三人の演説は終わり、あとは先生がみんなに向けての報告をして終わった。生徒はぞろぞろと講堂から出て行き各自の教室に戻る。そして、そこで不信任投票を行い、クラスの選挙管理委員会がそれを持ってきて集計する。
演説は終わったが、まだ選挙が終わったわけではない。不信任投票なのでほぼ落とされることはないが、安心はできない。
なのに、三人はもうやりきったというような顔である。特に全生徒に暴言を吐いた法前は意気消沈である。感情に身をまかせて怒りをぶつけることは別に悪いことではないと思う。が、今回は少しやりすぎだと思える。
法前はパイプ椅子に前かがみで座っている。頭を手の上に乗せて、ため息と一緒に言葉が出る。
「ああ、やらかした」
落ち込む法前を植木が慰める。背中に手を置き、優しい言葉を色々とかける。けど、そういう時はあまり人と話したくないものである。優しく言われると、それが邪魔臭く感じるし、強く言われると、心が折れる。
法前の隣に座る赤石は堂々と前を見ている。背筋をピンと伸ばしていて、姿勢が美しい。
なんとなく美しい姿勢であるなと思い、ジィッと見てると背筋がさらにピンと伸びてくる。それが面白くてさらにジッと見ていた。
「そ、そのだな。柚子木、そ、そんなに見つめられると、その、て、照れるって言うか……」
「えっ?…………あっ、す、すまん。なんとなく背中のラインが綺麗だなって思って」
「せ、背中⁉︎せ、背中って……。お、お前、背中フェチか?」
「ち、ちげぇよ!」
「じゃぁ、うなじ?」
「あっ、そ、それは……」
う、うなじ最高ですね。
ってそうじゃなぁぁぁい‼︎そんなこと話してる場合じゃないよ‼︎
「おい、赤石。さっきの演説はなんぞや?」
「あれか?なんとなく簡潔にした方がみんな聞いてくれるかなって思って」
「で、簡潔にしてくれたおかげで、植木パイセンがめちゃめちゃ苦労してたんだけど」
俺が赤石に怒ると赤石はその怒りをスルリとかわす。頭のネジが何本か外れているから、そこらへんのことが分かってくれない。勉強はできなくてもいいから、大事なところで空気を読むことをできてほしい。
赤石に植木が苦労した理由を話すが、赤石の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいるのがすぐ分かる。
「なぜ?植木先輩は苦労したのだ?」
「お前が短くしたせいで、植木パイセンの話が観客からしてみれば長く感じちゃうの。だから、全然人が聞いてくれないの」
「なら、植木先輩の話を短くすればいいだけの話じゃないか?」
確かに赤石と同じように三人全員の演説を簡潔に終わらせてしまえばいいのである。そうすれば誰も困らずに済むのだ。
が、そうすると嫌な理由もある。それは『人とは違っていたい』という人間の思いである。自分はこうであると思いたいのだ。だから、人と一緒になりたくない。自分は自分でいたい。
「赤石、お前は『自分』ってものがないのか?」
赤石はクイッと自らの体の方を指差す。
「いや、そういうことじゃなくて。その、なんか、あれだよ。自分はこういう所がみんなと違うって所がないのか?」
「あるぞ」
「例えば?」
「お前らより勉強できるところ」
俺は前かがみに座っている法前を指差す。
「この人は高二で学年No. 1だけど」
「私は学年関係なく行なわれる高校の全国テストで63位だったぞ」
「あっ、柚子木、力になれなくてごめん。俺、329位」
何で高二が高一に負けんだよ!
まぁ、俺は余裕の18000位だったけどね。もう、下過ぎて覚えてないけどね。それでも意外と出来た方だったんだけど!
赤石と口喧嘩しても負けるような気がしてきて、悔しくなったから、ソッコウその場を退場しようかと思ったら他のGHBが集まってきてしまった。
「柚子木!どうだった?大変だった?」
「たいへんも何もないですよ。マジで最初の方とか焦りましたよ。どこで話を途切らせればいいのか」
「まぁ、そんなこともあるよ」
五条は満面の笑みをしながら俺の肩を持つ。その顔を講堂の壁までぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、俺の将来が終わるのでやめた。
まぁ、法前はもう会長職に就くことが決定しているので落馬することはない。だから、この選挙は法前にとっては信用度を高めるものであった。まぁ、今回やらかしたせいでダダ下がりではあるが。
しかし、意外にも法前の不信任投票数は少なかった。全校生徒で10票。植木は女子から「あの子なんなの?ぶりっ子?」という嫉妬のせいで31票。赤石は9票であった。
なので無事みんな選挙で当選した。
そして、俺たちGHBは生徒会に入る人が新しく現われるまで生徒会の仕事を手伝いしなければならない。
最悪1年間も。トホホホ……。