完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました 作:雑穀ライス
私の新しい靴が完成するまでレースとハードなトレーニングは禁止になった。しょぼん。
「よいしょ、よいしょ」
というわけで、私は今ジムで筋肉を鍛えてパワーをつけるトレーニングを重点的にやっているところである。
フィットネスバイクにまたがって気合でペダルを漕ぎまくる。足の負荷が凄くてふとももがムチムチになりそうだ。もしかしたらこのままトレーニングを続けていれば完璧で究極のセクシーウマ娘アーモンドアイが爆誕してしまうかもしれない。うん、あんまり私のイメージには合わないね。
「ふう…今日のトレーニング、終わり……えっ?」
私がトレーニングを終えてフィットネスバイクの記録用アプリにデータを読み込ませると、運動時間、距離、消費カロリー、速度等の基本的なデータに加えてランキング表示が表示された。
記録用アプリには「デイリーランキング11451位」という文字がでかでかと表示されている。
えっ、マジ?この私が11451位?
思った以上に低かった自分の順位をまざまざと見せつけられて、なんかこめかみの辺りがピキッときた。
「…許せない」
負けず嫌いを刺激された私は、一度やめたトレーニングを再開する。
オーバーワーク?知らないよそんなこと。
勝てばよかろうなのだぁあああ!!!
その後しばらく全力でバイクを漕ぎまくっていたが、私が一向に戻ってこないのを訝しんだ社長がジムにやってきて慌てて止められた。
そうやって私が地道なトレーニングを続けているうちに、気づけば1か月が経過していて10月になった。
ルビーは10月の最後の土曜日に「アルテミスステークス」というレースに出走することが決まっているのでそこに向けて最終調整をしている。グレードはGⅢ、1着の賞金が3200万円の重賞レースだ。勝ったらみんなで焼肉を食べようって息巻いていた。
なお私は新しい靴がまだ完成していないので次のレースの予定は決まっていない。というかこの1か月の間に靴は完成したのだが、その新しい靴が私の足に合わなくて作り直しが発生したのだ。私の足は自分で思っていたよりも繊細だったらしい。
「せんせー!私のレースとライブ、絶対見に来てよね!」
「わかってるわかってる」
そんな私のやきもきした気持ちにはお構いなしに、ルビーは雨宮せんせにまとわりついて自分が出走するレースを見に来るように催促していた。その微笑ましい光景を見て焦りに囚われていた私の心が少しだけ和む。
いいよねルビーとせんせとの関係って。お互いが相手の幸せを願っていて、一緒にいるだけで幸せを感じる関係。まさしく愛だ。見ていて癒される。
そんな感じで、ルビーのやる気は絶好調だ。冗談抜きでせんせの応援があればこのままGIレースも勝ってしまいそうなオーラがルビーから噴出している。うん、この様子なら次のレースも大丈夫そうだね。
そうやってルビーとせんせがイチャイチャするのを後方腕組み待機のポーズで眺める毎日を過ごしているうちに時は流れ、あっという間にレースの日になった。
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【アルテミス
【芝1600メートル/左回り/東京レース場 /天候 : 雨/芝 : 不良】
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【コース説明】
直線: 0~570m
上り坂1: 約320~400m
下り坂: 約450~710m
コーナー: 約570~830m
最終コーナー: 約830~1080m
最終直線: 約1080~1600m
上り坂2: 約1150~1300m
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『2番人気、13番ホシノルビー。元気いっぱい、良い仕上がりですね。勝ちは十分狙えるでしょう』
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「――最終コーナーを抜けて直線コースに入りました。サヤカチャン先頭リードは3バ身、残り400m!坂を上ってくる!2番手争いは横に広がって間からタイドオーバー、外からホシノルビー!!
ホシノルビー2番手から抜け出し先頭に並ぶ!残り200を切りました!3番手がラテュロス、さらにスカーレットカラーと外からダノングレース!先頭変わって13番ホシノルビー!来るかホシノルビー!ホシノルビーいま先頭でゴールイン!!!」
「やったぁああああ!!!!」
「いよぉおおおおっし!!!!」
ルビーの出走したレースは台風22号が九州地方にまで迫っていた影響で雨のレースになったが、雨で濡れた芝に足を滑らせてやや苦戦したもののルビーは見事に重賞レースを制覇した。
社長は世紀末の拳王様がお空に還っていくシーンのようなガッツポーズをして震えているし、同じチームの先輩たちはきゃあきゃあ叫びながら飛び上がって喜んでいた。うちのチームで初めての重賞レース勝利ウマ娘だからね。興奮するのもよくわかる。
隣でレースを一緒に観ていたクロノちゃんは後方腕組み待機のポーズで「勝って当然」みたいな感じですました表情してるけど、もっとみんなと喜びを分かち合ったほうがいいと思うよ?いやホントに。
「せんせー!勝ったよぉーー!!!」
ルビーがウイニングランを続けながらこっちに向かってぶんぶんと腕を降ってくる。
その視線の先は当然、私たちと一緒にレースを観戦している雨宮せんせだ。アイドルだったら炎上してるかもしれないけどウマ娘はアスリートだからセーフセーフ。それに女の子はちょっとぐらい噓吐きで秘密事があるほうが可愛く見えるんだよ。私がいうんだから間違いない、多分。
ちなみにレースは接戦だったが、その後のウイニングライブは完全にルビーの一人舞台だった。まあ私たちのチームは走る練習と同じぐらいウイニングライブの練習をしているからこれぐらいはね。伊達にウイニングライブガチ勢と呼ばれていないよ私達は。
雨宮せんせもルビーのライブの最前列でサイリウムをブンブン振り回しながらオタ芸をしてステージの上で歌ってるルビーたちに向かってアピールしまくっていた。なんていうか、似た者同士だよねあの二人。
というわけで、ルビーのほうは順風満帆。しかも今回のレースは2着以内に入ると賞金だけではなく、「阪神ジュベナイルフィリーズ」というGIレースへの優先出走権が貰えるのだ。
「阪神ジュベナイルフィリーズ」の優勝賞金は6500万円で、3万人近くの観客が集まるレースである。これは動員数で言えば私が前世でやれなかったドームライブに匹敵するぐらいの規模だ。つまり次のレースで勝てば、ルビーはデビューからわずか半年で前世の私に匹敵するアイドルになれるということである。
なんというか、前世と比べると売れっ子になるまでのスピード感とインフレ感が比べ物にならないほどすごい。その分足の遅い子はいくら頑張っても日の目を見れない厳しい業界なのだが。
私もルビーの勝利にあやかって頑張って行こう……と思っていたのだが。
「……えっ?」
私の前に、残酷な運命が立ち塞がる。
「パンドラお母さんが……倒れた……?」