でも、この花びらはすぐに茶色になってしまう。腐ってしまったかのように、綺麗な色が醜い色に様変わりする。
元々体が弱かった湯島の体はさらに弱々しく見える。窓から太陽を見て、空の下で立つことを望むが、彼女はこの真っ白な病室の中のベッドの上で静かにしているしかないのだ。
彼女はその山茶花の花びらをじっと見ながらこう聞いた。
「ねぇ、その花さ、誰が選んでくれたの?」
俺はその返答に少し戸惑った。何て言えばいいのかをそっと考えた。
「ああ、俺だよ。そこらへんの花を持ってきた。手ブラで来たらお前にグチグチ言われそうだし」
「私、そんな性格に見える?」
「めっちゃ見える」
俺がそう答えると、湯島はまた笑った。首を少し曲げ、手を前に持ってくる。目を細くし本当に俺の方を見ているのかと思うような感じだった。
「ねぇ、柚子木は知ってる?山茶花の花言葉」
「は?知らねぇよ。じゃぁ、聞くけど、俺が花言葉を知ってると思う?」
「ううん。あんた、知らなそう」
彼女は俺に窓のカーテンを閉めてくれと頼む。病人の願いはさすがにこの俺でも大人しく聞く。俺は席を立ち、カーテンを閉めた。
「山茶花の花言葉は『困難に打ち勝つ』。心配してくれてるの?」
「いや、だから俺はそんなの知らないで持ってきたから」
「じゃぁ、誰が選んだの?」
「いや、だから、俺だって……」
彼女は俺の言葉を信用していないようで、探るように俺を見る。というより、本当は彼女も分かっているのかもしれない。
「それとね、もう一つあるの。花言葉」
「山茶花のか?」
「うん。それはね、『ひたむき』。一途って意味なんだ」
彼女はその山茶花の花びらを嬉しそうに見た。そして、微笑んだ。そして、泣いた。
「守が言ってたんだ。山茶花の花言葉はこんな意味があるんだって。だから、何となく、思い出しちゃった……」
彼女にとって北瀬はそれほどの大きな存在であるのか。なら、なぜ突き放す?なぜ、理解してもらおうとしない?好きではないのか?いや、それはない。では、なぜ北瀬に打ち明けない?
彼女は笑っていた。山茶花の花びらは彼女にとっての美しき過去に見えた。満面の笑みで湯島に笑いかけ、湯島はそんな彼の笑顔に笑った。二人で歩いた最後の帰り道には少ない山茶花の花が彼らの行く道を綺麗に彩っていた。それは美しく、綺麗で儚い過去。
そして、彼はそんな彼女を見てどう思ったのだろうか。
「あっ、ちょっとトイレ行ってくるわ」
俺がそう言うと、湯島は何かを悟り、笑顔でうなづいた。
俺は病室を出る。しかし、そこに彼の姿はなかった。