蕗見は俺と腕組みをして美しくもつまらない空を見ている。彼女が首を俺の方に
何も言わないし、何も話さない。ただ二人でくっついて星を見るだけ。だけど、すごくあったかく思えた。冬の空気が冷たいからか、人肌の温もりがすごく気持ちいい。
色っぽい吐息を吐きながら、俺の方を見つめてくる。そんな視線に俺は素直に向き合うことなんてできなかった。目をそらして、関係のないふりをして空を見上げる。
だから、俺も笑ってみた。蕗見に笑顔を見せた。そしたら、蕗見は少し淡い笑顔を俺に返した。その淡い笑顔には少しだけつっかかるようにも思えた。
「ねぇ、ハル……」
「ん?何?」
「そのさ、私たちって、また……やり直せるかな……?」
唐突にその話題は出てきた。いや、もしかしたら蕗見は俺から何かを感じ取ったのかもしれない。だって、何かしらの用事がないと多分俺は外へ出てこない。それは自分だからわかることだし、蕗見も愛する人としてわかるだろう。何かしらの違和感を感じてここに来た。そうだろう。
確かに、俺一人だけだったっていう理由もある。一人だったら一緒にいれるから。けど、まず最初はそんなことを思うよりも疑問が浮かぶはずである。何で、門川は外に出ているのか?と。
で、俺と綺麗な星空の下で話していたら色々と見えてきたんだろう。別に見られたくないわけじゃない。が、見られたいというわけでもない。
内心、予想はできていた。この旅行でそんな話が出るって。だって、これから俺たちは大学受験である。もちろん、蕗見みたいな推薦の人もいるけれど、俺は一般入試である。一応、勉強をしないといけないのである。だから、もう『好き』の一言を言うのは今回の旅行しかない。そこで言わなかったら、もう言うことはできないかもしれない。
でも、やっぱり俺は弱虫である。そんなこと、何で自分から言えないのか。気の弱い男である。そんなんだったら、いつまで経っても俺は胸を張れる気がしない。
「そのさ……蕗見……」
照れ臭そうに笑っていた蕗見は、口を閉じた。俺の方をまっすぐ見ている。親指を入れて握りこぶしである。
俺たちの間に風が吹いた。木々の葉が揺れて、赤い葉黄色い葉がヒラヒラと舞い散る。
「ありがとう」
「……」
「でも、ごめん」
その言葉を聞いた蕗見は笑ってた。いじめられていた頃の広路のような笑顔である。
「うん。知ってた」
蕗見はもう知っていた。俺の本当の気持ちを、当の本人よりも知っていた。いや、言い方を変えてみれば、蕗見こそ当の本人。
彼女の目頭から一筋の光輝く透明な涙が頬を伝い、地面に落ちた。その涙はこの晩秋の綺麗な星空全てを反射し、屈折させている。涙一つで見る星空が変わった。
「あれ?何で、何で泣いているんだろ……おかしいな……」
蕗見は袖で涙を
「あはは、何でだろうね。涙が、出てきちゃったよ」
強がっている。俺に心配させまいと歯を食いしばり、手を握りしめている。親指の爪が、手のひらに食い込むまで強く強く。それでも、涙は蕗見なんて御構い無しにポロポロと流れていくのである。
そしていつしか、彼女は一言もモノを言わなくなった。下唇を噛んで声を押し殺している。それでも、口の中から聞こえる
で、結局彼女が言った言葉はこれだった。
「もう、帰って……。もう帰ってよ」
そう蕗見は泣きながら言うのである。
だから、俺は蕗見をそっと胸の中に入れた。
「何で……何でよ……、人の想い、台無しにして……、平気でそんなことする……」
「ごめん」
「変な時に、いつも優しくする。私の足をいつも止める……。前に、進めない……」
「ごめん」
「ごめんしか、言わない。キライ!キライ!キライ!」
蕗見は両手を俺の腰に回して抱きつく。胸の方に顔をボフッとつけて、大声でこう言った。
「キライ!キライ!だから、ハルのことが好きになる……。許さない!好きだから、許さない!……バカァ!」
彼女はそう言うと溜めてた分、大声で泣き出した。俺はそんな蕗見に手を回した。
乾いた空気に、晩秋の風に彼女の涙が落ちる。紅葉は彼女の悲しみと一緒に空を舞う。