蕗見は「もういいよ」という言葉を残して、半ば俺から逃げるように走って部屋へと戻っていった。俺はため息を吐いて下を向く。今さっきまでの俺の行動は間違っていただろうかと思い出すけれど、ほぼ無心だったからそんなに覚えていない。
また、空を見た。さっきと全然変わっていない綺麗な星空。やっぱりなんもしてくれやしない。星はただ見ているだけである。俺のことを見下すように、空から俺のことをずっと見ている。
冬の乾いた風が吹いた。耳に言葉を残して消えてゆく。寒き風は首筋を撫でる。
無音の世界にいたような気持ちになった。
その時、声が聞こえた。その声は旅館の裏の方で聞こえてくるのである。何であろうかと気になるので覗いてみた。
そこにいたのは泉野である。泉野は電話をしていた。誰にも聞かれないようにと左手で右手に持っている電話を囲い、こそこそと話している。が、こんなことを泉野は言っていた。
「ああ、それなんだけどさ。蕗見ちゃんも広路ちゃんも自分から行くようなタイプじゃないんだよ。それに、肝心の門川くんも積極的じゃないから。停滞ってところかな。今のところは」
告げ口をしていた。誰に告げ口をしているのだろうか?それより、泉野から見て、俺は積極的ではないのだろうか?俺的には結構積極的に広路や蕗見に話しかけていたつもりだったのだが、ダメだったのだろうか。
それに、停滞ではない気がする。確かに、俺が積極的でなく、消極的だったのなら停滞しているかもしれない。けれど、今さっきのようなことが起きて、はたまた広路には振られてしまったのだから停滞というわけではない。
泉野は「じゃぁ、また」と言って電話を切った。そして、スマホをポケットに入れたので、泉野に話しかけてやった。
「よう、泉野。何が停滞だって?」
「えっ?ああ、門川が消極的で……って、KADOKAWA!いや、それはその……」
泉野は決まり悪そうな顔をしている。何かを隠しているかのように、あざとい偽笑を見せる。
「ちょっと話を聞いていいかい?泉野くん☆?」
「……はい」
ということで、泉野を拘束して尋問をする。
「ねぇ、誰と話していたの?」
「あぁ……、いきなり痛いところを突いてくるねぇ……」
「さっさと答えやがれ」
「あっ、はい。その……ゆ、柚子木くんと……」
ああ、柚子木か。またあいつ面倒くさいことに首突っ込もうとしてんのか。しかも、今回は俺が絡んでることだ。あんまり、下の学年の奴らにはこの事、ばれたくないんだよなぁ。
「なぁ、泉野」
「はい。何でしょうか?」
「ちょっと場所変えようぜ?」
「……はい」