電車が駅に着き、俺と清戸は電車から降りる。改札を通り、3分ほど歩いたところにある霊園。そこに俺の師匠とも呼べる人がいる。
馬鹿でかい霊園の中を二人で歩く。もう冬であり、虫は全然飛んでいないし、地面には踏めばパキパキと音を鳴らす茶色い葉が落ちている。俺と清戸はそのパキパキの上を歩くと、冷たい風が俺の体にまとわりついて首すじにヒヤリとした余韻を残す。
久しぶりに来たから、師匠の墓がどこだか忘れてしまっていた。清戸の横で歩いていた俺は、気づかれぬようにこっそりと後ろにつく。
が、
「あれれ〜?どうしたの、柚木くぅ〜ん。もしかして喜助の居場所忘れちゃった?」
と、目を細めていやらしい笑顔を見せる。ニタニタと俺をイジメてくる。なんてヒドイ先輩だ。まぁ、そんな人と一緒に来るから、こういうことになるのは分かっていた。どうせいじくられることぐらい目に見えている。
しかし、半年も清戸と会っていると、こういう時の対処法ぐらい自然とわかってくる。
「はい。忘れましたよ」
真顔で、何の変哲もない様子を清戸に見せる。何の変哲もない様子はさすがの清戸もやりにくいらしく、つまらなそうに見つめてくる。
ちなみに、門川はこの逆である。変な返答をすると彼は何も言えないが、普通の返答をすると心にグサッとくる言葉を投げつけられる。
少し歩いていると、思い出してきた。俺はまた清戸の後ろから横に移動する。そんな俺を見ると、また清戸はちょっかいを出してくる。横にいる俺の脇腹にヒジを入れてくる。
「うりうり〜」
「痛いッ‼︎痛いからッ‼︎」
こんな男子高校生二人が霊園の道の真ん中で戯れあっているのを見ても誰も得をしない。得をするのは、腐の付く女子ぐらいで、少なくとも俺みたいな男子高校生には嬉しいところなんて一つもない。
そんなこともありながら、俺たちは喜助のところの前に着いた。
喜助の墓の前にはもうお線香とお花が置いてあった。俺と清戸は手を合わせるだけでよかった。
俺は手を合わせた。
冬の風が、道に落ちた茶色い枯葉をカサカサと動かす音が聞こえる。
俺は自らの師匠にこう聞いた。
「守りたいって思える人、まだ俺にはいないみたいだわ」
俺がそう言うと、風がビュゥと強く吹いた。冬の風が俺の耳を少しだけ痛くさせる。
清戸は俺の方に笑顔を向けた。憎ったらしいはずなのに、どこか憎めない笑顔。
「守りたい人、もういるんじゃないの?」
「いないっすよ。だって俺、この今の日常を守りたいって思うから」
守りたい。俺は誰かを守りたいとは思えなかった。守りたいのは人じゃない。俺を包んでいるこのいつもの何気ない日常。身勝手である。それでも、俺はこの日常を守りたいと思ってしまった。
「だって、俺、この日常に恋してますから」
俺は堂々と清戸に向かって言った。その時、清戸は自分の記憶の中である人と俺が同じに見えた。
「……同じだな。まったく、これだから恋愛下手は大変だよ」
「いやいや、俺、恋愛下手ですか?」
「ああ、ずいぶんね。一回、自分の周りにいる人に転生してみたらいい。そしたら自分の立場がわかるから」
清戸はそう言うと、墓に背を向けた。そして、俺に「帰るぞ」そう言った。俺はその時、ふと気になった。
いつ、俺の師匠は亡くなってしまったんだろうか。
俺は墓石の横に書いてあるものを読む。
「十二月十日か」
そういえば、そのぐらいであった。彼が俺の目の前からぱったりと消えたのは。
俺はもう一度、手を合わせた。
「お〜い。柚子木!行くよ〜」
清戸が呼んでいる。俺もその墓に背を向け、前へと歩く。