これから紅葉狩りに出かける。旅館を出て、すぐ近くに綺麗な紅葉狩りスポットがあるらしい。そこまでバスで行くことにした。
バス停まで行って、バスが来たので乗った。バスの後ろの方の席が空いていたので、そこに座る。
隣が蕗見だった。が、蕗見は俺と顔を合わせてくれない。
「おい、蕗見」
俺が蕗見を呼ぶと、蕗見は「ふん」とそっぽを向く。どうやらご立腹のご様子、だけどなぜ怒っているのかがわからない。
「なぁ、怒ってるよな?」
「怒ってない!」
「いや、怒って」
「怒ってない!」
蕗見はそう言うけれど、どう見ても怒ってる。一度頭の中で蕗見が怒ってる理由を考えてみたが、やっぱりそれでも理由がわからない。
「なんで怒って」
「怒ってない!」
俺は後ろの席にいる北条に救難信号を目で送る。北条はそれに気づくと蕗見の頭に手をポンと乗せる。
「ああ、なんか露天風呂入りたかったのに、紅葉狩り行くことになって
子供かっ‼︎
俺は蕗見を見てみる。蕗見のピンク色のほっぺがぷっくりとお餅みたいになっているので、指を刺した。すると、口に入っていた空気がプシュぅ〜とゆっくり抜けていく。
で、ご機嫌斜めな蕗見にそんなことしたらビンタが俺のほっぺに返ってきた。すごくいたい。
俺たちが降りるバス停に来た。そこで俺たちは降りて、山に入る。元々、その土地自体が山の中にあるものだから、そんなに歩かなくても紅葉狩りスポットに行ける。
というより、山の中に入った時点で目の前は色づく葉である。赤に黄色の葉が目の前を
「うわぁ〜、綺麗」
みんなが口を揃えてこう言った。それは蕗見もである。さっきまで嫌そうな顔をして文句を言っていたのに、今はその紅葉に目を奪われてしまっている。
みんな、移り行く自然の景色をフィルムに収めている。生きるために色を変え、葉を落とす。これも生命の工夫である。その工夫が、すごく美しい絵を作る。
散りゆくもの、それは日本人にとって好かれるものなのかもしれない。桜に紅葉など。
蕗見は俺の肩をポンと叩く。で、俺の前にスマホを出す。
「ねぇねぇ、撮ってくれない?これ、
「お前ら相変わらず仲良いな」
俺は蕗見の言われた通り、紅葉をバックにして写真を撮った。全力の笑顔はやっぱりいつになっても変わらない。
でも、その笑顔は時に感覚を鈍らせる。愛おしい。愛おしい。愛おしい、けれどそれだけにとても怖い。
俺は彼女の写真を撮った。そして、スマホを彼女に返す。彼女は「ありがとう」と言ってみんなのところに戻る。
で、結局残されたのは俺一人。彼女はみんなのところに戻っていったけど、俺は戻れない。
「あっ、あの!」
後ろから声がした。後ろを振り返ってみると、そこにいたのは広路だった。
「わ、私もと、撮ってもらってもいいかな……」
普段、全然自己主張しない広路が、ここまで言ってくるのは珍しい。だから、俺は「いいよ」と言った。
すると、広路は俺にスマホを渡さない。俺がどうしたのかと疑問に思っていたら、彼女は俺にくっついた。
「えっ?」
「あ、そ、その……う、うぅ〜」
彼女は顔を赤くした。もう、彼女は何をしたかったのかをわかった俺は、彼女にくっついた。
「えっ⁉︎あ、こ、これって……」
「いいから撮れよ」
「え?う、うん……」
広路は俺と彼女の顔の前にスマホを向けた。
「と、撮るよ。……は、ハイ、チーズ」
広路はその合図で、指を画面にタッチした。俺は、その合図で笑った。
広路は撮った写真を見て笑う。
「うふふ、春ちゃん、面白い……顔……ふふ」
俺は広路が撮った写真を見ている。俺は満面の笑みである。
めちゃくちゃ変な顔。