ガラガラガラ……。
病室に戻る。湯島は俺を見てこう問いかけた。
「どうしたの?」
「いや、ただのトイレだよ」
「……そう。なんか、顔が楽しそうな表情してないから、嫌なことがあったのかなって……」
俺はそう言われてすぐに自分の顔を触った。 触ってみたけど、自分の手では分からない。けれど、俺は無理やりにでも口角を上げて、笑った。すると、湯島は微笑んだ。
笑ってすぐに言葉が出ない。無理やりの笑顔はこんなにも辛いのだろうか。作り笑顔は自分でも得意だと自負していたのだが、思っていたよりも下手なのかもしれない。
俺は無言のまま椅子に座った。そして話を変えようと自分のカバンの中からあるものを取り出した。
「なぁ、白浜が明日誕生日なのって知ってるか?」
「うん。知ってる。だって、舞ちゃんとは中学の時から知り合いだったし」
俺は手に持っていたものを湯島の前に出す。それは白浜にあげるために北瀬と二人で買ったDVDであった。
「ああ、これ知ってる。私、これ好きだよ。派手なアクションシーンに、かっこいいカーチェイス!いいよね」
彼女はそのDVDを見ると、楽しそうに話をする。どうやら、彼女はこの映画が大好きらしく、何回も見かえしたほどらしい。
彼女は子供のような顔をする。
「ねぇ。これちょーだい!」
「誰がお前にやるか、バーカ!」
「あっ、ヒドイ!私、病人だよ⁉︎」
彼女は真っ白なほっぺをぷっくりと膨らませてふてくされる。ブツブツと文句を小言で言う。俺はそんな彼女からそのDVDを取り返しながらこう言った。
「あのなぁ、これはお前にはやらないの」
「えー、じゃぁ、誰にあげるの?」
「白浜だよ。あいつへの誕生日プレゼント!どうだ?いいプレゼントだろ?お金少しだけ奮発しちゃったよ〜」
俺はそう言いながら湯島の方を向く。すると、湯島は口を開け、無言のまま前を見ていた。そして、彼女は下に目を向けて一言の言葉を発する。
「それは絶対にダメ……」
「えっ?」
俺はその彼女の言葉を聞いて、疑問が頭の中に生じた。その一言はとても重い言葉で、俺にのしかかってくる。彼女の顔は悲しみを帯びていた。
「なぁ、なんでダメなんだ?」
俺はそう聞いた。湯島はその俺の質問に最初は口を閉じていたが、ゆっくりと口を開いた。そして、言葉を選ぶようにして白浜のことを語った。
「舞ちゃんさ、カーチェイスとか血とかがダメなんだ……」
「へぇ〜、カーチェイスもダメだったのか。血はダメなのは知ってるけどさ、この頃は克服できて、少量なら大丈夫らしいぞ」
「うん。そうなんだけどさ……この映画って一回だけ大量の血のシーンがあるじゃん?ほら、主人公の仲間が敵に銃で撃たれて、大量に血が吹き出ちゃう場面」
俺は過去の記憶を調べる。確かにそんなようなシーンがあったような記憶が……。
……いや、あったっけ?
手に顎を置いて足を組んで考えてみたが、やっぱり浮かばない。
「あった。あったわよ。何回も見てるんだから、私」
「分かった。分かったから」
俺は感情が高ぶっている湯島を
「おい、病人。あんまり興奮すんな。いきなり俺の目の前で倒れられても困るからな。……で、なんで白浜にこれをあげちゃダメなんだ?」
「それは……」
その時、白浜という一人の女の子に関する一つのタブーが言葉にされた。
「彼女の家族、彼女の目の前で交通事故で死んだの」