今日で試験はもう終わった。11時なのにもう帰れるとか最高すぎでしょ。
浦部が号令をして、みんなは家に帰るなり、久しぶりの部活に行くなり個々の自由になる。
俺は帰りの支度をしようと、机の中に手を突っ込みものを取り出そうとする。が、試験日なので机の中には何も入っていない。俺は椅子の下に置いてある自分のカバンを机の上に上げて、チャックを開く。そして、筆箱をカバンの中に入れてチャックを閉める。椅子を机の上に上げ、机を掃除しやすいように下げる。机と地面の擦れる鈍い音が鳴る。
俺はカバンを肩にかけた。そして教室から出ると白浜と倉本がいた。二人は俺のことを待っていたらしく、俺を見つけると声をかけてきた。
「部活に行きましょう」
白浜はまた何にもこもっていない笑みを浮かべる。愛想笑いか、それとも俺の中での好感度ポイントを上げるためか、それとも過去に縛られた笑みか。
「ああ、すまん。今日は行けそうにないわ」
俺は今日、他に行くところがあるのである。だからGHBに行けないのである。
俺が話を断ると、倉本は俺のことをじろっと見た。
「なぜだ?」
倉本の目つきはいつも怖いが、今日はいつにも増して一段と恐怖感を与えてくる。というより、目つきが悪い。ああ、これは多分、今回のテストしくったんだな。
逆に、俺が倉本の方を見つめ返すと、彼女は舌打ちをする。
「おい、今回のテストどうだ……」
「さっさと答えろ。ミンチにさせるぞ」
倉本のイライラ度が結構高いので、俺は彼女の怒りの矛先が俺に向かないように、質問にちゃんと答えた。
「あいつに会いに行くんだ」
俺がそう答えると、二人は「ああ」と頷き納得した。二人も湯島のことを知っているから、すぐに納得してくれる。ただ、彼女の話を出すと、最後に残るのは暗い雰囲気だけである。ドヨンとした空気が俺たちを取り囲む。
すると、北瀬が教室の中から出てきた。
「なぁ、今の話って……」
彼はまるで救いを求める者のように俺を見てきた。何かに飢えたものが、その何かを与えてくれとすがっている姿。
「違う」
その一言は北瀬に重くのしかかる。冷酷な言葉は彼の喉を引きちぎる。俺は感情を無にして、彼にそう宣告した。
もちろん、嘘である。
俺は申し訳ない気持ち、後ろめたい気持ちを彼に見せないように隠した。それでも、俺の後ろ姿は白浜と倉本には見えていて、二人とももう湯島のことを黙るのは無理だと思った。それは湯島のことを黙っていても、もう気付かれかけているし、北瀬にも悪いと思うのである。そして、何より自分がその罪悪感を背負うのが辛いのである。
俺はそれでも彼には何も言わなかった。
北瀬は目を下に向ける。ため息を吐いた。
俺は北瀬と同じ経験がある。大切な人が病気だったのに、俺はそのことを何も知らずに過ごしていた。そのあと、病気のことを知った時、自分がどれだけ惨めに思えたか。
だから俺は少し同情してしまった。心を無にすると決めたのに。
「……北瀬、付いて来るなよ」
俺はそう北瀬に言った。そして、俺は階段を降りた。