今回は柚子木くんが少し変わります。
朝早く俺と神崎と五条は部室に着いた。朝の涼しさで肌が少し痛い。乾いた冷たい朝。なのにこの二人がいるだけで少しだけど変わってくる。
ココがいなくなってから俺は元気のない花のようになっていた。必要とするものをなくして花が地面に向かって咲いていた。いや、もしかしたら咲いていなかったのかもしれない。
そんな花は水を得た。水を得て生きる力を少しだけだけど持つ事ができた。
「そういえば先輩たちは何でこんなに早く学校に来てるんですか?」
「私たちは国立の大学に行きたいんだ。だから国立大学の朝講習に参加しようと思って早く来てるんだ」
「へぇ、国立ですか」
神崎も五条も見た目は勉強をやらずに遊んでそうなのに実際はちゃんとしてんだなぁ。人は外見によらずという事なのか。
でも、何で国立なのだろうか。
神崎は6人兄弟姉妹の一番年上。5人も弟や妹がいるから彼女一人だけに学費はかけていられない。
けど五条は日本の中のナンバー4の『五条財閥』の一人娘。別に私立とかでもいい気がするのだが。
「でも何で国立なんですか?五条先輩は別に私立でも……」
「まぁ、そう思うだろうな。でも、私立に行くと親に迷惑をかける。けれど私はあまり親に迷惑をかけたくない。小さい頃から絶対に誰かに支えられていた。一人にされた事はなかった。だからこそ私は独り立ちして自分の手で自分を支えたい。自分の力を信じたい。『やらないで後悔するよりやって後悔』。それが私の信条だ」
何故だろうか。五条のその言葉には心を震わせられた。いつもおちゃらけている五条がカッコよく思えた。
自分の思いを、信念を、夢を、全てを実現しようと実行している。たとえ出来なくても、出来ないと分かっていてもそれをしようとする。する事に意味がある。
今の俺は何なのだろうか。ただ、ココの帰りをだらだらと何もしないで待ってるだけ。花は全然変わらなくても水は減ってゆく。日が東から西に沈んで、また少ししたら東から昇ってくる。
俺は何をしていた?寝て食べて心配していただけではないか。実行なんて何もしてない。
五条は俺の顔を見た。
「大体な、さっきからのその顔は何だ?ちゃんと寝たか?顔を洗ったか?倉本に見せてやりたいな。本当の愚民じゃないか!」
「ちょっと、それは言い過ぎじゃ……」
「ち〜づ〜る〜。お前は後輩に甘い!こいつはただのチキンだ‼︎何が東北の鵺だ!よく見たら鵺じゃなくてガチョウじゃないか!そっちの方がお前にはよく似合ってるぞ。醜い醜い顔がな」
「でも、柚子木くんは……」
「いや、神崎先輩。その通りっす。俺はキチンです。何もしてない。何をやろうとも思ってない。ただ頼ってただけ。不確定な事に。与えられた事に」
五条は俺の顔を見ると笑った。
悩んでる俺が何もしないでどうするんだ。
俺はその時、どうにもならないという現実から逃避する。