今回は神様の過去回ですね。
でも、記憶だから当事者のその時の感情も同時に共有する。神様のその時の感情は
安産の神様は何故酷いのか。俺には不思議でしょうがない。安産の神様のイメージはもっと優しそうで、母性を感じる人。そんなイメージ。
この神様にはその感情が
「おかしい」
「ん?何がおかしいのじゃ?」
「お前がおかしいんだよ。なんでお前は誰かを落とす事しか考えてねぇんだよ?お前は神様だろ?しかも安産の神様。でも、お前にはその母親らしい優しさなんかどこにもねぇじゃねぇか。悪魔だよ!お前は」
俺の暴言はとても脆いものであった。そんなの俺の主観的に見た意見だし、相手は神様。しかも現在の状況では、圧倒的に俺たちは不利。「だからなんだ?」の一言で終わらせる事だってできた。
しかし、神様はその言葉を踏み潰す事はなかった。
「そうじゃな。儂はお前たちにしてみれば悪魔じゃな。じゃぁ、儂が悪魔になった原因を教えてやろうか?」
「原因……?」
神様は自分の墓石の様な岩を触りだした。
「この岩は儂の家があった所じゃ。元々儂は夫と二人暮らしだった。夫は優しい人だった。だから、儂は夫と二人暮らしでもいいかと思った。けれど、時代は昔じゃ。子を産まなければ意味がない。だから、儂がいざ子を産もうとした時、儂に子ができなかった。儂は不妊症だったのだ。夫はそれを知ると血相を変えてこう言った。『使えん女は死ね』と。その時、夫は酒に酔っていた。だから、夫は歯止めが利かず、持っていた刀で儂を斬りつけた。儂はそこで息途絶えて、村の人たちに不遇と思われてこの地に埋められた」
「それがどうした……」
「まぁ、ここまではまだ序の口。こんなものは別に苦でもない。儂は殺された後、村の人たちに供養されていた。しかし、ある人がこんな事を言い出した。『不妊症の女を崇めれば不妊症にならなくて済むと』。だから、人々は儂を崇めた。そして、今に至るのだが、一つだけ気に食わない事がある」
「気に食わないこ事?」
「そうじゃ。儂は子がおらん。なのに、みんなは儂を安産の神様として崇める。だから、子連れが多く来る。それが気に食わんのじゃ」
その時の神様の顔は少し陰りが見えた。今までとは違う顔。人としての感情を感じる事ができる顔。
もちろん、神様が気に食わない理由は分かった。神様自身は子を産んでいない。産めなかった。なのに、毎日のように子を産んだという知らせを聞いている。誰かは産めたのに自分だけは子を産めない。勝手に殺されて、勝手に神様にされた結果が、また地獄を見ている。
時に人は他の人が笑っている顔を見るとイラつく事がある。自分はできないのに誰かはできている。自分は不幸で相手は幸福。
それは胸をえぐられるような痛みだろう。
「でも、それをなんで他人に押し付ける?お前が押し付ければ新たな犠牲者が増えるだけだろ?」
「なら、一人ぼっちの儂はどうなる?儂はいつまでも一人なのか?いつまでも誰かの成功を指を咥えて見ていないといけないのか?おかしいじゃろ。この世はなんて理不尽なのだ?」
俺はもし彼女の立場だったらと考えてみた。俺も多分そうなってしまうだろう。そんなにも心寂しく、一人で世の中の理不尽と向かい合ってきた。目を合わせるのも辛いはずなのに。
俺はさっきとは一変した考えを持ってしまった。
神様は本当に悪いのか?