白い外壁の大きな病院。俺はロビーで湯島への面会を求める。ロビーの椅子に座って周りを見る。
杖をつく老人に、誰かを見舞いに来たのだろう家族、静かに本を読みながら待合室で待つ女性。静かで、暗い感じがする。
そんなふうに思えるのが俺だけならいい。そのために内装は華やかになっているのだろうが、俺にはどうも視界に映ること全てがブルーに見えてしまう。
面会の許可を貰えると、俺は彼女がいる号室まで移動する。エレベーターに乗って彼女がいる階まで移動し、彼女の部屋までの廊下を歩いた。
廊下は天井の蛍光灯の光を反射する。消毒液のにおいとかはしないけれど、殺伐とした光景を一回だけ目にした。彼女の部屋は端っこで、そこまで歩いていた時に死の匂いみたいなのを感じられる一瞬があった。死神がそこには住み着き、まるで彼岸から手招きしているようである。
そんな階に彼女はいた。それは少しだけ事態が良くない方向に向かっているんじゃないかと思わせるぐらい怖かった。けど、俺は平静を装う。俺が平静を装わずに、動揺してしまうと後ろにいる奴はもっと動揺する。だから、俺は動揺しないように、あえて堂々と歩いた。
心はその歩く姿と対照的に縮こまっていた。
彼女の部屋に着いた。彼女はこの個室にいるらしい。俺は扉をノックする。そして中から湯島の声が聞こえた。その声が聞こえると、扉を横に滑らせた。
彼女は俺の視界の中に現れた。現れてすぐに俺は彼女の体が少しだけ変わったことに気づく。細い腕に、痩せたほお。白い肌に、入院の人がみんな着る服。窓からは日が差していた。だからだろうか、この部屋は明かりを消していた。
「よう、来たぞ」
俺がそう言うと、彼女は笑顔を俺に見せた。
「よく来たね、あんたなんかが」
元気のない笑顔。その笑顔は頑張って見せた笑顔で、それは見ていた俺にも伝わった。
点滴らしきものが横にあり、フルーツバスケットがテーブルの上に置いてあった。鶴の折り紙が何羽か織られている。
唐突に、俺はこう聞いた。
「なぁ、花瓶は?」
「えっ、花瓶?花瓶なら、そこにあるけど」
彼女は俺のその質問に一瞬戸惑いを見せた。俺みたいな奴が花のことなんかを口に出してはダメなのだろうか。
俺は花瓶を見つけると、その花瓶の水を取り替えた。花瓶には元々、色とりどりの綺麗な花が添えられていた。そして、俺が、俺たちが買ってきた花をその花瓶に付け加えておく。
俺が花をそこに綺麗に散りばめた。すると、彼女は笑った。
「ねぇ、それって
「うん。そこら辺からもぎ取ってきた。お金なくなるのイヤだし」
彼女はその時、薄っすらと涙を流した。涙を流しながら笑った。
「あんた、変わらないね。久しぶりに笑っちゃったよ。私」
「そりゃ、変わんねぇよ。だってまだ数ヶ月だし、それぐらいで変わるほど俺とお前はそんな親密な仲じゃねぇし。……あっ、でもそしたらここに来ないか」
「えっ?あんた私のこと好きなの?」
「何言ってんの?冗談キツいよ」
俺と湯島は互いに目を見る。そして、また湯島は何か溜まっていたものが出るように笑う。何となく、その時の彼女は俺の知ってる彼女だと思えた。
それでも彼女の病は体を蝕んでいる。