完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました 作:雑穀ライス
ゴールドシップさん達は2、3日ほど私たちの夏合宿に混ざってトレーナーたちの胃にダメージを与えた後、楽しむだけ楽しんでさっさと帰っていった。去年と同じパターンだね、これ。
ゴールドシップさん達のいなくなった夏合宿はそれなりに平和なものだった。相変わらずクロノちゃんはキタさんから夏合宿特別ログインボーナスを毎日プレゼントされていたが、異常も毎日続けば日常となる。そのうちクロノちゃんがキタさんに水着の上半分を脱がされようが下半分を脱がされようが誰も気にしなくなった。いじめじゃなくて求愛行動なのでヨシ!(現場猫感
そんな感じで夏を過ごして、9月になった。
東京レース場よ、私は帰ってきた!
まあ先々月負けたのは新潟のレース場なんだけどね。言って見たかっただけだよ。
今回は1600mのレースである。前回のレースより200m長いけど、むしろ差し脚が活かしきれない短距離レースよりもこっちのほうが得意だ。よーし、がんばるぞー。
私は前回のレースと同じく、パドックで一曲披露して皆の注目を集めておいた。今回も同じレースに出走するウマ娘たちからの視線を感じるが、対策はばっちりだ。今度は負けないよ。
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【ジュニア
【芝1600メートル/左回り/東京レース場 /天候 : 晴/芝 : 良】
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【コース説明】
直線: 0~570m
上り坂1: 約320~400m
下り坂: 約450~710m
コーナー: 約570~830m
最終コーナー: 約830~1080m
最終直線: 約1080~1600m
上り坂2: 約1150~1300m
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『1番人気、11番アーモンドアイ。前回は惜しくも2着に敗れました。今回ははたして雪辱を晴らせるのか、皆の注目と期待が集まっています』
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「――各ウマ娘、一斉にスタート。ややバラついたスタートの中、1番ロマンテソーロが後ろからのレースになりました。一人離れて後方です。
まず前は8番コスモフェリークがひょいっと前に出て2番手以降はダンゴ状態。2番のヒメベニサクラ、9番ディーズフェイク、14番ダブルミリオン、15番ウィナーポイントが先団を形成していきます。その後1馬身差13番スワーリングミスト、後ろに1馬身差5番メイモワナ、7番レネット、外に11番アーモンドアイがいます。
集団外で先頭から8バ身のところを進んで今3コーナーカーブに入りました」
今回私がとった作戦は「外からまくる」というシンプルで豪快な作戦である。
新バ戦で負けた結果ここにいるウマ娘たち相手にわざわざインコースを狙って自分からオペラオーシフトされに行くなんて愚の骨頂。少し遠回りしてでも自分のペースで走ったほうがやりやすい。言っちゃなんだけど、格下相手にはフィジカルで圧倒する「力こそパワー!」な脳筋戦術は実に効果的だ。
ああ、前が空いているってのは本当に走りやすいなぁ。
「3、4コーナー中間を通過し残り800mを切りました。先頭8番コスモフェリーク、リードは1バ身。2番手14番ダブルミリオン、内に2番ヒメベニサクラ外に15番ウィナーポイントここで先団が4コーナーに入ります。その後ろ13番スワーリングミスト内を回って5番メイモワナ、大外中団から11番アーモンドアイが上がってきます!
徐々に差を詰めて今直線に入りました!先頭は8番コスモフェリーク、残り400m!」
4ハロンの棒を越えたタイミングでペースをあげる。みんな必死にインコースの最短距離を狙って走っているので大外から遠回りをする私の進路を邪魔するウマ娘は誰もいなかった。
残り400mで一番前を走っている子までの距離は4バ身ほど。
スタミナも余力十分だし、余裕で射程圏内だ。
さあ、ここからは私のステージだよ。
「14番ダブルミリオンも迫っていますがここでアーモンドアイ!あっさりと前を捕らえる勢いで飛んでいって先頭に変わる!
外からの追い込みは4番セイウンミツコ!まもなく残り200m、堂々の先頭はアーモンドアイ!!」
前を走っている子たちを抜き去るのに200mもいらなかった。必死に逃げてるウマ娘たちを直線でまとめてちぎって置き去りにする。
この時点で私と競り合える脚を残している子はもう誰もいなかった。
「100mを切ってリードは1バ身!更に広がっていく!2番手争いはダブルミリオン、セイウンミツコ、コスモフェリーク!!
アーモンドアイ独走状態でゴールイン!圧巻の勝利です!」
最後にラストスパートをかけて2着の子に3バ身差をつけてゴールイン。前回の敗北はなんだったのかというぐらいの危なげのない勝利だった。
ふふん、前をブロックされなかったらこのぐらい余裕なんだからね。
レースを終えて戻ってきた私を出迎えてくれた社長とハイタッチをする。
「勝ってきたよ、社長」
「おっし、よくやった。だがまだこれからだ」
「もっと褒めてくれてもいいと思うよ?」
脊髄反射で社長に軽口を叩くが、社長の言う通りまだまだこれからだ。今日の勝利はトレセン学園に在籍する生徒の3人に1人しか突破出来ないと言われている未勝利戦の壁をクリアしただけに過ぎない。
勝つたびに、私と一緒に走るウマ娘はどんどん強く速くなっていく。
望むところだ。全部、ねじ伏せてやる。
私はまだ見ぬライバルたち相手に闘志を燃やし、この後始まるウイニングライブをするための準備をしようと歩き出したそのとき。
――ズキッ
「痛っ……」
足に鈍い痛みを、感じた。
「見せてみろ。…靴擦れだな」
私の靴を脱がせて足の様子を診た社長が言った。確かに踵の辺りが擦り剝けているけど、まあこの程度なら掠り傷だよね。
「良かった。大した怪我じゃなくて」
「よくねーよ。たったの1600m走っただけで足から血が出てるんだぞ」
私の楽観的な言葉を聞いた社長の眉間にしわが寄る。別に骨折とかしてるわけじゃないのに大袈裟だなぁ。
「0.1秒を争うレースで足の痛みや不調が原因で負けたら悔やんでも悔やみきれないし、それ以前に痛みを我慢して走って傷を悪化させるのはそれこそバ鹿のやることだ。お前の足に合わせた特注の靴が出来上がるまでレースは禁止だな」
「そんなー(´・ω・`)」
社長からレースへの出走を禁止されてしまった。靴を買い替えるだけじゃ駄目なの?レースを禁止されたら私の身体と頭は欲求不満で爆発してしまうってば。この勝利の余韻で火照った身体をどうやって静めろっていうのさ?
「知るか。…ま、このぐらいならウイニングライブには問題ないな。ほら、さっさと準備してこい」
社長は小言を言いながらもテキパキと私の靴擦れ痕をテーピングして応急処置をしてくれた。うん、これなら痛くない。これでウイニングライブで飛んだり跳ねたりしても大丈夫そうだ。
「ありがと、社長。じゃ、準備してくるね」
社長にひらひらと手を振ってからウイニングライブの準備をするために選手用の控え室へと向かう。
――当然ながら、私がセンターに立ったウイニングライブは大盛況だった。