔物もポケモンも大差ないし、一匹が二匹になったって変わらないだろ…
「……わ、かりました」
しぶしぶ承諾すると、フェンリルは満足そうに頷いて『ではこちらに参れ』と言った。
促されるまま額同士をくっつける。
『よし、これで契約の儀式は終わった。……むん? お主、鑑定のスキルを持っているではないか。もしや召喚ゆ(ry』
「わーーーっ!! わっ、わーーーー!!」
『モゴゴ、おい何をするッ』
(そのことは秘密なんです!! どうかご内密に!!)
『フスン、人間はみみっちい秘密を守りたがるものだな。まぁよい、これでその魔物と我の契約はしまいだ。ステータス画面を見てみろ』
そうしてステータスを見てみると……
【 年 齢 】 27
【 職 業 】 巻き込まれた異世界人
【 レベル 】 1
【 体 力 】 100
【 魔 力 】 100
【 攻撃力 】 78
【 防御力 】 80
【 俊敏性 】 75
【 スキル 】 鑑定 アイテムボックス
従魔
《契約魔獣》デオキシス フェンリル
【固有スキル】 ネットスーパー
なるほど~と感心してると、いつの間にかフェンリルがそれを覗き込んでいた。
『うむ、大丈夫のようだな』
「え? 見えるの?」
『我を何だと思っている、風の女神の眷属たるもの鑑定のスキル程度持っているわ。
よし、これで我はお主の契約魔獣だ。我らはお主を守る代わり、お主は我の世話をする必要がある。それはわかるな?』
あ、ハイそれはわかる。
ポケモンも風呂に入れたり
「それじゃあ、これからよろしくな。ポチ」
『キサマ我をナメているのか?』
「え?! ポチよくないか!? じゃあコロ…」*2
『痛い目にあいたいか?』
「うぐ…… じゃ、じゃあお前はフェルで、あいつはデオ……」
『フェルとデオか。安直だが良い。おいデオ! お主はそれでよいな?』
ふわふわ浮いてるデオキシスにフェルが言うと、デオキシス──デオはコクンと首を振った。
なんだよー、ポチとコロいいじゃん。日本を代表する名前だぜ? ペットのだけど
『ではこれからも、美味い食事を期待しているぞ』
「……は? じゃあお前、俺の料理目当てで従魔になったのか?」
『フェンリルの寿命を考えればたかが数十年など瞬きと同じ。たったそれだけの時間であれほど美味い料理にありつけるのだからまったく問題は無い』
言ったよ、数十年って。寿命までくっついて回る気まんまんじゃん。
飯目当てだって断言しやがって、それはそれで傷つくわ!
はあ…… デオキシスのトレーナーになれたのは降って湧いた幸運だけど、こんな調子で大丈夫なもんかね……
あの緑色のポケモンに襲われて、別の星に墜落して、もうダメだと思った。
でも見たことのない青いポケモンと親切な人間が僕を助けてくれた。
さしだされたご飯はとても美味しくて、こんなに素敵なものが毎日もらえるのならついていきたいと思った。
ご飯が目当てだと知った人間はとても残念がってたけど、見知らぬポケモンに食事をくれるその親切さは誇るべきものだと思う。
これからどうなるのかはわからない。わからないから、僕はこの人についていく。
故郷で親切にしてくれた、あのトレーナーにそっくりなこの人へ。
余計な文を削除して、デオキシスの内面描写を加筆しました。