完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました   作:雑穀ライス

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羊と狼を同じ部屋で飼う話

 私の同室の先輩が、トレセン学園を辞めて地元に帰ってしまった。

 結局先輩はトレセン学園の公式試合で1勝も出来なかったらしい。トレセン学園のレースで一度でも1着を取れるウマ娘は3人に1人しかいないとよく聞いていたが、彼女はその3人のうちの1人には入れなかったようだ。

 

 私がウマ娘になる前にアイドルをやってたときも、似たようなことはしょっちゅう起こっていた。前世のアイドル業界はアイドルを続けていられる期間は平均4年程度だと言われるぐらいに入れ替わりの激しいところだった。

 アイドル業界の女の子たちは、「若さ」という将来性が失われた時点で才能の無い者は見限られる。

 その厳しい生存競争はウマ娘の世界でも変わらないどころか、アイドルとアスリートの要素が融合したことにより更に激しくなっていた。せいぜい「若さ」が「体力」という言葉に置き換わったぐらいでその本質はほとんど変わらない。

 

 ウマ娘にとって、「みんなでお手々を繋いで一等賞」が許されるのは幼稚園まで。

 ほかの子たちより前を走らないと、置き去りにされる。

 つまりウマ娘にとって渋滞(オペラオーシフト)対策は必須科目ということなのだ。

 

 え?それは違う?そんなー(´・ω・`)

 

 

「…そう言えば、なんて名前だったっけ。あの先輩」

 私は先輩と一年間一緒の部屋で暮らしていたけど、人の顔と名前を覚えるのがすごく苦手なので私は先輩の名前をすっかり忘れてしまっていた。たしか苗字が「西野」だったことだけはかろうじて覚えていたけど、その下の名前が全然思い出せない。

 

 だから、調べた。

 

「…『ニシノウインター』っていう名前だったんだ。あの先輩」

 

 どうやら私の同室の先輩の名前は西野冬子ちゃんだったようだ。漢字で書くとなんだかウマ娘って感じがしないよね。

 

 

 

――アンタなんて死んじゃえばいいのに!!!

 

 

 

 そのとき突然、前世でアイドルをやってたときの記憶がフラッシュバックした。

 なんで今更。しかも同じB小町のメンバーに楽屋で言われた言葉を。

 

 

 …えっと、誰に言われたんだっけ。あの言葉。

 

 

 

 そうだ、ニノだ。

 B小町の初期メンバーで、私がB小町に加入する前はB小町のセンターをやってた子…だったはず。

 元センターなのにメンバー内の立場(ヒエラルキー)が低くて少しだけ親近感を持っていた。

 まあそのヒエラルキーの最下層は私だったんだけどね。B小町の初期メンバーにはよく私物を隠されたり捨てられたりしていた。

 

 そんな底辺の私が社長の独断と偏見でB小町のセンターになって、しかも人間関係以外はそこそこ上手くやれてたのがニノにはストレスだったようで私は彼女から「死ね」という言葉を叩きつけられたのだった。

 

 

 えっ、「そのとき私はどう思ったの」って?

 「ま、仕方ないかぁ」って感じだったよ。

 

 私みたいな嘘吐きな子に対する評価としては妥当なものだったと思うよ。それに女子が集まればギスるのは当たり前の自然現象だし、諦め以外の感情なんて湧き起こらなかった。傘を持ってきていないのに雨が降ったときに感じる「嫌だなぁ」と思う気持ちのと似た感じかな。

 

 

 参ったなぁ。

 あのときニノに「死ね」って言われたことははっきりと覚えているのに。

 

 

 

「ニノの顔、全然思い出せないや」

 

 

 

 

 誰かが言ってたけど、『誰にでも優しくて怒らない人』っていうのは聖人君子なんかじゃなくて他人に期待することをやめて自分だけの世界を守ろうとしているだけの人らしい。

 私は多分こっち側だ。人の顔を覚えるのが苦手なのもこれが影響しているんだと思う。

 

 私は自分が思っている以上に薄情な人間だったのかもしれない。

 

 

 

 

 去っていく人もいれば、入ってくる人もいる。

 西野先輩がいなくなったので、私の部屋には新しく後輩が入ってくることになった。

 

 なのだが。

 

「……ヒカル?」

「…まさか、アイさんと同室になるとは思ってもいませんでした」

 

 私の新しいルームメイトとして現れたのは、なんとヒカルだった。

 

 えっ?

 私とヒカルが、同居?

 

 えっと、それって、つまり。

 

 

「食べていいのかな?」

「食べないでください」

 

 私の煩悩塗れの独り言は、ヒカルにきっちりと拒否された。

 

 

 取り敢えず私は部屋にヒカルの荷物を運び込むお手伝いをした。

 西野先輩の私物がすべて片付けられて広々としていた私の部屋に次々と家具と段ボールが運び込まれていく。ウマ娘のパワーをもってすれば机を運ぶのも楽勝だ。

 あっという間に西野先輩が住んでいたスペースはヒカルの住処へと変貌した。

 

「これでよしっと」

「ありがとうございました、アイさん」

「堅苦しい言葉遣いはいらないよ?もっと自然に話していいよ」

「うん、じゃあお言葉に甘えて」

 

 パパっと引っ越しの荷物が片付いたので、空いた時間で今からフリートークタイムだ。

 

「えっと、ヒカルって演劇とかしてるの?」

「してないよ。妹と一緒に走ってばっかだね」

 

 えっ、そうなの?

