完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました   作:雑穀ライス

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チューリップ賞(GⅡ)

 圧倒的な末脚の速さを観客に魅せつけて危なげなくシンザン記念を勝利した私だが、レース後に足の爪がひび割れていることが発覚して社長から2週間の休養を言い渡されてしまった。

 何が悪かったんだろう。靴かな?うん、どう考えても靴だよねやっぱり。私の踏み込みのパワーを受け止めきれない靴が悪い。

 

 そんな感じで私のちょっとした怪我の責任を全部靴に押し付けて、割れた爪が元通りになるまでぼーっとしながら2週間を過ごした……わけではない。

 レースの翌日、私は早速取材しにきた競バ雑誌の記者の対応で引っ張りだこになっていた。

 

 

『ジェンティルドンナ以来のティアラ路線ウマ娘のシンザン記念制覇!目指すはトリプルティアラ!』

『ジェンティルドンナの再来!その名はアーモンドアイ!』

『ライバルはホシノルビー!?桜花賞で同門対決!!』

 

 

 雑誌の見出しはこんな感じ。

 私が6年ぶりにティアラ路線ウマ娘のシンザン記念勝利を達成したことで、競バ雑誌に私の特集が掲載されることになった。

 私の目論見通りジェンティルドンナの知名度に(あやか)る形で有名になることが出来たが、私を取材する記者の熱量は年末にGIレースを勝ったルビーが取材されていたときと変わらないぐらいパワーがあった。記事の内容は完全にべた褒め状態だったけど、ティアラ路線で競い合うルビーとのライバル関係を強調してレースを盛り上げたいというビジネス的な計算もあったのだろう。それにしてもジェンティルドンナのネームバリューがすごい。

 

 ちなみにこのジェンティルドンナというウマ娘はトリプルティアラを達成しただけではなくGIレース7勝という歴代最多タイ記録をもっていて、しかもあのオルフェーヴルさんに勝ったこともあるすごいウマ娘である。レースで稼いだ獲得賞金額はテイエムオペラオーさんに次ぐ歴代2位。去年キタさんが天皇賞(秋)と有馬記念を勝って賞金額トップに躍り出たので歴代3位に落ちてしまったのだが、そりゃそんなすごいウマ娘に迫る片鱗を私が見せつけたんだから雑誌の記者も目の色変えて取材するよね。

 

 というわけで、前世のアイドル時代を彷彿させるような取材対応をマスコミ相手に続けているうちにあっという間に2月になってしまった。

 

 

 足の爪は治った。新しい靴も届いた。私を取材する記者もいなくなった。

 よろしい、ならば練習だ。

 

 というわけで練習を再開した私だったが、今は社長に監督されながらスタートの特訓をしている。

 理由は当然、シンザン記念で私が出遅れをやらかしたからだ。あのときのミスを次の桜花賞で同じ失敗を繰り返さないようにスタートの練習をしているのだが……

 

「また出遅れてんぞ」

「うぅ〜」

 

 なんだか最近、私はスタートが下手になっていた。

 これまでもちょくちょく出遅れをやらかしていたが、最近はそれに増して酷い。

 

「もっと集中しろ……いや違うな。気負い過ぎて逆に反応が鈍くなってんのか。さて、どうしたもんかね」

 

 社長が額に手を当てながらボヤく。

 私は真面目にやってるつもりだったけどどうやらそれが逆効果だったみたいだ。で、結局私はどうすればいいの?教えてよ社長。

 

「……最近なんか心境の変化とかなかったか?人に言えない悩みを抱えてるとか」

 

 あまり成果が上がらないので、一端休憩を挟んで社長とミーティングをする。

 いやいや、聞くまでもなく大事なレースを控えたウマ娘の悩みと言ったら一つしかないでしょ。

 

「勝ちたい。今までよりも、ずっと」

 

 最近レースのことばかり考える。

 お母さんがあんなことになってしまった後、私は今までよりもずっと「勝つこと」に貪欲になった。

 そのせいで、いつもなんだか落ち着かずにずっとソワソワしている。

 

 ゲートが開くのをじっと待っているその瞬間ですら、私の心は「勝ちたい」と叫び続けている。

 

「取り敢えずスタートのコツを掴めるまで重点的に特訓するか。もちろん身体を鍛えるトレーニングも平行して続けるからしばらくは毎日トレーニング漬けだぞ。やれるな?」

「もちろんだよ」

「よし、じゃあ練習再開だ」

 

 私は休憩を切り上げて練習に戻る。

 

 頑張れるよ。勝つためなら私はなんだってやる。

 私がトリプルティアラを獲るのがお母さんの夢なんだもん。

 お母さんが私に与えてくれた愛に応えるには、勝つしかないんだよ。

 

「おい!また出遅れてんぞ!?雑念捨ててスタートのことだけ考えろ!!」

「ごめーん!」

 

 そうやって私が地道に練習を繰り返しているうちに、いつの間にか3月になっていた。

 

 

――桜花賞まで、あと1月。

 

 

 

 

 

--------

 

【チューリップ賞(GⅡ)】

【芝1600メートル/右回り/阪神レース場 /天候 : 曇/芝 : 良】

 

--------

 

【コース説明】

直線:       0~450m

コーナー:   約450~800m

最終コーナー: 約800~1130m

下り坂:    約950~1350m

最終直線:   約1130~1600m

上り坂:    約1400~1520m

 

