打ち上げは終わり俺たちは店を出る。ツケは倉本と俺のはずだったのだが、倉本の機嫌が非常に悪いため、結局俺が全部払うこととなった。
みんなで駅に向かおうとした時、倉本はこんな事を言い出した。
「あー、私、ちょっと寄りたいところあるからさ、先に帰ってて」
倉本はそう言うと道路を挟んだ反対の歩道まで渡ろうとした。
「っと、その前に〜」
倉本はトコトコと俺たちのところに戻ってきて、赤石の耳元でこう
「今回だけは特別、次からは邪魔するよ」
囁く時の顔は俺の知らない倉本がいるみたいだった。いつもヘラヘラしている倉本が、何かを考えて行動している。いつもとは違った顔。倉本らしくない。いや、もしかしたらいつもの倉本は仮の姿なのかもしれない。
倉本が言っていたことは俺には聞こえなかった。けど、二人の顔はふざけの顔じゃない。
赤石は倉本の言葉を聞くと、いつもは顔をあまり変えない赤石の顔が少しだけ悲しく見えた。その姿を見ていた俺も少しだけ悲しく思えた。
「そんじゃ、また」
倉本は赤石に何かを伝えると横断歩道を渡る。赤になりかけの横断歩道、緑色がチカチカと点滅する。ぴょんぴょん跳びながら横断歩道を渡るが、踏んでいるのは白ではなく黒。
二人は友達のはずだ。なのに、何で赤石があんな悲しそうな顔にならなきゃいけないのか。それが全然わからなかった。
けど、赤信号で止まっている車のライトに照らされながら横断歩道を渡る倉本の姿はいつもの倉本と感じられなくなってしまった。
それが、少し辛かった。俺にとってかけがえもない物は『バカみたいに楽しい日常』である。それが少しだけ崩れたような気がしてしまった。
俺たちは人間だ。人間だから、表と裏がある。『表裏のない人』はいるが、それは表も裏もあるが、それが同じ人という事。
人間の心は紙みたいなもんである。表と裏があって、その紙に双方の特徴が鉛筆で書かれている。そうやって心は出来上がっている。
倉本の表を見ていたはずなのに、ライトに照らされて裏の部分まで見えてしまったような気がして、目をこするけど目が痛くなるだけだった。
いつもの日常は歯車の集合体だから一つでも欠けたり反対回りになっちゃうと、いつもの日常がまったく別のものになってしまう。
そして、今、俺が見ようとしていなかった反対回りの日常がうっすらと見えた。見えたのは一瞬だったけど、一瞬は俺の目に焼き付いてしまった。
俺は赤石に「駅に行こう」と言った。赤石は「うん」と言った。俺は後ろを振り向いたが、赤石の視線が俺に向いているのは感じることができた。二人っきりなら当然なのに、なぜかそう思えない。
熱い視線は俺の思っていた『バカみたいな日常』をジワジワと溶かす。俺の目の前にあったそんな日常は溶けてなくなっていく。
見えたのは本当の日常。
見たくなかった、こんな日常は。
恋は盲目と言う。盲目ゆえに、突き進む時、周りのものを踏んづけて壊して行くしかできない。そうしたら、残るのは大量の血と血の付いた残骸である。
恋は盲目、今までの日常をぶち壊していくのだ。
大好きだった日常は恋によって潰されてしまうのか。
恋は嫌いだ。
恋をすることも、されることも、もうしないって決めていたはずなのに。
あの時の
あの時の彼女の泣きじゃくる姿はもう見たくないんだ。
泣いて、流した涙は地に落ちて。
地に落ちて……、それでおしまいなのさ。
恋なんて……。
柚子木くんの過去編もやらないといけない( ̄▽ ̄)