完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました 作:雑穀ライス
「ねぇねぇ君、パフェとか食べたくない?」
ナンパされた。
しかも相手は私が知っている人だった。
「あ、
金髪に無精ひげにサングラスの三点セット。声が聞こえた方向に振り向くと、知らない人が見ればまるでヤクザの下っ端と勘違いしそうな怪しい風体の男が私の後ろに立っていた。
その姿は、着ている服がジャージであること以外は私の前世の記憶にある
「ていうか、ジャージ似合わないね」
「ほっとけ!つーか人違い!!俺は佐藤じゃなくて斉藤だ!!あと社長じゃなくてトレーナーだっての!!!」
むう、社長も前世の記憶なしかぁ。寂しいなぁ。
でもルビー以外の前世の知り合いに出会えた嬉しさと懐かしさで私の心には温かいものが溢れていた。
「それより社長、今の私ウマ娘なんだけど大丈夫?スイーツなんて奢ったらお財布空になっちゃうよ?」
「おかわりは禁止だ」
えー、ケチー。
というわけで、社長と一緒にカフェにやってきた。
「私をスカウト?私まだ選抜レースにも参加してないよ?」
「やる気UPスイーツ抹茶味・ウマ娘サイズ(お値段3000円。学割価格)」をパクつきながら社長とお話をする。
うん、おいしい。ビールジョッキぐらいの大きさの容器にスイーツがメガ盛りされたこのパフェは人間基準だと3~4人がかりで食べてやっと完食出来るってサイズだ。これが学割で3000円で食べられるのはかなりお得だと思う。トレセン学園の外で食べると5000円ぐらいするんだよね。
「選抜レースを見るまでもないさ。一目見て分かったよ、君は特別だってな。君なら絶対にスターになれる」
「ふふっ」
その言い方があまりにも自分の知っている前世の社長のままで、私は思わず笑ってしまった。
「ん?なんか俺変なこと言ったかな?」
「『君ならGIレースを勝てる』じゃなくて『君ならスターになれる』って言い方がなんか社長らしいって思ってさ」
前世からの縁だ。こちらの世界でも社長のところに転がり込むのもやぶさかでない。
しかしその前にこれだけは確認しておきたかった。
「ねぇ社長。社長はレースとウイニングライブ、どっちが好き?」
歌うために走るのか。
走るために歌うのか。
私が走る理由は、歌うための手段だからだ。
いつか、パンドラお母さんのように何万人も観客が集まったライブ会場で自分の歌を歌うのが今の私の夢。
しかし、いつの間にかどっちが「手段」でどっちが「目的」なのかわからなくなってきた。
初等部の個人戦でルビーに負けたときはすごく悔しかった。
初等部のチーム戦で渋滞に巻き込まれて負けたときは泣きそうになった。
勝利の喜びはいまいち理解出来ないのに、
敗北の悔しさだけは耐え難いほどに胸に響く。
「私達って、歌うために走ってるの?走るために歌ってるの?どっち?」
私は自分が歌いたいのか、それとも走りたいのかよく分からなくなっていた。
でも、かつて私に「嘘でも『愛してる』って言ってるうちに、嘘が本当になるかもしれない」と言ってくれた社長なら。
この胸のモヤモヤを晴らしてくれるかも、という期待を私は抱いていた。
「…『君は走るために生まれてきたんじゃない。愛されるために生まれてきたんだ』」
「それ、ライスシャワーのトレーナーの言葉ですよね」
「はは、知ってたか」
社長の答えは、『疾走の馬、青嶺の魂となり』の漫画の最後にライスシャワーのトレーナーの語った言葉だった。
私が読んだのはもう10年ぐらい前の話なんだけど、結構有名なんだねあの漫画。
「ま、走るのも歌うのもファンに愛されるための手段に過ぎないってこった。3連覇のかかった宝塚記念のゲートの中で飛び上がって120億円分のバ券を紙クズに変えたのに全然人気が衰えない変人ウマ娘だっていることだしな。