 

「男の人とか、女の人とかにモテモテだったりする?」

「男性には優しくしてもらえることも多いけど、ウマ娘としては普通かな?妹も同じぐらいモテてるし」

 

 うーん、どうやら私の前世の知識は全く役に立たないようだ。

 前世よりもヒカルの境遇が良さそうなのでまあいいか。

 

 えっとえっと、それじゃあ。

 

「おっぱいは揉むほうと揉まれるほうのどっちが好き?」

「君の質問の意図が分からないんだけど」

 

 私の質問を聞いたヒカルは一瞬宇宙を背負った猫のような表情をした後、引き攣ったような笑みを浮かべた。

 その表情はゴールドシップさんの奇行を見たクロノちゃんの仕草にそっくりでなんだか傷つくんですけど。

 

「これからヒカルとルームシェアをして暮らすんだから、私達のおっぱいもシェアしたほうがいいんじゃないかと思って」

「おっぱいシェアなんて単語、生まれて初めて聞いたよ」

 

 ヒカルの視線がアホの子を見る目に変わった。なんだか悲しい。

 

 ちなみに初等部のときはぺったんこだった私のおっぱいも中等部に上がった瞬間すくすくと育ち、もうすぐDカップに届きそうな気配を漂わせている。パンドラお母さんもすごく大きかったので私はしっかりお母さんの遺伝子を継承しているのだろう。お母さんありがとう、あなたの娘は立派に成長しました。

 そしてヒカルのおっぱいは私のおっぱいより二回り以上デカい。なんだろうこの言いようのない敗北感は。

 

「えい」

「うわっ」

 

 なんだか腹が立ってきたのでヒカルを押し倒した。

 運び込んだばかりのベッドの上で、ヒカルに覆い被さるような体勢で私達は至近距離で見つめ合う。勢い任せでヒカルを押し倒してしまったが、そこから次の会話が繋げられず無言のお見合い状態になった。

 お互いが黙って見つめ合っている微妙に気まずい状況の中、先に口を開いたのはヒカルだった。

 

「…どうして、僕だったの?」

「最初に私を『愛してる』って言ってくれた人が、あなただったから」

 

 ヒカルの問いかけに対して、私はノータイムで返事をする。

 …私がヒカルを好きになった理由なんて、本当にそれだけのことだった。

 

「あのとき『私は君を愛せない』なんて言ったくせに」

 落ち着いた静かな声色で、少し拗ねたような口調でヒカルが私を責めた。

 

 私はヒカルを好きだった。

 でも私は彼に「私はあなたを愛せない」と言い捨てて、逃げた。

 彼が私に与えてくれる愛に対して、どうやって報いればいいのか分からなかったからだ。

 

 

 

 あのときの私の想いは「()()()()()()()()()()()()」であって「()()()()()」という意味では断じてなかったのに。

 私の「嘘」は、彼に伝わることはなかった。

 

 

 結局私の「嘘」は愛などではなく、唯の嘘でしかなかった。

 私の「嘘」の正体は自己愛であり、「他人の幸せを願う心」という愛の本質からは程遠いものだった。

 

 潜伏先の病院の屋上で笑いながら雨宮吾郎(せんせ)に「嘘は、とびきりの愛」なんて言っていた過去の自分が恥ずかしい。

 

 

「あなたをちゃんと愛してあげられなくて、ごめんね」

 

 私はヒカルの頭を抱き寄せる。

 

 過去の私は選択を間違えた。

 その結果が、あの結末だ。

 

 男の子の本気の愛を弄んだ馬鹿な女に相応しい最期だったのかもしれない。

 

 

 でも、この世界の神様がもう一度やり直してもいいと言ってくれるなら。

 

 

 今度は間違わない。

 今度こそ、幸せな結末(ハッピーエンド)にしてみせる。

 

 

 

 

 

「愛してるよ、ヒカル。

 

 今も、昔も。ずっとこの想いは変わらない。

 

 

 

――この言葉は、絶対に嘘じゃない」

 

 

 

 

 

 

「君が何を言ってるのか、僕にはよく分からないけど」

 私の胸の中で、ヒカルが呟く。

 

「…どうしてだろう。涙が、止まらないや」

 今度はヒカルが私の身体をぎゅっと抱きしめてきた。

 

 

 そうして私はヒカルと抱き合いながら、この世界に生まれて再び愛する人と巡り合えた奇跡のような幸せを噛み締めていた。

 

 

 

 自分の犯した罪から、目を背けて。

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