完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました 作:雑穀ライス
「今日からこのチームに入った新人ウマ娘のアーモンドアイだ。仲良くしてやれ」
「アーモンドアイです。よろしくお願いします」
私は社長がコーチングをしているウマ娘のメンバーと顔合わせをしていた。
「うわ…レベル高っ……」
私のほかにメンバーは4人。流石はみんなウマ娘だけあって美人揃いだ。ビジュアルが映えるウマ娘ばかり揃っているのは社長の趣味なんだろう、多分。
私はチムメンに自分が知っている顔がないことを確認して密かに安堵した。前世で一緒にアイドルやってた知り合いがいたらお互いに居心地が悪いと思うし、うん、良かった。安心した。
「改めてウチの方針を説明する。俺たちの目標はとにかくウイニングライブに出ること。レースでは3着以内の入賞を積み重ねていくのが基本だ」
社長がチームの方針についての説明を始める。
「目標は3着以内だが、1着を諦めるというわけじゃないぞ。センターで歌ったほうが人気が出るし、賞金も多く出る。出走するレースのグレードが高くなればさらに観客も賞金もどんどん増える。怪我無く無理なく、自分の手の届く範囲のものを全部かき集めるのが俺達のやり方だ」
「泥臭いやり方だねー」
「うっせ!世の中舐めんなお子様が!こうやって地道な努力をコツコツ積み重ねた奴が最後に笑うんだよ!!」
図星を指された社長がキレた。
まあ私が日本を代表するアイドルなんて言われたのは遠い昔というかそれこそ前世の話だし、今の私はウマ娘基準では多少可愛い程度のデビュー前の小娘に過ぎない。無名のアイドルがドサ回りから始めるのは順当なところだろう。
なんだか地下アイドルやってたころを思い出した。うん、あの頃は若かったなぁ。人生やり直してるから今でも若いけど。
「ま、チームの説明はこのぐらいにしておいて…」
社長が頭を掻きながら話題を変える。
「これからこのメンバーでアーモンドアイのウェルカムレースをやろう。お前が勝てたらこのチームのセンターはお前でいいぞ、アイ」
というわけで、チムメンの先輩たちとレースをすることになった。
先輩は
3年以上走り続けてようやく2勝。レースで一勝出来るのは3人に1人、2勝出来るのは30人に1人という過酷な世界であることをしみじみと感じる。
でも、この人たちに勝てないとパンドラお母さんが立ったあの舞台にはたどり着けないんだ。
私は密かに闘志を燃やしながら、社長たちと一緒に練習用のコースに向かった。
ウェルカムレースの距離は1600m。つい先月まで小学生だった私に合わせて距離は短めだ。
私はスタート地点にあるゲートの中に入って、そこで深呼吸をする。練習とは言え、これが中央トレセン学園での初めてのレースだ。悔いの残らないレースにしよう。
ガシャン、という音を立ててゲートが開くのと同時に私は飛び出す。
スタートは上々、後は自分のペースをキープして最後の直線でラストスパート…と算段を立てていたら早速先輩3人にリードを奪われる。
先行集団に混ざって走ろうと思っていたのにいきなり作戦を狂わされて私は戸惑う。どうする?多少無理してでも先輩たちについて行くべきだろうか。
私が迷っていると、そこに私の隣で並走していた先輩が囁きかけてきた。
「私、今日の作戦は追込」
先輩のその言葉を理解するのに、私は少し時間がかかった。
えっ?追込って序盤と中盤は体力を温存して最後の直線で最後尾から一気にごぼう抜きする作戦だよね?私の8割ぐらい本気で走っている今の速度が、先輩にとっては体力を温存した速度?