中には『金のため』というある意味わかりやすい理由を持って走ってる奴もいるかもしれないが、トレセン学園に入学したウマ娘のうち7割弱がレースで1勝も出来ずに引退する業界なんだから金のために走れるのも一種の才能だ。やりがいを感じてなきゃ続けていけんよ、この業界は」
「じゃあ社長のスカウトを受けたら、もしも私が全然勝てなくてもファンに愛されるウマ娘に育ててくれるってことでいいよね」
「おう任せとけ。そんときはハルウララ並のアイドルウマ娘に育ててやるよ」
胸をドンと叩きながら、社長が言う。うん、やっぱり社長はこの世界でも頼りになりそうだ。
聞きたいことは聞けた。なら、答えは一つだ。
「これから
「歓迎するぜ。未来の大スター」
私は社長とがっしりと握手をする。
この瞬間、たったの一か月足らずでトレセン学園に入学したウマ娘たちの第一関門であるトレーナー探しが完了してしまったのだった。
「というわけで、私のトレーナーが決まりました」
「へー、やるじゃん」
その翌日、私はトレーナーが決まったことをルビーに話した。
「そのトレーナー、もしも私が勝てなくても立派なアイドルにしてくれるって言ってくれてさ。おすすめだよ。ルビーもどう?」
「んー、考えとく。ていうか、逆指名って出来るんだっけ?トレーナー選びって」
「私がルビーのことをトレーナーに推しておくからきっとスカウトしてくれるよ。多分」
私はルビーと一緒にアイドルをやるという目的を実現させるために、ルビーにウチの社長の売り込みをしていた。
ルビーを口説きながら、私たちはゆっくりとトレセン学園の廊下を歩く。
――そのとき、トレセン学園の新任医師らしき人とすれ違った。
「……医務室はこちらです。雨宮先生にはここでウマ娘たちのケアをお願いすることになります」
「はい、これからよろしくお願いします」
「ええ、ウマ娘に怪我や骨折は付き物なのでこちらこそよろしくお願いします」
トレセン学園理事長の秘書である駿川たづなさんが、トレセン学園に新しく赴任してきた男性の医師に施設の案内をしていた。
お医者さんの顔をちらりと見たが、どこか見覚えのある顔だった。多分前世で出会った人だと思うのだが、幾分10数年以上前のことなので記憶の片隅には引っかかってはいるもののどうもはっきりと思い出せない。誰だっけ、この人。
そんなうろ覚え状態の私と違って、お医者さんの顔を見たルビーの反応は劇的なものだった。
信じられないものを見た、という驚きの反応。
そして、抑えることの出来ない激しい歓喜の感情がルビーを支配していた。
「せ…せんせぇええええええええええ!!!!!!!!」
感極まったルビーが、医師に全力で飛びついた。
自動車並の速度で走るウマ娘のパワー全開で。
「あらあらあら」
「死にそうだね、あのお医者さん」
私は「クロノちゃんがやっていた格闘ゲームであんな感じの技を見た記憶があるなぁ」と呑気に考えながら、ウマ娘が交通事故を起こす瞬間をたづなさんと一緒に眺めていた。
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登場人物紹介⑪
斉藤壱護
前世で星野アイが所属していた芸能事務所「苺プロ」の社長。
児童養護施設から脱走したアイをスカウトしてアイドルにした張本人。
この世界では彼はウマ娘のトレーナーであり、ウマ娘として生まれたミヤコのトレーナーになって後に結婚した。
ファン人気だけで中央トレセン学園に特待生として入学し、挙句の果てには1度もレースに勝利したことがない状態で有馬記念にまで出走したハルウララに脳を焼かれて「脚の速さを競うだけがウマ娘の魅力ではない」と考えるようになった。
自分が担当するウマ娘は主に「アイドルウマ娘になれる素質を持っているか」を判断基準としてスカウトしているため、担当しているウマ娘の中から重賞を勝利したウマ娘はあまり出ていない。
そのため彼は担当ウマ娘のファンからは「ウイニングライブガチ勢」と呼ばれ、口
ヤクザの下っ端のような顔とジャージがミスマッチで全然似合ってない。