北瀬が未だに湯島のことを一途に想い続けている。そんな辛い話は湯島にとってどのようなものなのだろうか。辛くて、嬉しい話。自分も好きな人に愛を示されて、なぜこんなにも辛く感じないといけないのか。嬉しく感じてはならないのだろうか。
彼女は自分の人生を悲観した。まだ、16歳までしか送っていない短な人生を悲観した。それでも、彼女は悲観することのできるほどの人生を過ごしている。
今までの16年間、ろくに運動ができたことなんてない。みんなと一緒に遊びたいのに、彼女が見ていた景色はいつも遠くから。
みんなが走り回るなか、彼女は一人でお絵描きに興じ、みんなが心から笑うと、彼女は表面で笑う。
悲観したくなくても悲観してしまう。そして、挙げ句の果てに好きな人に会うことを拒んだ。それは相手が好きだから。
自分勝手なのは分かってる。相手に迷惑をかけていることぐらい。でも、それでも相手のことが好きだから。だから、その人にはもう忘れてほしい。忘れて、他の人を好きになってほしい。そうすれば、悲しい思いをするのは彼女だけで済むから。
「もう、私なんて忘れてほしいんだよね。だって好きな人には、もっと思いっきり楽しんでほしいじゃん?私なんかと一緒にいるよりさ、もっと他の人見つけて笑ってほしい」
「だから、お前は北瀬に会いたくないと?」
彼女は首を縦に振る。机の上に乗っていた折り鶴が横に倒れる。
「これも一つのアイの形ってやつかな」
俺に向かって笑みを浮かべた彼女の表情は虚空なものであった。とても脆く、触れたら壊れてしまいそうなその笑顔。白浜とは少し違う笑顔がそこにある。
その笑顔の裏には何があるのだろうか。哀しい顔が俺の頭の中にふと浮かんだ。綺麗事だけをただ並べて、自分の本当の心の底からの叫びをしまい込んだ彼女の手足は少しだけ震えている。目頭には潤いが出てきた。
俺はそんな彼女を見て、何となく一つ質問をしてみた。
「なぁ、できるならさ、みんなと会いたい?」
俺の突拍子もない質問に少し湯島は動揺した。それでも彼女の答えはひとつしかなかった。
「そりゃ、会いたいよ。これ、即答だから」
俺は彼女のその質問の答えをそっと心のノートに書き留めた。
そりゃ、会いたいよな。だって、友達だからな。
俺は彼女に笑いかけた。
「まぁ、これから、もっといっぱい人が来ると思うから。覚悟しとけよ」
「ははは。それは嬉しいね」
俺は時計を見た。そろそろ時間である。俺は学校指定のカバンを肩にかける。
「もう帰んの?」
「うん。明日は白浜の誕生日会だし」
「そう」
彼女は手を振る。俺はそんな彼女に手を振り返す。別れの言葉を口にして、俺はその病室から出た。
俺は病室を出て、少し歩いた。そして、そこで止まり、近くにいた人にこう声をかけた。
「ほら、行くぞ。泣き虫」
「……会えるんだったら、こんなに悲しい思いなんてしてないよ……」