部屋の中で熱唱する北瀬と赤石と倉本。その三人を見ている俺と白浜と小深。俺たち三人は歌い疲れてもうヘトヘトである。
「こいつらよく歌えるな」
俺は小深に話しかける。小深は自慢の胸の下で腕を組む。腕の上に胸が乗っているのが妙にエロい。
「まぁ、この三人は歌、上手かったし。楽しいんじゃない?」
そうなのである。今、大熱唱をしているこの三人、地味に歌が上手いのである。まぁ、赤石は元々歌が上手いっていうのは知っていた。が、問題はその隣にいる北瀬である。
北瀬は遊び人だから、友達とかとよくカラオケに行くのだ。だから、彼はカラオケに行っている回数がこの六人の中でダントツに多いのだ。だからなのか、彼は歌うのがとても上手い。これが、経験の差なのだろうか。
小深は北瀬を見た後に俺を見る。まるで俺と北瀬を見比べているかのようである。
「柚子木はそんなに上手くなかったね」
余計なお世話である。まぁ、しょうがないって言ってしまえばしょうがないことだ。俺は北瀬と違って、基本インドア派であり、あまり友達に遊びに行こうとか言い出すタイプでもない。ましてや、カラオケなんて全然来たことがないし、最後に来たのは九月の上旬である。
あんまりカラオケ来たことがないから、歌うって行為自体をあんまりしない。だから、少しだけその行為が新鮮にも感じる。
「なぁ、お前は何で歌わねぇんだ?」
俺は小深にそう聞いた。小深は足を組んで、膝の上に肘を置いて頬杖をついた。そして、少し昔を見るようにこう呟いた。
「私は歌なんて興味ないのよ」
彼女は前までずっとグラビアアイドルとして仕事をしていた。人気があったから、多忙な毎日を送っていた。そんな彼女にとって歌なんて、声なんてどうだって良かった。どうせ、グラビアアイドルなんて見るのはほぼ男。その男もどうせ体しか見ない。まぁ、それがグラビアなのだから、別にそれについてとやかく言うつもりはなかった。
歌なんて必要ない。体でいいのだ。それは彼女の考え方に少しだけ根付いてしまっているのかもしれない。グラビアを辞めた今でも、彼女は少しグラビアに囚われているような気がする。
「なぁ、お前さグラビア辞めたろ?なら、別に歌ってもいいんじゃないか?歌って自分を曝け出してもいいんじゃないか?」
「いや、いいよ。私は見てるだけで楽しいから。みんなで笑って、バカみたいに楽しんでいるこの空間が楽しいから。その時だけは、体とか心とかそんなもの関係なしに楽しいし」
彼女はそっと笑いかけた。ずいぶんと前よりも柔らかい笑顔をするようになったものである。
昔は体のことでいじめられ、グラビアになったら彼女は体だけを必要とされて、彼女の心はずっと必要とされていなかった。だから、このくだらない空間を拠り所としてしまうのだろう。
俺たち学生の特許である。
「まぁ、いいんじゃん?でもさ、俺、お前の歌声も聞いてみてぇなぁ」
俺がそう彼女に言うと、彼女は少しだけ口を籠らせた。
「……まぁ、歌いたくなったら……」
「おう!」
曲が終わった。次は俺の番である。
「よっしゃ!今度こそいい点数を取るぞ‼︎」
結果、さっきよりも惨敗。