こんなクソカスな私を愛してくれてみんなありがとうな
ひょんなことからフェンリルとデオキシスのトレーナーになってしばらく。
俺たちはフェーネン王国のすぐそばまで来ていた。
今は昼休憩中だ。空を見上げるとデオがふわふわ飛んでいて、手を振る俺に向けて胸の水晶をチカチカ光らせた。
あぁ、ポケモンが側にいるっていいなぁ。まだ現実味はないけど、ちょっと感動しちまうぜ。
『おい、飯を作れ』
「……はー。フェルさんや、別に大食いなのはいいけど物には限度ってのがあるぜ?」
『何を言うか、お主らのことも考えてきちんと節制しておるぞ』
「キロ単位で食べるのは節制とは言いませんー。お前がガツガツ食うからレッドボアの肉がピンチなの」
『ぐぬ……』
痛い所を突かれたのか、フェルが苦虫を噛み潰したような顔になって黙った。
旅の間こいつがやたらめったら肉を欲しがるせいで肉の在庫がヤバいんだ。
子どもじゃないんだから自分の食い扶持は自分で稼いでくるのが当たり前だろ?
レッドボアの肉は俺のものじゃないんだから、そんなに肉が食いたいなら自分で獲ってこいよ。
『わかった。では自分で獲ってくればよいのだな?』
俺が頷くと、フェルはデオに合図し、脇道の森へ走って行った。
デオともフェルともまだまだ打ち解けられてないアイアンウィルのみんなは、心底ビビった目で俺を見ていた。
「……む、ムコーダさん。レッドボアの肉使ってくれていいんだぞ」
「いやいや、そんなわけにはいきませんて。せっかく皆さんが頑張って獲ってきてくれた肉を食い尽くしてしまっては、皆さんの口に肉が入りませんからね。
この先私についてきてくるのなら自分の食い扶持くらい自分で稼いでもらわないと」
俺の自費で買うのにも限度があるし、狩りなんてもってのほかだしな。
伝説の魔獣と言うくらいなんだから自分の食べる分なら自力で獲ってこれるでしょ。
すると、みんながなんか尊敬に満ちた目でこっちを見つめてきた。
えぇ……? 当たり前のこと言っただけなのにな……
で。
『言われた通り肉を獲ってきてやったぞ。約束通り飯を作れ』
ズシンと置かれたバカでかい鳥を前に、俺はあんぐりと口を開けていた。
『こ奴の力は便利だな。わざわざ咥えずとも運んでくれたぞ』
デオは無表情だが、フェルともどもドヤ顔をしている…ような。
「ろ、ロックバードだ……」
「ええと、ロックバードってフェルが獲ってきた獲物ですよね?」
「ああ、Bランクの魔物だ。俺たちが全力で戦って勝てるかどうか……」
Oh……
あの森の生態系、ガラッと変わるだろうな。南無阿弥陀仏……
てか、フェルさん? そんなサイズの鳥をよこされてどう解体しろってんですか?
解体するのにも血抜きとか内臓をとる必要があるし、こりゃヴェルナーさんたちに任せるしか……
俺たちがどう解体するか話していると、おもむろにデオが動き出した。
まるでウルトラマンみたいに両目を光らせて、ロックバードの体を上から下まで観察しているようだった。
その触手が揺らめくや、ロックバードの体が首を下にして浮き上がり、重力で出てるにしてはおかしい量の血がドバドバとあふれてくる。まるでサイコキネシスだ。
「うわわっ! ち、ちょっとデオ! 川で! 川でやってくれ!」
慌てて川を指さすと、デオはロックバードの亡骸ごとスイーと移動していく。
川辺でロックバードの体が、まるで見えない手で切り刻まれてるように『分解』されていく。まるで解体シーンをコマ撮りしてるみたいだ。
ウェップ……グロいどころじゃないよ……
『何を顔色を悪くしておる、さっさと飯を作れ』
「お前は一も二もなくそればっかしかよー…」
野生動物みたいなものだからグロには慣れっこなんだろうな…
さて、ご期待に添えるよう俺も張り切りますか。
まずは筋取りをしたロックバードを両面こんがり焼く。
余分な油が出てくるのでキッチンペーパーで取り、アイテムボックスにまとめて捨てる。
どこかでゴミ処理魔道具とか手に入らないもんかねー。
表面がカリカリに仕上がったところで照り焼きのタレを投入! ふつふつ煮立つタレを肉に絡めて──完成! ロックバードの照り焼きだ!
『むおお、なんと良い匂いだ! 早くよこさぬか!』
「はいはい、人間用のができたらね。お前は体がでっかいから最後!」
『む、そうか。なら待つとしよう』
スープは、いつもありあわせのコンソメスープにしてるから今日はフリーズドライのにしようかな? そっちのほうが具沢山だしね。
そしてみんなの分を取り分け、フェルとデオのぶんもつくって、ようやく一息ついた。
「では食べますか! いただきまーす」
「はぐっ。うわぁ、カリカリなのにじゅわっと肉汁が出てくる!」
「このスープも具がいっぱい入ってるぜ、贅沢だなぁ~」
「うむ、うまいな」
みんなが美味しそうに食べている中で、ヴェルナーさんは浮かない顔だ。
「どうしたんですか?」
「いや、国境を越える時どうしようと思ってな… フェンリルと見たこともない魔物を連れていたら間違いなく目立つだろう?」
……あ。
やっべえ、そのことすっかり忘れてた。
思わず言葉が詰まると「もしも怒らせたら国一つ滅ぶからな」「えっ? あのお伽話本当なの?」「本当よ」と、恐ろしい情報がずらずらずら。
国一つ? とっさにフェルを見ると、こっちに気づいていないらしく美味そうに照り焼きを食べながらデオと談笑していた。
『それにしてもデオ、お主はなかなか見どころのある魔物ではないか。どうだ? 我じきじきに手合わせしてやらんこともないぞ』
『………』
…ハハハ、いやまさか。あの姿はどう見ても親戚の甥っ子に絡むおじさんですよ?
口の周りタレまみれだし。威厳の『い』の字もないじゃないですかー。
『お主たち、何やら心配しているようだが案ずることは無い。いざとなれば我が打って出ればいいだけのことよ』
「いっ、いえいえフェンリル様『フェルだ』……フェル様に本気を出されると大変困ると言いますか……」
『困る? 何がだ。滅ぼされたくなければ手出しせねばよい。承知の上で手を出すというのであれば、こちらにも考えがあるというだけだ』
Q.E.D.と言わんばかりにフェルがフスンッと鼻を鳴らすと、ヴェルナーさんたちは絶句してしまった。
『おいデオ、行くぞ』
みんな唖然としている中でフェルはデオに声をかけて、平原に歩き出していく。
「お、おいどこ行く気だよー」
『先ほどデオに手合わせするか聞いたら是非にと言われたからな、あそこの開けた土地でなら文句はあるまい』
デオの言ってることがわかるのか?
そう聞くと『我ほどにもなれば念話で会話することなどたやすい』と、実際に頭の中に呼び掛けてきた。
「いやいやフェル、そんなことしたら野原が焼け野原に」
『何をうまいことをいっておる、加減はするわ。お主も来い。我の力を目の当たりにすればお主らの心配もなくなるであろう』
そういう心配をしてるんじゃないんですがね。
2026年3月14日:説明不足な部分を書き足しました。