「途中まで一緒に走ってあげる。よろしくね、ルーキー」
そういって先輩は私の前に出て、私を馬鹿にするようにお尻と尻尾をふりふりと動かしながら走り出した。
「~~~~~~っ!!!!」
そこで私はキレた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
…結局、私はこのウェルカムレースで最下位となった。
耳もとで先輩に挑発されてキレた私はムキになって全力で先輩を追走し、そして800m地点でバテた。
先輩に20バ身以上の大差をつけられてへろへろになりながらようやくゴールして、今はコースで大の字になってぶっ倒れているところだ。
「はひっ、あへぇっ、おほっ、んほぉっ」
「発情したブタの鳴き声みたいな喘ぎ声を出すな」
喘ぎ声が汚いと社長に怒られた。むう、失礼な。
「息が整ったら次はウイニングライブの練習だ。疲労を理由に笑顔が抜け落ちたブサイクな顔を晒すんじゃないぞ」
そんなことしないもん。これでも昔はプロのアイドルやってたんだぞ。
「…どうだ、アーモンドアイの具合は?」
体力を使い果たしてぶっ倒れているアイから少し離れたところで、斉藤トレーナーが自分の教え子たちに尋ねる。
「本格化前の身体で私に途中までついてきた。将来有望」
アイと並走していた追い込みウマ娘が言った。
アスリートとしての全盛期が15~16歳であるウマ娘にとって、本格化前と本格化後では文字通り子供と大人ほどの差がある。後先考えない全力疾走とはいえ、800m近くも本格化後のウマ娘に付いていけたのだから大したものだ。
のほほんとした普段の態度とは裏腹にレース中はかなり負けん気が強いところも高評価だ。闘争心の高さはラストスパートの最後の追い込みの決め手になる。
もしかしたら、2年後には本当にGIレースで勝利しているかもしれないという期待を持たせる走りであった。
「壊さないように大事に鍛えてあげてね。トレーナー」
「たりめぇだ。アイツはこの世代の頂点取れる逸材だぞ」
斉藤トレーナーは、まるで親が我が子を見守るような優しい目でコースの上で寝そべるアイを見つめていた。
トレセン学園の中のそこそこ人通りの多いところで、私達は草ライブの準備をしていた。
ポジション確認、私は左端の一番下座。5人でのライブなのでバックダンサーをやらされるよりは大分マシだが、センターで歌えないのはなんだか悔しい。
…そう言えば、私はアイドルになってからずっとセンターで歌ってきたということを今更ながら思い出した。
初等部のレースはあくまで体育の授業的なものだったので、レースの後のウイニングライブはなかった。路上ライブとはいえ、今日は生まれ変わってから初めてのライブだ。
センター以外の場所から見る景色は、なんだか不思議な感じがした。
私は星野アイではなく、アーモンドアイ。超売れっ子の一番星のアイドルではなく、ただの駆け出しウマ娘なのだとしみじみと感じさせられる。
――まあ、そんなことはどうでもいいんだけどね。
舞台の上に立てばそこは私の
…ところで独壇場って「どくだんじょう」って読むんだっけ。それとも「どくせんじょう」?ま、どっちでもいいか。
私達はデビュー戦と未勝利戦のウイニングライブで歌う曲となる「Make debut!」を歌った。
路上ライブをやっているところに通りがかって私と目の合った子に手を振ってアピールする。「私は貴方を見ている」とメッセージを送るのが重要だ。
視線を向けられていることを嫌がる人もいる。路上ライブをやっているのだから好意的な反応が返ってこないパターンがあることも織り込み済みだ。それでも私に興味を持ってくれる人のほうが多い。トレセン学園の敷地内での路上ライブなので聴衆側に理解があるのが私にとってのアドバンテージだ。
私は愛を込めて、歌う。
「私の愛が貴方に届け」という想いを込めて、歌う。
愛とは「あなたに幸せになって欲しい」という願いを込めた、祈りだ。
私は前世の死の間際にそれを知った。
だから、今の私は「愛」を歌える。
「愛してる」って、胸を張って言える。
――貴方に届け、私の「愛」。
「お前、本当にハルウララみたいだな」
路上ライブが終わった後、私は社長からそんなことを言われた。
うん、褒め言葉だとはわかってるけどなんかモヤモヤする。
私はハルウララちゃんのライブは見たことないけど、まさかハルウララちゃんって前世の私ぐらい人気のあるすごいウマ娘だったの?
前世の私ぐらいの人気のウマ娘は普通にいる。その事実を突きつけられて私はなんだか鼻を折られたような気分になった。
ウマ娘業界、恐るべし。
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登場人物紹介⑫
ハルウララ
スリーサイズはB74W51H73。
生涯戦績0勝113敗。連敗記録日本2位。
地方のトレセン学園に通うウマ娘だったが、彼女には負けても1位の時と同様に観客に笑顔でアピールするという特徴があり、勝てなくてもへこたれず常に笑顔で一生懸命に走り続ける姿に感化される観客が続出した。
ウイニングライブでもバックダンサーの常連だったが、レースで負けていても「嘘偽りのない笑顔」を振りまきながら全身で楽しさを表現するライブの様子が名物となり一度も勝てないまま着実に人気を伸ばしていく。彼女の連敗記録が80を超えた辺りでその名前は全国に広まり、終わりの見えない不況に喘ぐ日本の社会人から「負け組の星」として全国的な人気・知名度を獲得するに至った。
地方トレセン学園卒業後、18歳で中央トレセン学園に特待生として編入。ファンからの人気という一芸特化で中央トレセン学園に入学した唯一無二のウマ娘となる。中央トレセン学園には1年間在籍し、未勝利ウマ娘のまま2004年の有馬記念に出走するという前代未聞の偉業を達成した。
有馬記念の結果は最下位だったが、そのレースで優勝したゼンノロブロイが「ウララちゃんと一緒にウイングライブをやるのは末脚自慢のウマ娘と最後の直線勝負するぐらい緊張した」と言ったことから「得意レース:ウイングライブ」と言われるようになった。
登場人物紹介⑬
追込ウマ娘
スリーサイズはB71W54H80。ほぼサイレンススズカ並のサイズである。
斉藤トレーナーのチームに所属するウマ娘。
「シャープアトラクト」という立派な名前があるが、所詮は一般通過モブウマ娘なので作中で名前を呼ばれる機会はあんまりない。
10年後、「GI9冠ウマ娘のアーモンドアイに練習中のレースでケツ振って挑発した唯一無二の先輩ウマ娘」という「絶対にすべらないネタ」として一生言われ続ける運命が待っていることを彼女はまだ知らない。