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『ここは負けられない1番人気、5番ホシノルビー。阪神ジュベナイルFで戦ったライバルたちが集うこのチューリップ賞で勝利を掴めるのか、みんなが注目しています』

 

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 チューリップ賞にはルビーが出走することになった。

 距離とコースが桜花賞と同条件のレースなので出来ることなら私も出走したかったのだが、残念ながら私はレースを全力で走るたびに足の爪が割れてしまう体質なので出走出来なかった。来月に桜花賞が控えているのにここで消耗するのは流石に拙い。

 というわけで、ルビーと勝負するのは桜花賞までお預けだ。来月にはルビーと一緒に走れると思うとなんだか胸がドキドキしてきた。

 

 チューリップ賞の出走ウマ娘たちはアルテミスステークスや阪神ジュベナイルフィリーズでルビーと一緒に走ったウマ娘がちらほら混ざっていて、パドックでルビーが挨拶と宣戦布告を交わしていた。なんか見たことある顔だと思ったらあの子たち、ルビーと一緒に阪神ジュベナイルフィリーズのウイニングライブで一緒に歌った2人だね。

 

 

 

 

「――桜花賞のトライアルレースとなるチューリップ賞。果たしてどのウマ娘が勝利するのでしょうか。

 人気は上からホシノルビー、リリーノーブル、マウレア。阪神ジュベナイルフィリーズのトップスリーが順番に並んでいます。

 

 いまレースがスタートしました!おっと10番サラキア出遅れています。

 まず先行争いは7番サヤカチャン、その横に2番カレンシリエージョが並走。3番手は5番ホシノルビーが後を付けています」

 

 ルビーが逃げウマ娘2人の後を追走するが、前にいる二人は更に加速してルビーを引き離していく。ルビーを意識しているというよりも2人で先頭争いして周りが見えてないような雰囲気だった。興奮(かか)ってるんじゃないかな、あれ。

 最初の直線を抜けて第3コーナーに差し掛かるが前の二人が落ち着く様子はない。ていうか、もうこれルビーの勝ちで決まりでしょ?この展開だと。

 

「前半の600mのタイムは35秒4。3~4コーナー中間地点で前を走る2人が後続を突き放します。先頭は7番サヤカチャン1バ身リード、2番カレンシリエージョが2番手で3番手のホシノルビーまで5バ身差、その1バ身後ろにリリーノーブルが4番手まで上がっています。まもなく先頭集団が残り800m地点を抜けていま第4コーナーに入りました」

 

 ルビーは阪神ジュベナイルフィリーズを一着で勝利していて、今日のレースを一緒に走っている相手は前回のレースとあまり変わっていない。なのでルビーが負けるパターンは厳しいマークですり潰されるか前を走るウマ娘にブロックされて抜け出せなくなるかの2つぐらいしかないのに、レースの中盤でルビーの前を走っているのはかかって大逃げやってる2人だけ。完全にフリーパス状態だ。リリーノーブルがルビーのすぐ後ろから抜け出すチャンスを狙っているが、最終直線に入る前にルビーを抜けなければ彼女がルビーに勝つのは厳しいだろう。

 

 

「残り600を切って5番手以降はシグナライズ、ウインラナキラ、サラキア。先頭が4コーナーを抜けて直線に入ります。サヤカチャン、カレンシリエージョが並んで直線コースへ。その3バ身後ろからホシノルビーが上がってくる!

4番手はリリーノーブル、内には5番手4番マウレア!」

 

 ルビーを含めた阪神ジュベナイルフィリーズのトップスリーが一斉に上がってくるが、その3人の中での順位は変動なし。そのまま必死に先頭を走っている2人をあっさり抜き去ってルビーが先頭に立つ。

 

「上り坂の手前でホシノルビーが先頭に変わって残り200mを切りました!9番リリーノーブル、4番マウレアが懸命に追うが届かない!

残り100m先頭ホシノルビー、リードは2バ身をキープ!2番手はリリーノーブルかマウレアか!?

 ホシノルビー、ゴールイン!完勝です!無敗の4連勝で桜花賞へと向かいます!!」

 

 危なげないレース展開で、ルビーはチューリップ賞を勝利した。

 

 

 

 

 

『4戦4勝!無敗の女王が桜花賞に挑む!』

『新たなる女王の登場!向かうところ敵はなし!』

『ホシノルビーvsアーモンドアイ!勝つのはどっちだ!!』

 

 

 次の週、スポーツ関連のニュース記事はルビーの勝利を称える話題でいっぱいだった。

 去年の有馬記念を最後にキタさんがURAの卒業を決めたため、この業界は次の時代を担う新しい主人公(ヒロイン)を探しているところだ。そしてその候補にルビーが選ばれたというのが今の状況である。それ自体は素晴らしいことだが、私の胸の中には言いようのないモヤモヤが広がっていた。

 

 

 方や4戦4勝、うち重賞レース勝利3回。

 方や3戦2勝、うち重賞レース勝利1回。

 

 実績もメディアへの露出もウイニングライブに参加した回数も、私よりルビーのほうが多い。

 

 そっか。

 ここでは私のほうが、挑戦者なんだ。

 

 

 かつて私の娘であったルビーが私よりも先のステージに立っていることに気づいて、私はルビーへの愛と自慢と嫉妬と羨望の混ざった複雑な気持ちを感じていた。

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