完璧で究極のアイドルがGI九冠バに転生しました   作:雑穀ライス

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桜花賞(GI)

 ルビーがチューリップ賞を勝ったその後、ルビーだけではなく社長のところにも取材依頼が舞い込んでいた。

 同じチームに属している教え子が2人、しかもその親同士がかつてティアラの座を巡って争ったという生まれついてのライバルが桜花賞の有力候補ということで記者たちは社長に注目。そこで社長は競バ雑誌の記者に向かって「桜花賞だけではなく、トリプルティアラすべてをホシノルビーとアーモンドアイの2人でワンツーフィニッシュを取る」と豪語して記者たちを喜ばせていた。

 ちなみにジェンティルドンナがトリプルティアラを獲った年はジェンティルドンナとヴィルシーナというウマ娘でトリプルティアラのGIレースをすべてワンツーフィニッシュしているので、その知識を踏まえた上でのビッグマウスである。前世のときから思ってたけど社長ってすごく根回しとかマーケティングとか上手いよね。

 その後に出た記事は「ルビーが1番で私が2番」みたいな取り上げ方をしていたけど、残念ながら記者たちの予想は覆ることになる……といいな。

 

 

 そして2018年4月8日。

 ついに桜花賞が開催される日になった。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 桜花賞開催日当日。

 阪神レース場にホシノルビーとアーモンドアイの世紀の対決を見に来た観客数は4万6000人を超えた。

 ジェンティルドンナが出走した2012年度の桜花賞の観客数5万6000人に比べると少々物足りないが、それでも先週に開催された大阪杯の観客数4万人を越える数字である。

 そしてその阪神レース場のVIP席の一か所に、GIレースの勝利経験のあるウマ娘たちが集まっていた。

 

 

 娘の晴れ舞台を見に来たフサイチパンドラとカワカミプリンセス。

 

 後輩のレースを観戦しに来たオルフェーヴル、ドリームジャーニー、ナカヤマフェスタ、ゴールドシップ、フェノーメノ。

 更にその隣には、トリプルティアラウマ娘にしてGI7冠ウマ娘、ジェンティルドンナが座っていた。

 

 

「おい…あれ『貴婦人』ジェンティルドンナだぜ……オルフェーヴルの隣に座ってやがる……」

「あいつらの周りだけ圧が違う……全員の獲得賞金額の合計いくらなんだ……」

 

 ジェンティルドンナたちの姿を見た一般の観客が小さな声で呟く。

 そんな一般市民の視線を歯牙にもかけず、ジェンティルドンナたちは堂々とした姿で部屋の中でくつろいでいた。

 

 

「なあ、どっちが勝つと思う?」

「レースは強いウマ娘が勝つのではない。勝ったウマ娘が強いのだ」

「ロマンのねぇ回答だなー。バ券は神様へのリクエストカードなんだぞ。強いウマ娘じゃなくて勝ってほしいウマ娘の券を買うもんだっての」

 

 オルフェーヴルの回答が気に喰わなかったらしく、ナカヤマフェスタは椅子にもたれ掛かりながら頭の後ろに手を組んで不貞腐れた。

 

「うへー……アタシ、場違いじゃないかな?」

「もっと堂々としなさいな。貴方もGI勝利ウマ娘の一人なのだから、貴方が縮こまると貴方に負けた子たちの格まで落ちますわよ」

 オルフェーヴルたちの近くに座り、自分の何倍も賞金を稼いでいるウマ娘たちと同席することに落ち着かない様子を見せてるフサイチパンドラをカワカミプリンセスが窘める。

 

「それに今日の主役は私たちの自慢の娘。ここで私たちが遜ってしまっては親の沽券に関わりますわ」

「そだね」

 カワカミプリンセスの自信に満ちた言葉に同意して、フサイチパンドラは笑った。

 

「……このレースの勝者が、この世代の(スター)となる」

 その傍でハンドボールサイズの鉄球をパワーリストボール代わりに手慰みにしながら窓際の席に座って阪神競バ場のコースを見下ろしていたジェンティルドンナがぼそりと呟いた。

 

「皆で新しい時代の星が生まれる瞬間を見届けましょう」

 

 そう言って、ジェンティルドンナは握っていた鉄球をミシミシと音を立てて握りつぶす。

 彼女が手を開くと、その手の中にはビー玉サイズにまで圧縮された小さな鉄球が残っていた。

 それを見た周りの人たちは思いっきりドン引きしていた。

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 控室で、パンドラお母さんがデザインしてくれた勝負服を着る。

 本番のレースで着るのは今日が初めてだ。試着は何度かしたし走っている最中に破れないかの耐久テストはしたことあるけど、勝負服はGIレースでしか着れないルールになってるからね。

 

 着替え終わって勝負服姿になった私は鏡の前に立って自分の恰好を視る。

 不思議の国のアリスの姿をイメージした勝負服は私の身体にぴったりとフィットしてて、なんだか着ただけで力が湧いてくるような感じがした。

 

 もっと私を見て欲しい。

 もっと私を愛して欲しい。

 

 そして勝ちたいという気持ちがどんどんと溢れてくる。

 これからお母さんの愛がぎっしりと詰まったこの勝負服を着て、私はGIレースの舞台に立つのだ。

 

 今日はレース場までお母さんが来るって言ってた。

 お母さん見ててね。

 私、絶対に勝つから。

 

 

 

--------

 

【桜花賞(GI)】

【芝1600メートル/右回り/阪神レース場 /天候 : 晴/芝 : 良】

 

--------

 

