『私だけ、間違えて生きちゃった人ですから』
湯島の目の前で彼女は折り紙で鶴を織りながら言った言葉がそれだった。彼女は湯島を『生きるべき人』として捉えていた。そして、自分を『間違えて生きている人』として見ていた。
彼女はその言葉を平然と何のためらいもなく口にした。湯島はその言葉に驚いたが、白浜の事情を知っているから「そんなことないよ」の一言でサラッと流した。
いや、その場で、もし俺みたいにガミガミと喰いつくようなら、白浜は憤慨したであろうか。ただ、少なくとも湯島は自分も自分だから、相手のそういう不幸さをすんなりと受け入れられる。
別に俺が特別に幸せな人生を謳歌しているわけじゃない。けど、他のみんなと比べたらまだマシなのかもしれない。
……マシか?俺の今まではマシなのか?
まぁ、そこはなんとも難しいところではある。まだ高校一年生の俺がそんなことを考えるのは無理な話である。
—————そう思い込んで、心の中で俺は過去に起きた淡い熱をそっと記憶の引き出しに閉じ込めた。
「なぁ、湯島」
「ん?何?」
「白浜ってさ、事故のせいで血とかカーチェイスみたいなのがダメなんだろ?」
「まぁ、そうね」
白浜は目の前で家族が死んでゆく様を見た。それは幼き日の彼女にとってはとても辛く、心の中に跡をつけてしまった。その跡は今でもくっきりと生々しく彼女の顔に出ているのだ。
普通の何気ない笑顔。その笑顔は白浜舞という一人の少女にとっては人生を縛り付けてしまうほどの呪縛に等しい。
俺は白浜が作ったらしい折り鶴を見ていた。湯島はそんな俺を見てこう聞いた。
「ねぇ、柚子木」
「あぁ?何?」
「柚子木はさ、舞ちゃんを過去から解き放つことが出来ると思ってるの?」
湯島がそう俺に聞くのは、湯島が無理だと知っているからである。
彼女も白浜を過去からの呪縛から解き放とうとした。彼女のおかしいほど変わらないその笑顔が不気味に思えたからである。彼女は白浜とお喋りして、過去の話を聞いて、相談に乗ってみた。
けれど、無理だった。白浜は何にも変わらなかった。白浜に繋がれている鎖はとてつもなく頑丈で、湯島には無理だったのだ。
湯島は俺のことをなんだかんだ言って、高く評価している。けれども、今回のことに関しては、俺でも無理だと思っているのだろう。
それでも、俺はこう答えた。
「出来るって思ってる」
「本当に?」
「まぁ、やれるだけやってみるわ」
やれるだけやってみる。何とも曖昧で、何とも嘘くさい言葉。
白浜の心はそれほどまでに固く閉ざされているのだろうか。そう、俺もたじろいだ。
「ふ〜ん。そう。まぁ、頑張って……」
頑張って。まるで俺が失敗するかのようである。しかし、湯島の話を聞いている限り、俺は本当に白浜を過去から解き放つことができるのだろうか。
俺は少し甘く見ていたのかもしれない。白浜という少女の心の中に潜む大きな闇を。