「ハルちゃんは、退屈じゃないの?」
歩いてたら、突然そんなことを聞いてきた。別に退屈じゃない。けれど、何を話していいのかわからずに、時が過ぎて気まずい空気になって、退屈みたいになっちゃってる。そう見えてるだけで、別に退屈じゃない。
ただ、なんか楽しいかって聞かれちゃうと、断言することができない。
「別に退屈じゃない」
本当の事は彼女に言っている。嘘もついてない。なのに、後ろめたい気持ちになる。その気持ちを紛らわそうとしたのか、何となくみんなのことを考えてしまう。何となく俺の頭にパッと浮かんでくるのがあいつらなのである。誰か一人ではない。みんなで撮った集合写真みたいなものが幻影をつくる。
その幻影を破ろうと、俺は広路の手を握った。
「えっ⁉︎」
広路はビクッと驚いた。何も聞かずに手を繋いだのはアウトだったであろうか。特にやましい事など考えてない俺は別にそんなこと気に留めもしなかった。
俺はこいつと一緒にいたい。そう思って手を握っていた。俺は広路のことが好きなんだ。
その時、広路の口から思いもよらない言葉が出てきた。
「ハルちゃん、今日おかしいよ。風邪でも引いたの?」
広路は俺のことをただ見てた。じっと、目の奥にある何かを見つめるように。
「その、何か嫌なことでもあった?」
別に、嫌なことなんてない。
「辛いの?気持ち悪いの?」
別に、そんなことない。
「じゃぁ、つまらない?」
つまらなくはねーよ。
「無理、してない?」
無理なんて、してるわけないじゃん……。
俺の顔を見ると、広路は手を離した。
「笑ってないよ、ハルちゃん」
「いや別にいつも笑ってねぇだけだ」
「嘘だ。だって、いつも笑ってるじゃん」
「そうか?作り物の笑顔しかしてないつもりなんだけどな」
「でも、その仮面の下で笑顔だよ。けど、今、仮面つけてないのに笑ってない」
俺は口角をキュッと上げる。でも、広路は首を横に振る。広路は俺の目の奥を覗き込んだ。
「目が、笑ってないよ」
言葉が重い。その言葉が俺にのしかかるのである。地球から重量をいっぱい受けてその力全部を俺に押し付けてるみたいに。
「じゃぁ、そういうお前だって笑ってねーよ」
最低な男である。広路にその言葉を返した。
「うん……笑ってないかも……」
笑ってないんじゃない。俺がお前を笑わせてあげられないのかもしれない。不安なのである。今度はお前が俺から離れていってしまうのかもと考えてしまう。人と関係を持ったら、またその関係を自分で壊すかもしれない。
なら、一緒にならないほうがいいのではと思ってしまうのである。覚悟したはずなのに、迷うのである。所詮、俺の覚悟はその程度なのである。
二人の間にまた沈黙が流れそうになった時、広路が俺にこう言ったのである。
「私は今のハルちゃんのことを好きにはなれないよ」
「……えっ⁉︎」
「だってそうでしょ?ずっと一人で考えてるんだもん。蕗見さんのこと考えてるの?……
「いや、そういうことじゃないんだ。ただ、その……」
「その?」
「笑わせることできてねぇなって思ってさ……」
その言葉を聞いた広路は笑った。純粋に嬉しさを表した笑顔、久しぶりにみるただの笑顔、その笑顔がどれほど俺には輝いて見えることか。
「嬉しい。私のこと、考えててくれて……」
「……いや、別に……」
「でも、ハルちゃんはまだ笑ってくれない……ね」