 

【コース説明】

 

直線:       0~450m

コーナー:   約450~800m

最終コーナー: 約800~1130m

下り坂:    約950~1350m

最終直線:   約1130~1600m

上り坂:    約1400~1520m

 

 

--------

 

『2番人気、13番アーモンドアイ。1番人気1番ホシノルビーに勝利し、オークスと秋華賞でカワカミプリンセスに敗れたフサイチパンドラの雪辱を晴らせるのか。勝利が期待されるウマ娘の一人です』

 

--------

 

 

 

 

 

「――ホシノルビーアーモンドアイ、かつてティアラ路線でしのぎを削ったカワカミプリンセスとフサイチパンドラの娘たちがティアラの座を巡って争うのは夢がありますね。

 この奇跡の一戦、競バファンが心躍る夢の対決であります。

 

 ……全バゲートイン完了です。さあ、桜が咲き乱れるその下で第78回桜花賞が……いまスタートしました!

 ちょっとバラついたスタートです。プリモシーンが後ろからになりました。1番人気ホシノルビー絶好のスタートを見せました!

 先頭ホシノルビー、ここで隣からアンヴァルとコーディエライトが前に出て先頭が変わりました。ホシノルビーの外からレッドサクヤ、更にその外に3番人気のリリーノーブルです。

 

 2番人気アーモンドアイは後方2番手!どうやら末脚勝負に賭けるようです!」

 

 

 ルビーは前から攻めて、私は後ろからの競バに専念する。

 別に2人で作戦を教え合って分担したわけでもないし、ましてや私が出遅れたわけでもない。

 ただ単に、私はバ群が嫌いなんだ。

 

 初等部のころから負けるときはだいたいオペラオーシフトに巻き込まれて敗北という負けパターンが多くてすっかり苦手意識がついてしまった。だったら最初から後方に控えてバ群ごと回避して走ったほうが勝率が高い。

 シニアに上がったら通用しなくなるかもしれないけど、今ならまだこの戦法でいけると思う。

 私は私の脚を信じて、じっと仕掛ける時を待つ。

 

 

「800m地点で46秒から47秒、ほぼ平均ペースです。コーディエライトが先頭、ツツミモンが2番手、ホシノルビーは3番手です。

 最終コーナーに入って外から早めにリリーノーブルが先に仕掛けた!ホシノルビーとは三度目の対決、ここは負けられない!アンバルも来ているぞ!

 直線に入って先頭ツツミモン、後からホシノルビーが追ってくる!リリーノーブルも上がってきた!!」

 

 

 中間地点を抜けたらすぐに最終コーナーだ。

 私はシンザン記念のときと同じく、最終コーナーをぐるっと大外から遠回りしてバ群の外から直線に入る。

 

 ここからが本番だ。私の全力を燃やし尽くして出し切って、そしてルビーに勝つ。

 全開スパート、いくよ。

 

 

「大外から白いリボン!アーモンドアイが飛んでくる!!」

 

 最終直線を全力疾走。

 ミシリ、と靴の中から私の足の爪が割れる感触がなんとなく伝わってくる。 

 この靴でも私の踏み込みの衝撃は吸収しきれなかったようだ。

 知ったことか。今勝てなければトリプルティアラ達成の夢はそこで終わり。骨さえ折れてなければ掠り傷だ。

 私は構わずスピードを上げる。

 

 

 

 お母さん。

 ラインクラフト。

 私に力を貸して。

 

 

 

 お母さんたちから継承した想いを胸に宿して、ありったけの力を振り絞って更に脚に力を込めると。

 

 

 

 

 

――世界が、一変した。

 

 

 

 

 

 

 

 世界から音が消えた。

 芝に覆われたコースは消失し、代わりに白く濁った水晶で舗装された道と満面の星空が見える。

 前を走るウマ娘たちは色を失って、まるで影法師のようだ。

 

 

 

 

 

 

――その中で、ルビーの姿だけが赤く輝くように色づいていた。

 

 

 

 

 

 

領域(ゾーン)】発動

  Peerless(唯一無二の) Heroine(ヒロイン)  

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノルビー!ホシノルビー先頭!

 後ろからアーモンドアイ!アーモンドアイまとめて交わしていく!

 無敗の女王とのデッドヒート!」

 

 

 

 身体が軽い。

 

 

 周りのウマ娘がスローモーションに見える。

 

 

 このままどこまでも走れそうな全能感で満たされていく。

 

 

 

 気が付けば、さっきまで遠くにあったルビーの背中がすぐそばにあった。

 

 

 

ホシノルビーか!?アーモンドアイか!?

 

 

 

アーモンドアイだああああああ!!!!

アーモンドアイが前に出たぁ!!!!」

 

 

 私はあっさりとルビーを抜き去って、そのままの勢いでゴールを走り抜けた。

 距離にして、約2バ身差の勝利。

 始まる前はあれだけルビーを警戒していたのに、終わってしまえば圧倒だった。

 

 

「ニューヒロインだアーモンドアイ!恐るべき切れ味!

 桜の女神はアーモンドアイに微笑みましたぁああああ!!!」

 

 

 ゴールを抜けた瞬間、領域が解除されて世界に音が戻ってくる。

 観客席から響く大歓声を聞いて、ようやく私はレースが終わったことに気づいて正気に戻った。

 

 

 お母さん。

 私、ちゃんと勝ったよ。

 

 

 私は観客席に向かって手を振りながら、お母さんに捧げる一つ目の勝利を手に入れた喜びに胸を震わせていた。

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