植木の演説は多くの人に届いただろうか?赤石が多くの人の視線を奪ってしまったから、植木の演説を聞いている人は少ないだろう。
でも、聞いてくれた人は分かったと思う。彼女の心が。何を言うにも声が小さくなるような彼女の内には、ちゃんと人を惹きつける何かがあったんだ。
例え、100人の人を助けて、1人しか気づいてもらえなくても、100人の人が笑顔になれば彼女も自然と笑顔になれる。そんな彼女に気づいて、彼女の笑顔を見た人はもっと笑ってられる。
法前はそんな彼女の近くにいたから彼女の笑顔を見続けた。そしてそんな彼女の背中を押し続けた。そりゃ、惚れてしまうのも無理はない。
植木の演説が終わり、会場ではパラパラと拍手が上がる。それでも、数えられるかそうでないかというような数。普通の人ならこんな場面には耐えられないだろう。大勢の人の目の前で、前の人より自分が劣おとっていると見せびらかしているのと一緒なのだから。
そんな植木を見てたらぽろっと口から言葉がこぼれた。
「植木ってスゲェな」
俺には到底できないことである。もししても、みんなの前で赤面して、それを見られてさらに赤くなるのが目に見えている。
俺が思ったことを口にすると、いきなり隣に立っていた法前が「当然だろ」と言ってきた。
「当然だろ、俺の惚れた女だ」
「いや、もう何『女』とか言っちゃってるんですか?」
「本当のことだからだ」
「そうですけど!何なんですか?自慢ですか?お前には俺の『女』は渡さねぇよっていう宣言ですか?」
「どっちも」
ウゼェェェ‼︎何だ?何調子に乗ってんの?しばくよ?今、清戸が旅行でいないから、この学校で一番喧嘩強いの俺だよ?いいの?本気でしばくよ?
やばい、この人と話してると無性にイラついてきてしまう。すごくイライラする。
よし、さっさと壇上に上がらせよう。今、植木が壇上から降りてるし。さっさと壇上にこのウザい人を送りこもう。
「先輩」
俺は壇上の方を指差した。合図的に『先輩、壇上空いたんで行ってください』。
「お前はそこまでして俺を壇上に上がらせたいのか?」
「じゃぁ、先輩は壇上に上がりたくないんですか?俺とひっついていたいんですか?」
「何を言っている。俺がひっついていたいのは植木だけだ」
ウゼェェェッ‼︎ウゼェェェヨォォォォォッ‼︎いちいち、イチャイチャしてますよっていう地面スレスレの伏線的なのはいらねぇよ‼︎お前らのイチャイチャ回なんか作らねぇからな⁉︎つか、お前らラブラブすぎなんだよ。くっつきすぎなんだよ!そんなに好きなら常時合体してろよ!
「おい、柚子木。顔が赤いぞ」
誰のせいだよッ‼︎
「もしかして、俺と植木のイチャイチャを想ぞ……」
そっちの意味の興奮なんかしてねぇよ‼︎
「お前、まさか、寝取……」
「さっさと行け‼︎演説してこい!ゴォーゼァー」
これ以上法前の話の相手をしていると殴りたくなるので法前を強制的に壇上へ上げた。法前を壇上へ上げた時、法前がヤバそうな顔をした。
「あっ、ヤベッ。台本忘れちまった」
アハハハハハハハハハハッ‼︎アハハハハハッ‼︎アヒャヒャヒャッ‼︎台本を忘れた立ってよぉ〜‼︎
ざまぁみろぉ‼︎
「まぁ、でもいいか。アドリブで考えるし」
法前のその冷めた顔がまた無性にイラついた。あと、一文字多く言われたら殴る所だった。
危ない危ない。