俺は知っていた。白浜舞という一人の無垢な少女はとても脆く今でも危うい存在だということを。そして、それがなぜだかということも知っていた。
だけれど、俺はその情報を湯島からも貰いたかった。確かに俺は神様から白浜に関することの情報を聞いた。けれど、それはあくまで情報であり、彼女の心情ではない。
だから、湯島からも情報を聞きたかった。彼女は白浜とも仲が良い。湯島はそんな彼女の心情を知っていると踏んで、俺は彼女にプレゼントの話を持ちかけた。
白浜にこのDVDをあげるのはタブーだと知っていても。
「なぁ、白浜ってさ、目の前で家族が亡くなってしまうのを見たんだろ?」
俺のその人を気にしない態度と口調を聞いて彼女は俺を睨んだ。
「あんた、全然驚かないわね」
まるで彼女は探るように俺を見てきた。俺がこの情報のことを知っているかのように思ったのか、彼女は俺に「知ってた?」と問いかける。俺はその質問に対して首を振った。
「ふ〜ん……。まぁ、いいけどさ、あんまり舞ちゃんにはそのプレゼントを見せるのはおすすめしないわ。いや、っていうか絶対にダメ」
彼女は俺が白浜にこのプレゼントを渡すのを反対する。それは親友として彼女を思っての行動である。
白浜はこのプレゼントをもらっても喜ばないだろう。それより、このプレゼントを見ずに捨ててしまうかもしれない。なぜなら、それはこのプレゼントを見てしまうと嫌なことを思い出すからである。その嫌なことが彼女の恐怖となっている。
血と車に対しての恐怖症。それは彼女が幼き頃に見た事故の記憶を髣髴させてしまうからである。
でも、なぜ彼女があんなにも気持ちのこもっていない笑顔で笑っていられるのかが分からないのだ。だから、俺は湯島からその情報を聞きたい。
彼女がなぜあんな笑顔を作る女の子になってしまったのか、その心情が知りたいのだ。
「お前さ、白浜の笑顔、どう思ってる?」
「どうって?」
「いや、だから、その……。気持ち悪くね?あの笑顔。まぁ、前まで俺はそんな白浜に惚れてたんだけどさ、なんかさ、その……」
俺は黙ってしまった。そんな俺を見て彼女はため息をついた。
「あんた、今、堂々と宣言してたわね。前までは好きだったけどって。その話、今初めて聞いたわ」
「えっ?マジで?言ってなかった?」
「言ってないし、一度も聞いてない」
彼女は微笑みながらテーブルの上に置いてある折り紙で織られた鶴を取った。その鶴は上手に作られていた。きちんと左右対称に織られている。
「これね、舞ちゃんが織ったの」
「へぇ。……で?」
「なんか、その言い方イラっとくるわ。……まぁ、それはいいとして、彼女はこの鶴をここで織りながらあることを言っていたの。何だと思う?」
何だと思うか?
……。
……いや、そんなのわかんねぇって。俺、白浜じゃねぇし。
湯島はポカンとした顔をする俺を見て、呆れながらこう言う。
「……はぁ。まぁ、分かんないか。舞ちゃんはこう言ったの」
『私だけ、間違えて生きちゃった人ですから』
その言葉はとてもいいようには聞こえなかった。一人の女子高校生が、笑いながらそう湯島に言う光景はすぐに想像できた。
想像できたということ自体がまずおかしい。
彼女が平気で笑いながらそう言うだろうと想像できるその現実が、俺にはとても怖かった。