飯も食って、俺たちは部屋に戻った。女子たちはまだ温泉に入っていなかったらしいので、今、風呂に行っている。部屋に戻る時、泉野は用事があるらしくて、俺と清戸と別れた。清戸は生徒会長の苦労から解放されたこともあってか、布団にダイブしたきり、その日はもう起きることはなかった。
結局、一人残された俺は星でも見に行くことにした。一階の旅館の外にある駐車場のところまで歩いていく。ちょうど、電波の通りも悪かったから、泉野が戻るまでいい暇つぶしになる。
駐車場の積み上げられた石の段差の高さは腰を掛けるにはベストな位置であった。その石の塀に腰掛けて、空を見上げた。星が眩い。多くの星が見えるのである。こんなにも一気に多くの星を見たことはない。都会と比べてここは空気が澄んでいる。よく見えるのである。
俺はその空を写真として収めようとした。スマホを空に向けて、腕を伸ばした。けど、何も映らなかった。
こんなにも星が綺麗なのに、スマホには星が映りもしない。残せないこの風景、それを目に焼き付けよう、そう思った。で、また俺は空を見上げた。
そしたら、見えるのは星ではなかった。人の顔である。
「蕗見?何でここにいんだ?」
「そういうハルこそ、何でここにいるの?」
蕗見は俺を上から覗く。俺はそんな蕗見をしたから見上げる。
「星、星を見てた」
蕗見は空を指さした。俺も空を指さした。蕗見も空を見た。
散らばる小さなビー玉が光をうけて輝くみたいなその空は、ただ回るだけである。ゆっくりと、ゆっくりと形を変えて変わりゆき、いつしかまた元の形に戻るのである。その空に何人もの人間は
そんな空が、今度は俺を
「……羨ましい」
そう俺は言った。羨ましかった。どんなに変わっても、いつかはこうしてまた同じ空を見ることができる。変わり続けた俺たちが、今、奇跡的にまた一緒にいられる。それが、何回も、何回も続いてほしかった。
「じゃぁ、ハルはさ、星になりたい?」
蕗見のその質問は少し唐突すぎた。それでも、俺はなりたいと答えた。今、俺はそれを望んでいる。
俺がそう答えると、蕗見は笑った。
「じゃぁ、ハルはもう綺麗な綺麗な星になれてるよ」
「俺が、星になれてる?」
「うん。ハルは立派なお星様だよ。だって、ハルは変わっているんだ。いや、ハルだけじゃない。みんな変わっていっている」
「変わってたら星じゃないだろ?」
蕗見は首を横に振る。
「知ってる?星はね、少しづつ、少しづつだけど変わっていっているんだ。あの、北極星だってほんの少しだけどずれてきている」
「そりゃ、少しだろ?今、俺たちはもう、変わっちまったよ」
蕗見はアハハと笑う。彼女らしい、見る人も笑顔にする笑みである。
「人の人生で考えているからだよ。でも、星は人生、いや遥かにそれ以上長く存在し続けている。ゼロが何個つくかもわからない。だから、人生の中での人の変わりなんかよりも、宇宙の中での星の変わりの方がよっぽど早くて儚い。だから、まだ私たちは離れても、また出会えるよ。何度でも」