GHBの部室。あるのは冬に近く空気と、東の空からの若い光、机と椅子とカバンだけ。カラッポのこの部屋に俺は新しい生徒会役員の三人を呼び出した。
白浜と倉本はまだ学校には来ていない。2年、3年はこの部屋から出て行ってもらった。選挙当日に驚かせたいからね。
誰もいない部屋に一人ぽつんと椅子に座っている俺。カラッとした空、雲はどこかへ消え去った。スズメの鳴き声が聞こえてくる。
もう、夜は過ぎ去った。朝が来た。
俺がボーッと空を眺めていると赤石が来た。そして法前と植木も来た。
「おい、柚子木。こんな朝から呼び出して何の用だ?明日の選挙のためにセリフを考えないといけないんだ」
法前は手厳しい。確かにこの三人は明日選挙があるからセリフとかを考えておかなければならない。そうしないと全校生徒の前で恥をかくこととなる。
けど、それは明日までの話。今から俺がする話は1年後までの話。どっちが重要かわかるよね?
「明日、三人は選挙があります。選挙は生徒会の第一印象を決める時といっても過言ではない。だから確かにそれは重要です」
「なら、俺は今ここにいる必要はないな」
法前は下に置いた自分のカバンを持って部屋を出ようとする。
「でも、今、生徒会存続のピンチっす」
「ピンチ?」
「はい。なんか、誰も生徒会に立候補してくれないみたいなんですよ」
「ああ、それなら知っている。俺たちも勧誘していたからな。けど、別にピンチってわけでもない。三人いれば別に大したことはない」
『大したことはない』ねぇ。まぁ、確かに清戸ほどの腕がある人ならいいかもしれない。けれど、法前、お前は清戸にはなれないさ。
「確かにあんたたち三人なら大丈夫かもしれない。が、それはアクティブにならなければの話だ」
「アクティブ?別に俺はそんなにしようとは思っていないが」
「ああ、そうだな。確かにあんたからして見れば普通かもしれない。けど、清戸の元にいなかった俺からして見ればあんたらは十分アクティブだったよ。なぁ、赤石、そうだよな?」
「……まぁ、そうだな」
赤石はコクっと首を縦に振る。
赤石は清戸の元にいなかった。だから、この三人の中では唯一清戸の考えに執着しない。清戸のやり方ではないやり方で生徒会を導くだろう。
法前と植木ができないようなことを赤石がしてくれる。いわば、赤石は二人のブレーキだ。二人が暴走しそうになったら赤石がブレーキで止めてくれる。
といっても、正しい方向はありゃしない。だから、正しい方向は自分で決めるしかない。
長である法前は方向を決める大切な役目を担っている。だから、清戸に似せようとしてほしくない。法前には法前なりにこの学校を引っ張ってほしい。
「法前、あんたはあんたなりにやってほしい。清戸なんかに惑わされるなよ。植木はあんたを支えて、赤石は暴走したあんたらを止めて、俺たちはあんたらのアクセルになってやる。だから、今の生徒会を作ろうとするなよ。新しい生徒会を作らねぇか?」
法前はボソッとこう俺に言った。
「負け犬が……」
俺たちは法前の要求を達成することはできなかった。法前は今までの生徒会を望んでいた。だから、五人にしたかったのだ。
法前の要求を達成できなかった俺たちは負け犬だ。法前にとってみれば俺たちは負け犬の遠吠えなのかもしれない。
けど、俺らが負ける前に、あんたがもう負けてんだよ。清戸っていう壁の前に立ちすくんで何もできずに清戸と同じようにしようとしてんだ。その壁をぶち壊せずにいる。
清戸という存在がそこまで大きいのか?
負け犬はどっちだ?
法前は部屋から出た。植木は俺にぺこぺこ謝る。
「別にいいんです。どうせこうなるってわかってたし」
「分かってた?」
「いや、だって法前プライド高いからさ」
二人は互いに黙る。そこはもうしょうがないのだが……。
赤石は話を戻した。
「で、私たちに話したいこととはなんだ?」
「ああ、そうだった。あのさ、明日の選挙にはさ、三人で出てくれない?」
「は?」
「最初は三人で生徒会をやってもらう。その名も『印象アップ作戦』」