俺たち六人は横にずらっと並んでいる。けど、俺以外のみんな首を下に向けて全然動かない。日々の疲れが出てるのだ。
毎日、受験と三年生という呪縛に耐えている。そんな体はもう悲鳴をあげていた。毎日、椅子に座り勉強を何時間もして、模試が悪ければ親が声を上げる。で、後輩どもは馬鹿騒ぎを毎日のようにするし、その責任を負うのはいつも俺たち。
俺も寝ようかと思っていたら一人だけ頭を上げた。ずらっとみんな頭を下げていたら、一人頭をポンっと上げた。
北条である。北条は俺の隣にいた。で、そんな北条は眠そうな顔をして俺の方を向いた。
「寝れない」
「いや、寝てくれよ。俺も今寝ようとしてたんだから」
「わかった」
俺が少し強く言うと北条は自分のリュックに頭をボフッとつけた。それを見届けてから俺もリュックを枕にして寝る。
が、二駅くらい過ぎると北条が俺の肩をポンポンと叩く。
「寝れない」
「いや、マジで寝かせて」
北条の目は細い。すごく眠そうな目をしている。
なのに寝てくれない。
「寝れない」
さすがに三度目の『寝れない』を聞いた時、寝ぼけてんのかと思った。なので、北条の顔の前に手を置くと、北条がその手をどける。もう一度やってみたら、やっぱりどける。その反応が面白いのでもう一度やってみたら、
「起きてるわ!」と怒られた。
「あのさ、マジで寝かせて。俺、日々辛い思いしてんの」
「じゃぁ、席交換して」
「えっ?何で?」
俺は北条の隣の席を見た。そこにいるのはヨダレを垂らしながら馬鹿な顔をして爆睡してる清戸である。
「その、清ちゃんの手が……」
北条が少し恥ずかしがっているので、これはよほどのことだと思い清戸の手を見てみた。
清戸の手はぎゅっと北条の手を握っている。で、清戸はそのまま爆睡。
意味がわかると少しだけイラッと来た。幸せオーラがだだ漏れなのにきづいてしまった。
「寝れない」
「いや、もうお前は寝なくていい。起きてろ」
「門川は?」
「は?寝るに決まってんだろ」
「いや、起きてよ」
「疲れたから寝かせてくれよ」
「私がこのままだと辛い。溶けそう」
俺は自分の頭を人差し指で指した。それを北条に見せると、コクンっと頷く。
別に北条を無視して寝ても良かったのだが、さすがにそれをすると北条に釘バットでブチ殺されるのでやめておいた。まぁ、別に新幹線内で寝たから大丈夫だし。
「でも、随分と丸くなったねぇ。北条は」
「そ、そうか?」
「めちゃくちゃ丸くなった。少なくとも、高一の頃のお前だったら今の会話中に五回は殴ってるな」
「そ、そんなことねぇよ」
「いやいや、だってあれだろ?俺はそこらへんのこと詳しくないけどさ、『関東の獅子』なんて呼ばれた時もあったんでしょ?」
俺がその名前を出した時、北条の顔が
「あっ、いや、その……すまん」
俺がそう言うと彼女は首を振った。暗いカオをしていたけど、顔を上げた。ため息をついたけど、
「いや、いいよ。本当のことだし。でも、あれはなんとなくなっちゃっただけなんだよね。で、少しだけ天狗になってた頃の話だよ」
『関東の獅子』。その名は北条の中学の頃の呼び名。中学の頃、北条もすごい強いDQNとして恐れられてた。めちゃくちゃ強いって言われてた人たちを何人も倒しちゃって伝説になってた。
けど、本当は全部嘘だった。北条はそんなに強くない、か弱い女の子である。ただ、噂が周りを騙し、挙げ句の果てに彼女自身も騙してしまった。で、天狗になってた。
そんな時に彼女の目を覚ましのが清戸である。とまぁ、出会いがめちゃくちゃロマンチックなんだよね。
「で、窮地に立たされた北条さんは清戸にぞっこんラブ。で、今もラブ」
「……ま、まぁ、そう……だけど」
北条の顔がニヤける。そんな北条を見てると俺もニヤけてしまった。
「じゃぁ、門川はどうなんだよ」
「え?俺?」
「ふ、二人のこと……」
「いや、俺はどうも思ってないよ」
その後の言葉が俺には出てこなかった。どうも思ってないって言葉が嘘だから。その後に続ける言葉が思い浮かばない。
北条は蕗見と広路の二人を見てからリュックに額をつける。寝る体勢である。
「かわいそうだよ。二人とも」
北条は「じゃ、寝る」と言い、勝手に寝た。で、上がっていた頭が一つになってしまった。
分かってる。言われなくても分かってる。けど、分かりたくない。選ぶなんて俺にはできないから。